新たなる生命
(なんだここは……)
次にギルが目を覚ましたのは薄暗い森の中だった。
(この姿……下位悪魔か……となるとあれは夢ではないのか……?)
水があるところまで移動し、光の反射で自分の姿を確かめる。
どうやら自分は魔物に、それも下位とは言え悪魔になってしまったらしい。
「火球……魔力の消費が激しい……? いや、魔力容量が少ないのか」
試しに自分が使える最も簡単な魔術を放ってみる。すると何の問題も起こらずに魔術が発動された。
(一域は問題なく使えるらしいな)
「我が命に応えて現界せよ 火之迦具土」
次にギルは高域の魔術を唱える。すると彼の前には巨大な魔術陣が展開された。しかし魔術陣はすぐに崩壊し、込めた魔力は霧散してしまう。
(魔力が足りないか……)
とりあえず自分の内側に意識を向ける。すると以前と同じように、何か自分のステータスのようなものが浮かび上がって来た。どうやらシステムは以前と同じらしい。
(ん? なんだこれ……)
そして自分の中に見知らぬ力を確認する。徴収というものだ。
(早速試してみようか)
目の前をちょうど通った小鬼に向けて徴収を発動する。するとゴブリンの体は水につけたわたあめのように、あっという間に萎み、完全に消え去っていった。
(これは……さっきの小鬼の……?)
自分の中に先程徴収を使った小鬼の何かを感じる。
(まあなんだっていいか、強くなれるならどんどん狩っていくべきか。……あれ? 強くなって俺は……俺は何をしたいんだ……? まあいいか、強くなった後のことはその時考えればいい。あ、魔物みっけ)
「徴収」
魔物の背後に周り、再び徴収を使い、力を奪う。
「グギャッ!?」
ゴブリンが声を上げ、萎んでいく。
(確定だな、相手の生命力のようなものを奪えるわけか)
ギルが自分のスキルに対して考察を巡らせる中、森の手前の方で声が聞こえる。
少し気になり、見に行ってみるとそこには三人の人間と一人の獣人がいた。
「おら! 早く行けよ!」
「い、いやです……! お願い……やめてっ!」
嫌がる獣人の少女を、一人の男が蹴飛ばし脅し、彼らの前にいたゴブリンの方へと向かわせた。
(いじめか? ……まあどうでもいい、それより人間か……ゴブリンよりは色々と得るものが多そうだな……って俺は今何を……?)
魔物の本能であろうか、一瞬人間を見て「美味そう」と感じてしまった。
「ひっ……痛い! やめて……!」
少女の叫び声で再び見つけた人間たちに目を向ける。そこで目にしたのはゴブリンに甚振られている獣人と、それを見てニヤついている汚い、醜い人間達だった。
(醜い……)
ギルはゆっくりとその人間達の方へと向かっていく。そして彼らがギルを視認した瞬間、先程までの汚い笑みが一瞬にして消え去った。
「あ、悪魔……!?」
人里近いこの森に悪魔が出たとすると大問題になる。少年達は急いで逃げ、学園にいる教員たちに告げようとした。
「ウィンドカッター!」
逃げる過程で、一人の少年が先程ゴブリンに虐げられていた少女へ風の魔法を放つ。
「きゃっ!?」
少女の足へと魔法が当たり、少女は動けなくなり完全におびえて震えてしまっている。
「な、なんで……」
「お前は囮だよ! せいぜい時間稼げ!」
魔法を放った少年とそれを見ていた二人は少女には目もくれず、一目散に走っていった。本当に醜い。
「い……や、や……だ! まだ死に……たくない……」
震える少女を悪魔は見下ろす。そしてゆっくりと手を上げ、その小さな頭に手を置いた。
「ひっ……」
ーー殺される……! そう思い少女は目を瞑り、体を硬直させる。
「……え?」
しかし待てど暮らせど衝撃が来ない、痛みも来ない。それどころか先程まで鋭い痛みが走っていた足が治り、痛みを一切感じなくなっていた。
「う、後ろ!」
驚きのままこちらを見た少女が顔を青くして叫ぶ。ギルの後ろには10匹程度のゴブリンがいた。
後ろを一瞥したギルはそのまま徴収を発動する。
1匹、また1匹とゴブリン達は徴収の餌食となり、その魔力をギルへと献上していく。
全て集め終えたギルは再び目の前にいる。少女を見据えた。
(中位術式起動 共有)
そのまま手を前にかざし、術式を構築して行く。
「な、なにをしてるんですか……?」
怯えた表情で聞いてくる彼女を無視して、術式の構築に専念し、完成させた。
ギルと少女の間に直径1メートル程度の円形術式が出現する。
「魔術……!? 魔物が魔術陣を展開するなんて……それにこの大きさ、第三位階はありそう……ってターゲット僕じゃん!?」
自分と目の前の魔物しかいないこの状況、そんな中発動される魔術のターゲットとなれば勿論自分の筈……少女はびびり、再び縮こまる。
そんな少女を一切無視し、ギルは完成した魔術を少女に向けて放った。
「……? 何もない……?」
そんな少女を一瞥して、ギルはその場を去っていった。
「何だったんだろう?」
少女は疑問を持ちながらも、追いかけても何もないと思い森を出る為に入ってきた方へと向かっていった。
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