東呉の誘い 其の二
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
― 怖い・・・・どうしたらいいの ―
結城は柴桑へ向かう船から、移り変わる景色を見て溜息を吐いた。
顔色が悪くなるほど 心は揺れていた。
この船が着けば 孫権との謁見が控えている。
逃げ出したいほど 気持ちは高ぶっていた。
「怯えなくとも事は私が成す。貴方は謁見については何も考えなくてよい」
「こ・・・孔明・・・さま」
優しく抱きとめて結城の涙を拭う。
大河の流れは緩やかで、小波のような音が微かに聞こえてくる。
船室の中で孔明は結城の頭を撫でた。
結城の振るえる手が孔明の上着を握り、背負わされた重責の大きさに恐怖しているのだと見て取れる。
腕の中に収まった娘は、非力でか弱い。そんな彼女にこれ以上何をさせるのか・・・・・
自分だけ赴けば済む事だったのだと、今更ながら後悔する。
「何も武は戦場だけに非ず。貴方は私が守ります」
「孔明さ・・・ま」
抱すくめた孔明は、結城の体から力が失せていくのを感じた。
見上げる顔は偽りの無い娘の顔、それは罪なほどに孔明の心をくすぐる。
「怖い・・・です。でも、孔明様を信じます」
「怖ければ、私だけを見ていなさい。光は平静であって、初めて輝くのですから」
「はい・・・・」
結城にとって、この時代に来て始めての抱擁だった。
勿論、恋愛など意識している二人ではなかったが、お互いに何かを感じていた。
ギィィ――― ガタンッ
船が傾ぎ、船着場に到着した。
孔明は結城から離れると、船を降りていく。
結城もその後に続いたが、船場の好奇の目に気圧されて足取りがままならない。
「諸葛孔明殿、お待ちしておりましたぞ」
「魯 子敬殿、手配して頂きありがたく思います」
「ところでユウ殿は?」
魯粛は板場を降りた処で青ざめている結城を見た。
「船酔いなされたか。謁見までまだ間があります故、知人の処で休まれるか」
「そうして頂けるとありがたい。重ね重ね申し訳ありませぬ」
「孔明殿は私と柴桑城の子瑜殿の所へ」
何処からとも無く現れた使いの者に結城を預けると孔明を連れて馬車に乗った。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




