東呉の誘い 其の三
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
「大丈夫ですか?」
不意に掛けられた言葉に結城は固まった。
聞き覚えある声だったからだ。
「伯言殿?!」
「いやぁ、覚えていて下さったのですね」
先だって会った時とは打って変って、伯言の身なりは官職にある者の格好。
結城は不思議そうに彼を見つめた。その視線に照れながら笑う伯言。
それでも、結城の腰に手を回して立たせると人込みから外れた場所にやってくる。
「いや、でも珍しいですね。女性が使者に立たれるなんて」
「な・・・・私は男子ですっ」
「・・・・・これは、失礼しました。ユウ殿の・・・・物腰がたおやかなのでつい・・・・」
「・・・・・・・」
「許してください」
伯言は平謝りした。
離れようとする結城を見て、初っ端から苛めすぎたと苦笑いする。
結城に嫌われては意味が無いのだ。
心が高ぶっているため、過剰反応してしまう目の前の娘は伯言には爽やかに映った。
「貴方は孔明殿とは違って外交は初めてでしょう。だから心細く思っても仕方の無い事ですよ」
「伯言殿・・・・・」
伯言は結城の好む言葉を選んで使った。
それは功をせいしたらしく、結城の警戒心は解けた。
実際、冗談で緊張を和らげてくれたの?などと勘違いをしたくらいなのだから。
「私の名は、陸遜 伯言は字です」
「・・・・呉の・・・・呉の官職の方だったのですか?」
「はい。すみません」
穏やかに名乗り直した陸遜は、柴桑城までの道のりを案内すると言い出した。
真実を聞いて衝撃的ではあったが、自身が男と偽っている事に気が咎めて首を横に振る。
「仕方の無い事です。私用で河にいらしたのを呼び止めてしまったのは私なのですから」
「そう言ってもらえて嬉しいですよ。ああ、堅苦しいことは止めにしませんか?」
「え・・・・」
「公用以外は言葉遣いなど気にしないで、良いですね?」
「あ、はい。」
微笑んだ結城を見て、陸遜も笑う。
荷を持って行き交う人々。
長江の恩恵を受けて、町は活気に溢れていた。
町娘達は陸遜と結城の姿を見ると、黄色い声を出して遠巻きに見る。
傍から見ると、陸遜は知将のような切れのある美丈夫。
その横に性別を越えた、線の細い清らかな美少年が並んで歩いているように見えるのだろう。
しかも、時折みせる陸遜の優しさ。
結城に町を説明をするために踏みとどまれば、娘達は何を話しているのか耳を欹てる。
二人が笑えば、ほぅっと溜息が広がる。
「ユウ殿、あの屋敷は我軍の都督 周瑜公瑾殿の住まい。」
「と・・・とく。」
「直に会う方ですよ。」
「周瑜都督・・・・」
「きっと都督や他の参謀方も貴方を気に入るでしょう」
「え・・・・?」
「ユウ殿は素直だから」
言われた意味は判らなかったが、誉められたのは確かで。
結城は赤面しながら先を急いだ。
柴桑城の門を前に結城は、すっと息を呑んだ。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




