ポニーテールに躍動感をのせて
ネズミー国ではありません
よろしくお願いします
大なり小なり、あちこちにあるアミューズメントパーク。
大きな屋内アミューズメントパークがまだ珍しかった遠い昔。
私はそこでアルバイトをしていた。
胸の辺りまである長めの髪を、高めの位置に結いたポニーテールにブルーの制服を着込む。
そして最近入ったばかりの丸型のカプセル宇宙船のような、最新の乗り物の入り口に立ち、お客さんに乗り方の案内をする
バケットシートに座らせ、しっかりとベルトをして確認。
「では、いってらっしゃいませ〜」と言ってボタンを押す。
プシューと音を立てて閉まる扉。
すぐにガタガタと大きく揺れだして、宇宙に旅立つマシン。
それが「最新」だった懐かしい時代。
……
ある日フランスから記者が来た。
「日本のアミューズメントパークの最新の乗り物」の記事用として、私ともう一人が演出としての被写体で写真を撮る事になった。
私の語学力を心配された方、ありがとう、大丈夫です。
記者の方は日本語で言いました。
「この乗り物に乗っているように写します」
「でも、扉を閉めないと動きません」と、私。
「扉を閉めたら中の写真が撮れません」
そりゃそーだ。
じゃあどうするの?
「座った状態で下を向き、素早く起き上がって下さい。髪の毛が動くのでそれで乗っている感じを出します」
わお!特撮!!
ワクワクします。
私はマシンに乗り込み、バケットシートに座りシートベルト装着!
…してしまうと上半身が動かないので、シートベルトは着けません。
そしてコメツキバッタのようにペコペコと頭を上げ下げし、ポニーテールで最大限の躍動感を出します。
私が顔を上げるのと同時にカメラをスッとスライドしているのが見えます。
!!そうやって動きを出すんだな!それに合わせたらいいのか!
よし!コツを掴んだ!
と、思ったその時に撮影終了。
えー…これからなのに…
次はもう一人の子です。
その子は肩までの髪を揺らし、素晴らしい躍動感あふれる動きをしています。
起き上がる時に髪の毛が前に行き、顔が見えなくなるのです。
本当に重力がかかっているように見える…はず。
……
撮影が終わると記者の方が、「この記事を書いた雑誌は2ヶ月後くらいに発売されると思います。どちらかの人の写真を使わせてもらいます」と言った。
たぶん…私じゃないな…
あの子の方が上手かった。
と、思った。
……
もし、もしも、フランスの古い古い雑誌の中に、カプセル宇宙船のような乗り物に、シートベルトもせず、扉を開けたまま乗る、躍動感あふれるポニーテールの子がいたら、是非ご一報ください。
それは私かもしれません。
拙い文章、お読み下さりありがとうございました