コンビニミミック
一階のコンビニで雑誌とコーヒーを買って外に出ると、出入り口横にゴミ箱があった。
四角い形の、何か入っていた段ボール箱をそのまま置いたようなゴミ箱だ。来る時にはなかった。店員はずっと中にいたし、僕もそんなに長い間店内にいたわけでもない。いつの間に置いたのだろうと思っていると、向こうからやってきた親子連れがゴミ箱を指さして何か言っていた。そのまま幼稚園くらいの女の子が近寄ってきて、ぽいと中にゴミを投げる。食べかけのお菓子だった。どうも落としてしまって捨てるところを探していたようだった。
親子連れが店内に入る。するとゴミ箱のふたがひとりでにぱたん、としまった。ゲームにあるようなアーチ型のふたがついている。そう、宝箱の形だった。
(へえ)
自動でふたが閉じるゴミ箱はいくつかあるが、この形はおしゃれだった。なるほどな、と思いつつ見ていると自動でふたが開いた。すると今度は通りすがりにタバコの吸殻が投げこまれた。また自動でふたが閉まる。しかし程なくしてがばっという感じでふたが開き、ぺっと吸殻を吐き出した。
(ええ?)
最初と同じようにふたが開いた形でゴミ箱はそこにあった。どういうことなのかと思っていると、自動ドアが開いて中から店員が出てきた。手に大きなカップラーメンのどんぶりを持っている。誰かの食べ残しのようだった。
「あ、いらしゃいませ」
「こんにちは」
店員はカジさんだった。カジさんはきょろきょろとあたりを見回し、地面に置かれたゴミ箱を見つけた。
「あ、いた」
カジさんはちょっとかがみこむと、どんぶりの中身をその中にじゃーっと注いだ。つゆはなみなみと残っていて、麺も半分くらいは入っていたように思う。カジさんはそれを全部ゴミ箱の中に入れてしまった。
「よし」
ぱたん、とゴミ箱のふたが閉まる。この時僕は初めてこのゴミ箱が生きていることに気がついた。いやこれはゴミ箱ではなかった。
「これ、なに?」
カジさんは空いたプラのどんぶりを片手に持ってうふふ、と笑った。
「わかんないんですけど、最近いるんですよ」
宝箱型の生き物なのだが、腹が減ると時々こうやってゴミ箱のふりをしているらしい。それでコンビニに来るお客さんからおこぼれを貰っているという話だった。
「ミミック、かなあ。ゲームに出てくるやつとちょっと違うけど」
「詳しいですね」
カジさんが笑う。
「こういうの食べてくれるんで助かってます」
ぶるっと謎の宝箱が身震いした。それからちゃりんちゃりん、という音がして、宝箱の右横から光るものが転がり出てきた。カジさんはそれを拾って目の前にかざした。
「やった、金貨だ」
二枚の金色をした硬貨がカジさんの細い指先にあった。見たこともない意匠と文字が彫られている。なんとなくだがこの世界のものではなさそうだった。
「生ゴミを入れると出てくるんですよ。金貨のほかにも銀色のとか銅貨……? とか。何もないときもあるんですけど」
それからカジさんは大事そうにその硬貨を制服のポケットに入れた。
「これ集めてるんです。こういうの、なんかいいですよね」
数人の客がまとまってコンビニに入っていく。カジさんはそれを見てじゃ失礼します、と言って店内に戻っていった。