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スキマダンジョン203号室  作者: 空谷あかり
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れいぶん

 コンビニに行くと高校生のアルバイトがいた。今日は平日だし時間はまだ昼前の十一時だ。あれ、と思いつつおにぎりとパンを持ってレジに行き、コーヒーを頼んだ。時々話をするアルバイトだったので昼にいるなんて珍しいね、と話しかける。

「今日は学校が創立記念日なんですよ」

「遊びに行かないの」

「お金がないです」

 そう言ってバイトの女の子は笑った。カジ、という名札が見える。カジさんという家はこのマンションには僕の知っている限りではいないので、おそらく近くの家の子だろう。そうなんだ、と返すとカジさんはまたうふふと笑った。

 コーヒーマシンの前に移動し、機械に貰った紙コップをセットする。ボタンを押したところで右下のあたりから視線を感じた。なにげなくそっちを見る。

「うおっ!?」

 それを聞いてあわててもう一人いる店員のおばちゃんがぞうきんを持ってすっ飛んできた。コーヒーをこぼしたのかと思ったらしい。

「あ、違います。あの、あれ」

 僕はそう言って右の床を指差した。そっちを見たおばちゃんがぞうきんを持ったままえっ、と言う。

「……何かしらこれ」

「ですよね」

 ぴかぴかした床の上には黒くて小さい生き物がいた。棒人間を立体化したような姿で頭には大きな丸い目玉が二つついていて、目玉しかなかった。それがじーっと機械に入っている僕のコーヒーカップを見つめていた。

 ピーっと音がしたので機械から紙コップを取りだす。そいつは相変わらずじーっと移動する紙コップを見つめていた。気になるらしい。

「これが欲しいのか?」

 巨大な目玉が僕を見た。しかしこのコップにはコーヒーが入っているし、これをくれてやる義理は僕にはない。どうしようかと思っていたらさっきのおばちゃん店員が今度はホウキを持ってやってきた。

「すみません、追い出しますから」

 そしてホウキの先で目玉棒人間をつつきだした。つつかれて嫌そうにしつつも、巨大な目玉から発する視線は僕の持っている紙コップに注がれたままである。出て行きなさいホラなどと言いつつ、おばちゃんは目玉棒人間を出口に向かってつついている。しかし紙コップは気になるらしい。つつかれながらも目玉は相変わらずこちらを向いたままである。

 それを見ているうちに僕はなんだか棒人間がかわいそうな気分になってきた。彼はそこにいただけなのである。

「あの」

 僕はレジに行ってもう一個紙コップを買ってきた。その時ちょうどおばちゃんは目玉棒人間を店外につつき出したところだった。もう大丈夫ですよ、と言うおばちゃんと代わって僕は外に出て目玉棒人間のところに行った。

 彼は自動ドア横に呆然という感じで立ち尽くしていた。そこへ僕は買ってきた紙コップを見せた。視線が紙コップに吸い寄せられる。

「やるよ」

 しゃがみこんですぐ前まで紙コップを持って行って見せる。すると落書きみたいな両腕が出てきて、僕が持っていた紙コップをしっかりと抱え込んだ。ちら、と僕の顔を見上げる。

「いいよ。持っていきな」

 目玉棒人間は紙コップを抱えてたたた、と走って逃げていき、途中で消えてしまった。まあいいか、と僕はレジ袋と買ったコーヒーを持って階段を上がった。


 数日後、マンション内の自転車置場にあの紙コップが置いてあった。正確には自転車置場裏の、芝生と雑草とゴミが寄せ集まっている場所である。気になって見てみると紙コップの中に大きい目玉が二つ見えた。

「元気か」

 ぱちぱちと目玉がまたたきをする。よく見ると紙コップに子供の字で「れいぶんのいえ すてるな」と書いてあった。僕はまた元通りの場所に紙コップを戻し、見つからないようにまわりに草を寄せて隠しておいた。

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