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天涯地神伝  作者: 真白 歩宙
結城の章
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神芽 其の二

三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。


 何故なのか、いつもこうなのだ。柚は自分の行動がどれだけの余波を与えるのか考えていない。呆れるを通り越して、少し見放したい気持ちにさえなってしまう。


 勝手をやるわりに人に依存して生きていく彼女へ、結城は苛立(いらだ)つ心をそっと奥へしまいこんだ。それは自分の心が狭いからなのだと。


「ここ・・・・・・ユキ、ここじゃな・・・・・・あれ?」


 3人で探していた筈だったが、親友の2人の姿は無い。いつの間にか逸れてしまったのだろう。不安になりつつも、辺りを見回して薄暗い回廊へ進む。


 ここが禁域でない保証は無い。


 だが、見つかる前に出れば”(しの)げる”のだ。罪悪感が頭を擡げたが、目的は柚を探し出す事。考えている猶予は無かった。


 ヒタヒタと暗い廊下に蝋燭(ろうそく)が灯され、中央付近に重厚なドアが視界に入る。冷たく湿った空気が、只ならぬ気配を感じさせて結城は逃げ出したい気持ちになった。


「お願い・・・もう・・・・・・出てきて柚・・・」


ギィィィ―――


 祈るような気持ちで呟いた時・・・目の前のドアが音を立てて開いていく。叫びたくなる気持ちを抑えて結城は首を振って恐怖に耐えた。心拍数は上がり意識が朦朧(もうろう)となってしまう。(のど)がカラカラになって息苦しさにへたり込む。


 薄目でドアを見れば、開いたドアから薄暗い明かりが差し込んでいる。何はともあれ、この漆黒(しっこく)の闇から解放された喜びに結城はホッと安堵する。


「何やってるの、ユウ?」

「ひぃ・・・」


 突如、声をかけられた結城は声にならない叫び声を上げた。しかし、その声が聴きなれた柚のものだと判ると、途端に泣き出した。


「ヤダ・・・泣いてるの?昔から暗いところ嫌いだったものね。」

「・・・・・・っ・・・ぅ・・・・・・」


 苛立たしさと安堵感、相対する気持ちが混ざり合い複雑な心境を作った。柚に会えた喜びも束の間、彼女は先ほどまで居たであろう、ドアの向こうへ結城を引っ張っていく。


 これには結城も泣いていられる筈も無く、体を突っぱねて抵抗した。


「柚、此処には禁域(きんいき)・・・ええっと、入ってはいけない場所があるの。」

「え、表示が無かったけど。」


 表示が無ければ良いと言うものではない。モラルの問題だ。結城は小さく頭を振って『いけない』と制する。そうしてから、結城は口元を押えるように息を呑んだ。


「どうして?いっつもユウは私の意見を聞いてくれない。表示が無いんだから平気なの。」


 こう言い出したら退かない。


 柚は真っ向から否定された時、我を押し付ける癖があった。自分が踏んではいけない地雷を踏んでしまった苦さ。


 その間も彼女は体をグイグイと引っ張ってドアの向こうへ連れて行こうと進んでいる。結城は彼女を見つめてドアの先を見た。


― 落ち着かなければ ―


 彼女がこれだけ強引に結城を連れて行こうとするのには理由がある筈だ。そう、きっと彼女の興味を引く物が。自分から禁を犯す心苦しさを隠して抵抗をやめた体は、難なく柚の先導で部屋の中に消えた。


「ここ・・・・・・」

「凄いでしょ。見つけた時にビックリしちゃって、でも変わった調度品よね。」


 ランプに照らされた部屋の中には、古い調度品が飾られていた。一つ一つに顔を近づければ、翡翠のかんざしのような物や錆びた銅版の鏡が正しく置かれている。両脇の棚には東洋の書物が並ぶ部屋。


― 昔の交易品・・・ここ宝物庫 ―


 目にした物と今までの知識を総動員して考える。見た目は中世時代の物とは思えぬ古さ。同時代のものを取引する取り決めも無い。寧ろ、古い物が好まれたとしてもおかしくない。


 世に出ぬ歴史の産物。


「結城、見て!このタペストリーきれい!」

「柚、何やってるの!」


 感慨に耽っていた結城を現実に引き戻した柚。彼女は最奥の中央の壁にかけられた布を素手で触っている。


 慌てて彼女の元に走り寄った瞬間、ドアが不気味な音を立てて閉まった。それと同時に部屋のランプが音も無く消える。


キャァァァァァァッ―――――


 柚の叫び声の後に部屋は真っ白な光に包まれた。


読んで下さって、ありがとうございます。

毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。

貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。

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