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再会②

「まったく……やっと来てくれたと思ったら、いきなりこんなエッチなことを……」

 いくらか怒りが収まってきたのか、オークは小さな声でぶつぶつ言う。その言葉は、熟考するレッドの耳には入らなかった。

 レッドは冷静に考える。目の前のオークは、シュリンプ村を襲ったオーク達とは無関係だろう。人語を解するオークがいたとなれば、報告されないはずがない。

 そして相手が人語を解してくれるとなれば、好都合だった。問答無用で襲いかかってくる通常のオークと違い、交渉の余地がある。

「す、すまない……。いきなり攻撃してしまって、本当に悪かった……」

 レッドは必死に頭を巡らせ、この場を切り抜けることに専念する。とにかく、相手を刺激してはならない。

「理由次第なら、許してあげてもいいッスよ?」

 クスクス笑いながらオークは言う。己の命が相手の気分に握られていると思うと、レッドの背中を冷たい汗が伝っていった。

「近隣の村が、モンスターの集団に襲われた。僕はそいつらを討伐する為に、王国から派遣されたんだ」

 刺激しないよう、討伐対象がオークであったことはぼかす。

「そのモンスターを、アタシだと思ったんスか?」

「ああ……。村の人々が、この鉱山の中がモンスターの塒になっていると……」

「フーン。つまり勘違いで、アタシは奇襲されたと……。アタシじゃなかったら、死んでたッスよね?」

「本当に、すまなかった」

「許してほしいッスか?」

「あぁ……」

 レッドは目をつむり、深く(こうべ)を垂れる。精一杯の謝罪の意を示しているつもりだった。

 オークは掴んでいた襟首をパッと離す。支えを失ったレッドの身体は落下し、したたかに尻を打ちつける。

 解放されたことをレッドは、相手が許してくれたのだと判断した。痛む尻を押さえながら立ち上がり、オークに背を向けて駆け出そうとする。

 たちまち足をはらわれた。前のめりに転倒したレッドの後頭部を、オークは片方の足で踏みにじってくる。

「何逃げようとしてるんスか?」

 ゾッとするほど冷たい声だった。

「許してくれたんじゃ……」

「そんなこと、一言も言ってないッスよねぇ?」

 オークが足に乗せる力を強いものにする。レッドはすでに死を覚悟していた。これ以上の圧力を加えられれば、自身の頭部は果実のように潰れるだろう。

 最後の反撃とばかりに、何かしらの魔法をぶつけるべきか……。

「許してほしいッスか?」

 レッドは考えを改める。どうやら自分にはまだ、チャンスが与えられるらしい。

「許してほしい。何でも、するから……」

「じゃあ、まずはその言葉づかいを改めるッスよ」

「……許してください……」

 すでにプライドはかなぐり捨てていた。王国一の魔導騎士であろうとも、死んでしまっては意味がない。

 生きて帰らなければならなかった。自分までいなくなってしまえば、たった一人の肉親である妹が悲しむ。

「『どうすれば許してくれますか、バスト様』って聞くッスよ」

「……どうすれば許してくれますか、バスト様」

 指示された通りのセリフを口にする。己を踏みにじるオークの名は、バストというらしかった。

「うーん……。そうッスねぇ……」

 すでに答えを用意しているのだろうけれど、バストはわざとらしく悩む素振りを見せる。

「……これから一生、アタシの奴隷として仕えることを誓うんなら、許してやってもいいッスよ?」

「誓います」

 レッドは即答する。むろん、本気で奴隷の身に堕ちる気などない。隙を見て逃げ出すつもりだ。

「ブヒヒ、誓っちゃうんスかぁ……? 王国一のエリート魔導騎士様が、オークなんかの奴隷になっちゃうんスかぁ……? ブヒ、ブヒヒヒヒヒヒヒ……」

 気味の悪い笑い声をバストはあげる。後頭部から足がどかされたので、レッドはひとまずも胸をなで下ろした。

 ゆっくり顔を動かすと、バストはよほど嬉しいのか、とろけたような表情をしていた。

 それにしても彼女は、気になることを口にした。

「待て。いや、待ってください。僕のこと、知っているのか? ですか?」

「ん……? えっと、知ってるッスよ? レッドさんの名前くらい、アタシの耳にだって入るッス」

「フン……」

 どうやらバストは、はなからこちらの素性を知っていたようだ。奴隷になるよう言い出したのもそのせいかと思うと、レッドは己の称号を呪いたくなった。

「お前……あなたは、いったい何者なんですか?」

「何者って、ただのオークッスよ?」

「僕の知っているオークは、人の言葉なんて話さない」

「そんなの、君が知らないだけかもしれないじゃないッスか。言葉を覚えるオークだって、中にはいるんスよ」

「ごまかすな。どうして僕の魔法がお前には通じない? 間違いなくお前は、ただのオークじゃない」

「ああ、もう、うるさいッスねぇ……」

 面倒くさそうにバストは頭をかく。

「……ていうか、そのしゃべり方はなんッスか? まだ自分の立場が、わかってないみたいッスねぇ」

 ドスの利いた声で言ったバストは、座り込んだままだったレッドのズボンに手をかける。抵抗も虚しく、ビリビリとズボンは破かれていった。ズボンだけでなくローブも破かれ、レッドはパンツ一丁にされてしまう。魔導騎士の制服を引き裂かれると、あたかも自分がその地位から引きずり落とされたような気になった。

「や、やめろ……!」

「人のこと裸にしておいて、自分は拒むんスか? そもそも、奴隷なんだから服なんていらないッスよねぇ?」

 虚しくパンツも剥ぎ取られ、レッドは生まれたままの姿となる。いくら相手がモンスターといえども、女に丸裸を見られるのは恥ずかしくてしかたない。

 股間を隠すことはできなかった。両腕が身体の横で固定されるよう、バストが馬乗りになってきたからである。大きなお尻で組み敷かれると、少年の力ではどうすることもできない。

「ほら、ごめんなさいは?」

「ごめんなさい……」

「ま、許してあげるッスよ。でも、ちゃんと罰は受けてもらうッス」

「罰……?」

「タマピンの刑ッス」

「タマ、ピン……?」

 レッドには言葉の意味がわからなかった。そんな彼をよそに、バストは右手の中指を内側に曲げ、親指で押さえこむ。ぴたりと、彼女の右手はレッドの右の睾丸前に位置する。

 中指を押さえていた親指が外されると、レッドの命よりも大事な場所はばちぃん! と弾かれ……。

「あがあああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!」

 坑道内には、少年の絶叫が響き渡ることとなった。

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