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天涯地神伝  作者: 真白 歩宙
結城の章

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謀略の乱 其の七

それから二日後の朝、何やら米を蒸かす良い匂いが立ち込めていた。

陸遜も呂蒙も顔を見合わせ、何をしているのかと尋ねるばかり。

しかし、結城はそれに答えず楽しそうに蒸篭(むしかご)を洗うだけ。

無論、そこには約束の期日が迫った孔明や、部屋に来ていた商人の姿もある。


「ユウ殿これは!」

「小喬様に元気になって頂きたいから、私が料理しているのですよ。」

「まさか此れが都督に・・・」

(いたずら)に考えても仕方ないので()さ晴らしです。無粋(ぶすい)な事を言って小喬様を悲しませないでくださいよ、陸遜殿?」


結城はそう言ったが、調理方法は二人が知るようなものではなかった。

臼に蒸かした米を入れて(きね)()く。

ぺったん、ぺったん、と男達が()くと滑らかな赤いかたまりが出来上がった。


ここら一帯は赤米といって古代米と白米を栽培している。

特に赤米は熱を加えると粘性が出て、もち米のような感じになるのだ。

良く赤飯の赤を出すのに小豆と一緒に用いられる。

それを蒸かして(うす)(きね)で搗けば・・・・察しのよい方はお分かりだろうが、餅ができる。


出来立ての餅を丸くしながら皿に置く。

小喬も面白がって捏ねだすしまつ。

商人の一人が(あらかじ)め結城が煮ておいた小豆を皿に盛る。

もう一人の商人が大鍋(おおなべ)に野菜を入れてぐつぐつと煮ていた処へ続けざまに餅を入れていく。


周瑜邸の庭先は宴会(えんかい)のような騒がしさになった。


「陸遜殿、周瑜殿をお呼びしない?」

「え・・・・」

「家主の庭先で小喬様のためとは言え料理を作ったのだから、周瑜様を呼ぶのは当り前でしょう?」

「で、ではっ」


その(すき)に孔明に耳打ちをする。


「孔明様、少し・・・・呂蒙殿の気を()らして頂けませんか?」

「良いでしょう。」


孔明は今までの経過から、結城が活路(かつろ)を見出しその実践を行っていることを喜んだ。

自分が手を下さずとも、大喬小喬を味方につけて料理人から何らかの方法で調理法を得たのだ。

その智恵(ちえ)もさることながら、陸遜・呂蒙の両者に偽りの報告をさせている。


「ああ、商人のお二方・・・・流通の話をありがとう。お礼にこの餅をあげる」

「いえいえ、手前共は・・・」

「彼の人にくれぐれもよろしく・・・・この調理をするのは三ヶ月後ですよ・・・」

「はい。我々も良い勉強になりました・・・・・・」


最後の方は密談のような小声になっていた。

商人は礼をすると足早に去っていった。


これで彼女達姉妹を(とが)める事は出来なくなる。

結城は毅然(きぜん)とした態度で周瑜を待った。



「これは・・・・・・」

「さぁ、どうぞ周瑜殿」


(あん)の乗った皿が周瑜の前に出される。

(いぶか)しげに見て周瑜は(はし)を持つ。持ったのだがなかなか手をつけない。

もどかしさを感じつつも、結城は笑顔で彼に勧める。


「朝、早起きをして周瑜様と小喬様の為に作ったのです。見てくれは悪いけど美味しいですよ?」

「うっ・・・うむ」


皆、周瑜の動向を見守った。

主が食べない限り、その以下の者は手をつけれないのである。

見た目が黒い食べ物など誰も食べたくないのかなと結城が溜息をついた時、それは口に運ばれた。

ゆっくり噛み締めるように彼は口の中で転がして味わった。


「ほぅ、これは・・・・」


意外な感嘆が出たのを合図に各自口へ運んだ。

小喬は、まぁと口元を押えて驚いている。

伸びる餅は用意に噛み切れる物でもなく、かといって嫌味な感じでもない。

当に不思議な食べ物であった。


「おや、公瑾殿・・・斯様な場所で・・・なんと、陸遜殿・・・呂蒙殿まで!」

()・・・・っ・・・・」

「あ、魯粛(ろしゅく)殿、今・・・周瑜殿に例の件で味見して頂いてるところなのですよ。」

「!!!」

「おお、これがそうですか。」

「ええ、餅って言うんですけど。」


(むせ)る周瑜達を他所に、結城は魯粛に説明を始めた。


「米を加工して、日持ちする保存食にしたのと手軽に調理できる形態にしました。」

「ほほぅ、これがそうですかな?」

「いいえ、これは小喬様へのお見舞い。あの鍋の中に入ってます。」


魯粛は興味深げに大鍋に近寄る。

そこからはなんとも言えない良い香りが漂っている。


「では皆様にお配りしますね」

「おや、周瑜殿・・・如何されましたかな?」


恨めしそうに睨んだ周瑜であったが、時既に遅く目の前に(わん)が置かれていた。

出された椀の中には野菜の他に白い物が浮いている。

見た目は上品で、兵士の食べ物とは縁遠そう。

孔明すらも、椀の中を見た時にほくそえんだぐらいなのだ。


「周瑜殿、これが私にしか作れない調理法です。」

「・・・・・・(はか)ったな・・・」

滅相(めっそう)も無い。ただ一人で熟考(じゅくこう)を重ねたかっただけです。」


こう言われては身もふたも無い。

食べながら周瑜は切り替える。これ以上この件に論議は必要ない。

彼にとって、調理法が見つかろうと見つからまいとどうでも良い事。

結城が手に入るか、孔明が失脚(しっきゃく)すれば良いのだから。

また、調理法が見つかっても結城を手にすることは、別の策を講じれば容易いのだと 最初からどちらも在りえると考えていた。


さして警戒(けいかい)する風もなく、周瑜は椀に箸をつけた。

一口(すす)って驚く。

雑多な汁物であったが野菜から旨味を出して、餅が甘く感じる。

先ほどの餡にまみれた物より、数段体に馴染む。


「これがその原形です。」


搗きたての餅を平たい丸型にした物を見せる。

戦場では手の凝った物は食せない。大人数であれば尚更だろう。

結城はこの餅の力について説明した。


「蒸かして搗いているので、疲れた体には心地よいくらいでしょう。」

「だが、これは堅いが・・・・」

「汁で煮込めば柔らかくなります。野菜や汁と一緒に食べれるから体も温まります。」

「・・・・保存はどうなのだ」

「乾燥しても食べれます。本来は冬に作って食べる非常食なのです。」


最早、彼の付入る隙はなかった。

一通り食べ終え、周瑜は静かに席を立った。


「今日のことは孫権様に報告しておく。後日、ご指導願うことになるが」

「はい」


恭しくお辞儀(じぎ)をする結城を見つめ、目の前の娘をどうしてやろうかと策を練る。

その時だった。

今まで一言も話さなかった孔明が口を開いたのである。


「魯子敬殿、私に軍船二十隻と(わら)の束をお貸し願えないだろうか?」

「おお、ようやく劉備殿の所へ矢の準備に向かわれるのですな。しかし(わら)とは?」

()びては使い物になりますまい。」

「では、私が先導して共に参りましょう。」


魯粛は孔明の申し出を快く引き受けた。

すかさず結城は孔明に願い出た。


「孔明様、私も連れて行って下さい」

「何を言う、貴女は調理法の伝授があるだろう!」

「周瑜殿、それならば此方のお屋敷の調理人に教えてあります」

「何だとっ」


(さえぎ)った周瑜の言葉を返し、結城は孔明を見る。

彼は羽扇をひらひらさせて頷いているだけ。


「用が済んでいるのであれば、私と共に来なさい。」


孔明の一言で幕は閉じた。



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