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痴態②

 ペタリペタリと、赤子がハイハイするのと同じ動作で舗装された石畳を進んでいく。周囲の人々は唖然とした表情で、あるいは嫌悪を露わにした表情で、あるいは好奇の表情で自分達を見つめていた。

 四つん這いで這うレッドと、その後ろのバストを。

 レッドは裸だった。衣服を剥ぎ取られたその日より、肌着を身につけることさえも許されない。

 それでいて、革製の首輪を装着させられている。首輪には金属の鎖が繋がれており、その端をしっかりバストが握っていた。

「ほらほら。オークの奴隷になったところ、街の人達にちゃあんと見てもらうッスよ。自分はもう騎士じゃないって、ブタ女の奴隷だって。しっかりアピールするッス」

「く、くぅ……」

 バストのからかいに、レッドは血が滲むほど唇を噛みしめる。俯いていたいけれども、そうするとバストが鎖を引っ張る為に、嫌でも顔を上げねばならなかった。見物人の視線は鋭いナイフのごとく、レッドの胸を抉っていく。

 裸のまま四つん這いで王都を一周するよう命じられ、当然ながらレッドは猛烈な抵抗を示したのだけれど。その気概が長く続くことはなかった。歯向かった罰として左右十回ずつ睾丸を指で弾かれれば、反抗心など消え失せてしまう。

 オークの怪力で弾かれた睾丸は赤黒く変色し、腫れ上がってしまっていた。前に進む度にズキズキとした痛みが走る為、嫌な汗が止まらない。

 魔法で治すことは気が引けた。そのことが知られれば、よりいっそう痛めつけられるように思われた。

「いったい何があったんだ? どうして騎士様がオークなんかに鎖で……」

「あんなふうにハイハイして、プライドはないのかしら?」

「しゃべれるモンスターって、いたんだねぇ」

「それにしてもすげぇ乳だな」

「ママぁ、あのお兄ちゃんどうして裸なの?」

「趣味なんじゃない?」

 見物人は遠巻きにこちらを眺めながら、好き勝手なことを口々に言ってくれる。誰もが傍観しているばかりで、レッドを助けようとはしてくれなかった。もっとも、レッドの敵わないオークを相手にできる者が民草の中にいるはずもないけれど。

 男性の中には立派な胸をブルンブルンと震わせて歩くバストに邪な視線を投げかけている者もおり、妻帯者であろうものならば勢いよく頭をひっぱたかれていた。

 衣服がボロボロになってしまったバストは自分だけ新しいものを用意していたけれど、胸の隆起は依然として激しく強調されている。

 バストに促されるまま王都を進行させられるレッドは、やがて王城前に到着した。見物人の数は時間の経過と共にますます増えていき、レッドの見知った顔も少なくはなかった。

「それじゃあせっかくだし、国王様にも奴隷になったことを伝えに行くとするッスか」

 ウキウキした調子でバストは言うが、レッドの手足はぴたりと止まってしまう。このような情けない姿を、国王に見せるわけにはいかない。

「頼む……勘弁してくれ……」

 敬語を使うことも忘れて、レッドは懇願する。

「十分に反省している……。だから、もう許してくれ……」

「うるさいッスね。君はアタシの奴隷になるって誓ったんだから、アタシの命令には絶対服従なんスよ!」

 バストは声を荒らげる。急所を責められると思ったレッドは反射的にそこを押さえていたが、バストは前側に回り乱暴に鎖を引っ張った。

 怪力の前に、小柄なレッドはずるずると引きずられる。このままでは強制的に入城させられるのも時間の問題だろう。

 爪が割れるのも気にせず石畳に掴まっていたところ、城門が勢いよく開かれた。

「止まれ!」

 勇ましい声と共に、漆黒のローブに身を包んだ者達が城内から出てくる。精鋭の魔導士のみで構成されている、魔導騎士達だった。

 その数は四十人ほど。一人一人の力を合算すれば、王国最強のレッドにも匹敵するだろう。

「神聖な王城を、下賤な魔物に踏み荒らされてなるものか!」

 先頭に立つ魔導騎士がそう宣言する。第二魔導騎士隊隊長、ストライブだった。今年三十四になる、峻厳な性格の男である。

「うわぁ。怖~っ」

 わざとらしくバストは身震いする。言葉とは裏腹に、ちっとも怖がっていないというのは明白だった。

(こいつに魔法が効かない以上、魔導騎士を百人集めたって勝ち目はない……)

 レッドは冷静に判断する。とにかく、そのことを仲間達に伝えるべきだった。

「皆、油断するな! こいつには、魔法がふっ――」

 最後まで言うことはできなかった。バストに腹部を蹴り上げられた為である。

「余計なこと、言わなくていいんスよ。ま、教えてあげたところで、問題ないッスけどね」

 そのように言いながら、もう一発バストは蹴りを入れようとする。

「かかれっ!」

 このままではレッドが殺されると判断したのだろう。ストライブの合図を皮切りに、魔法騎士達はいっせいにバストへ攻撃魔法を放った。

 灼熱が、風の刃が、氷のつぶてが、雷の槍が、バストへと飛来する。それに対してバストは、身動き一つしなかった。

 レッドが攻撃した時と同様、精鋭達の魔法はバストにかすり傷さえもつけることができない。

「なっ……」

 魔導騎士達は声を失う。誰もが呆然自失といった(てい)で、何が起こったのか理解することはできないらしい。そんな彼らに対して、バストは次のように告げる。

「いいッスか? 一回だけなら見逃してあげるッス。でも、しつこくアタシに攻撃してきた人は……こうしてやるッスよ!」

 バストはレッドの睾丸を勢いよく指で弾く。レッドは睾丸どころか内臓全体を揺さぶられたような心地がして、ビクンビクンと石畳の上でのたうち回る。

「たす……たす、け、て……」

 のたうち回りながら、仲間達に助けを求めるけれども。男の魔導騎士は青白い顔つきで股間を押さえるばかりで、動こうとしてくれない。男特有の急所を有さない女の魔導騎士も、気まずそうに目をそらす。

 仲間達は早くも悟ったらしい。どうして王国最強であるはずのレッドが、裸にされた上で鎖に繋がれているのかを。

「ブヒ、ブヒヒヒヒヒヒ!」

 バストは腹を抱え、高々と笑う。

「こんなのが魔導騎士隊ッスか? まったく呆れるッスね。捕まった仲間一人を助けることもできないなんて」

「……黙れぇっ!」

 先頭に立っていたストライブが怒りの声を発する。彼はギラギラと目を輝かせながら、連続してバストへ魔法を放った。常人であれば一溜まりもないはずの攻撃魔法だったが、やはりバストはびくともしない。

「……あーあ。忠告したのに……」

 バストは鎖の端をパッと離すと、ドシドシとストライブへ近づいていった。ストライブがなおも攻撃魔法を唱えようとしたところ、胸座を掴んで地面にねじ伏せる。

「言っとくけど、手加減しないッスからね」

 するするとストライブの穿いていたズボンをバストは脱がしていく。宣言の通り、睾丸で指を弾くつもりなのだろう。

「やめろ!」

 反射的にレッドは叫んでいた。

「罰だったら僕が受ける! だから、ストライブさんには何もしないでくれ!」

「へぇ~。そうッスか」

 それを聞いたバストは、あっさりとストライブを解放した。

「殊勝な心がけッスね。涙ぐましいッスよ」

 そのように言われながら、何度目になるのかわからないタマピンの刑をレッドは受ける。あまりの痛みに、絶叫を抑えることができない。

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