表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天涯地神伝  作者: 真白 歩宙
結城の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/147

臥龍の眼 其の一

三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。

「おお、母上っ!」

元直(げんちょく)っ!」


 (いかだ)から船に移った母親は船に息子の姿を見つけ大きな声で叫んでいた。その横には若い武将と(いか)つい武将が二人立っている。


其方(そのほう)が軍師殿の申された曹軍の参謀(さんぼう)か・・・・・」

「母上、お疲れでしょう・・・・さ、此方は玄徳様と義兄弟の(かん) 雲長(うんちょう)殿とご子息の(かん) 子伯(しはく)殿です。」


 関雲長とは関羽(かんう)のことで、子伯とは関平(かんぺい)のことである。紹介しながら自分を奥へ進める息子を見て、母親は血相(けっそう)を変えて趙雲(ちょううん)の元に走りよった。結城を抱きしめ、錯乱(さくらん)したように泣き叫ぶ。


「おお、元直(げんちょく)・・・この方は全てを捨てて、見も知らぬこの私を助けて下さったのですよ・・・・それを!」

「母上、判っております・・・・ですが・・・・。」

「母御よ、策略ということもある。」


 関羽は長い(ひげ)を手で()きながら、母御をなだめた。


子龍(しりゅう)殿、貴方は司馬先生から何も聞いていないのですか?!」

「私が知り申しているのは、刀傷(かたなきず)があることだけです。後はユウ殿が軍師殿と知り合いとのことだけ・・・・。」


 母親は眩暈(めまい)を起こした。先程の結城への応対でおかしいとは思ったのだ。

 見れば、縄で傷を圧迫(あっぱく)されている結城の顔は蒼白(そうはく)だ。母親は腹をえた。


「元直殿、貴方は私を恩知らずにしたいのですか・・・・!」

「・・・・いえ、決してそのような・・・。」

「お前も子龍殿も気付いているのでしょう・・・・その方は、そのか弱い体で・・・・自害しようとした私を止めてくださった。」

「!!!」

「その刀傷は・・・・この母が付けてしまったものです。」


 驚く息子達に今までの経緯(いきさつ)を語る。結城が女である事だけを除いて・・・。

 傷を負った状態で生きる事を諭し、逃げる手立てまで教授してくれたと。

 その後、その体を引きずって井戸へ身投げしたように偽装(ぎそう)までして、自分を守ってくれたのだと。


「この子は、腹を痛めて生んだ子供ならば、生きて死ぬ寸前まで息子の生き様を見届けよ、と諭してくれた。」

「なんと・・・・。」

「途方に暮れた私を、大切なのは今、何が出来るか?何をすべきかだと勇気付け、身に付けていた上着をくれた・・・・。」

「すまぬ・・・・母御殿・・・勘弁(かんべん)して貰えぬか・・・・拙者(せっしゃ)よう判った。」


 関羽は呆然(ぼうぜん)となった徐庶の肩を叩き、母に頭を下げた。趙雲は縄を解き、優しく抱き上げると作られた寝床に結城を寝かす。

 乱世ではあらゆる画策(かくさく)が用いられ、疑心(ぎしん)に取り付かれるものが多い。ましてや、曹操に追われている状況下では仕方のないことだった。

 孔明の書簡にも、当方へ来られるならば覚悟されたしと書かれていたのだから。


「ん・・・・」

「ユウ殿っ!」


 必死に意識を繋ぎとめる母の姿に、元直は深い(きずな)を見た。信頼しきっている二人。


「孔明殿のところには医師もいます。母上・・・安心されよ。」

「おお、徐庶・・・この子を、助けてっ・・・・。」


― 徐庶?・・・・・ああ、母御様・・・・会えたんだ・・・・ ―


 朦朧(もうろう)とした意識の中で結城は聞こえてきた単語から、会えたのだと理解した。

 力なく震えて・・・(まぶた)を開けようとする。朝日の眩しさに結城は小さく溜息と共に言葉を発した。


「良かった・・・・・」

「ユウ殿っ、気をしっかり持つのです。」


 悲壮(ひそう)な顔をして必死に声をかける彼女に、結城は微笑んで手を伸ばす。


「大丈夫・・・私は死にません。母御様、御休みになって下さい・・・・お体がきつかったでしょう?」

「何を言いますか・・・・そなたこそっ!」

「何だか・・・お母さんみたい・・・・・。」


 彼女に(もた)れるように眠った結城を見て徐庶は涙した。

 母の命が救われただけでも嬉しいのだが、こうやって無防備(むぼうび)(した)われているのを見れば、母を通して自分もどれほど結城に慕われているかが伺えた。

 徐庶は自身の上着を脱いで結城にかける。母と目が合い、この方は生きる為に劉備様の元に来たのですと伝える。


 それを見ていた関羽と関平・趙雲が涙ぐむ。自身の状況を省みず、相手を思いやる心を仁徳(じんとく)と受け取ったのだ。



「軍師殿、ユウ殿・・・・御連れ申した。」

「関将軍ご苦労でした。報告を玄徳様に。」


 趙雲の腕に抱かれた結城を見て、孔明は一礼をする。彼らの雰囲気から関羽・関平・趙雲の三人が良き理解者になったのだと確信し微笑む。

 関羽や張飛ちょうひは人柄は良いのだが、外に向けての疑心(ぎしん)が多い。(ゆえ)に関羽と彼の養子の関平を立会人として同行させた。


 趙雲は確実に任務を遂行(すいこう)して人心(じんしん)を汲みとる才に長けている。

 まず、徐庶と母御が説得すれば、(あらかじ)め渡しておいた知識を繋ぎ合わせて立ち回るだろう。

 特に徐庶は、母を迎えに行く役を背負っているが、感情的にはならない。

 (むし)ろ、母が居るからこそ冷静に三人の心理を分析して、全員が結城を迎え入れられるように操作していくことができる。

 そこまで計算しての配役だった。


 孔明は人の心の移り変わる様を客観的に見れる達人なのだ。そこに感情は、はさまない。

 必要最小限度の配慮をしながら円滑に組織が回る(すべ)を心得ている所は、ある意味 仲達と類似していた。



「・・・・・ここ・・・は?」

「おお、気がつかれたかユウ殿よ。」

「・・・・?」


 結城は慌てて掛けていた衣を引き寄せた。

 直ぐ傍に見知らぬ男が覗き込んでいるのだ、慌てるのも無理は無い。


「ユウ殿、驚かなくても大丈夫です。此方が(りゅう) 玄徳げんとく様です。」

「あ、佐倉ユウと申します。」

「ここは漢水(かんすい)。これから船で夏口(かこう)へ向かう。孔明よ、ユウ殿は長旅で疲れているようなので、後は頼んだ。」

「はい。」

「か・・・こう?」

江陵(こうりょう)への道は閉ざされました。恐らく曹軍が制圧しているでしょう。」

「制圧・・・。」

「河を下り、夏口へ向かうのです。」


― 長江って日本の方へ伸びているのよね。だとすれば・・・ ―


高校で習った世界史や世界地理を思い出しながら 予測で返答する。


「東・・・に向かうのですね。」

「そうです。貴殿はゆっくり休まれるように。」

「あの‥‥。」

「礼は()りません、私も元直も貴方に助けられたのだから。」


 そう言うと、孔明は薬湯(やくとう)を運ばせて部屋を出て行った。




 結城はそのまま懇々(こんこん)と三日間眠りつづけた。



臥龍の眼の始まりです。

ここまで読んで下さって、ありがとうございます。

毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。

貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。

誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ