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天涯地神伝  作者: 真白 歩宙
結城の章
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神芽 其の一

三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。

 白い壁に掘られた彫刻、天に聳え立つ教会の塔。遥か頭上から差し込む光りは、ステンドグラスの色彩に彩られた淡いベール。


 壮大な景色の前に結城は、ただ静かに(たたず)んだ。厳粛(げんしゅく)、そんな気持ちがふっと何処からか湧いてくる。中央の祭壇に祭られたキリストに、悠久なる思いを込めて祈る。


「まぁ、ユウったらこんな所に居たのね。」

「柚?」


 結城は苛ついている友達の柚を見つめた。


 先ほどまでの厳粛な気持ちがかき消され、妥協とこれから起こるであろう彼女の我侭に辟易(へきえき)する。


 学校で同じクラスメートだった親友ユキと柊とで計画した海外旅行。その企画に途中から強引に参加した柚は、(いささ)か来た事を後悔しているようでもあった。


「もう、こんな観光飽き飽き。それよりも面白い廊下を見つけたのよ!」


 結城の心中などお構い無しに勝手な御託を並べる。


 そう、結城は苦手だった。


 昔から他人との調和を望まず、自分勝手を行う柚に良い感情は持っていなかった。お嬢様として育った柚には協調性や、他者を思いやる気持ちが欠けている。高校時代、そのことで大分悩んだ時期もあったくらいなのだから。


 それでも今は社会人としての理性が彼女と向き合わせる。


 体面を保つ、それが心に化粧を施し素直になれない要因である事は否めない。本音で語り合ったらお互いに理解できるだろうか?


 それが出来たら悩みもしないし、苦しみもしない。 結城自身が一番感じている事でもあり、傷ついていることでもあるのだから。


「あんまり羽目を外すと大変よ?」

「だって、ユウが相手にしてくれないんだもの。」

「観光はしないの?」

「判った。ユキ達の所に行くから。」


 その言葉にチクリと胸が痛む。


 嫌いなのではない、ただ価値観が違う。それでも相手は共に居ようと言う。あの二人ならば、上手く面倒見てくれるだろう。そう思ってしまうのも口惜しいのだが。


「面白い廊下・・・」


 ハッとして結城は広間を後にした。


 この建物は今も昔も修道院として使われている。中世のヨーロッパでは様々な隠し回廊を作っていた時代がある。場所が場所なだけに柚が禁域に入らない可能性が無いとも限らない。いや、(むし)ろその危険性の方が高い。


 結城は逸る気持ちを抑えて柚の後を追った。


「柊、柚来なかった?」

「え?私達のところには来てないけど?」


 結城は胸に広がる不安を隠し切れず、二人に経緯を話す。その途中で柊が難しい顔をして唸った。ユキは深い溜息をして、一瞬だけ悲しそうな顔をしながらおどけて笑う。


「拙いわ・・・ここカトリックなのよ。禁域に踏み込んだら・・・」

「まぁ、居なくなったって言ってもこの中だし、探してみようか。」

「探さなくちゃ・・・」


 3人は嫌な予感を振り切って、寺院の奥へ進んだ。


 きっかけは、いつも向こうからやってくる・・・



人はすれ違う

様々な相対の中から

渡りえる術を学ぶ

人、之に惑い見失うなれば

人心を無くし

元来の姿を留めぬだろう


読んで下さって、ありがとうございます。

毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。

貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。

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