ー終ー金色の鹿塚
『金色の鹿塚…』
いつの頃か、奥山のふところ深くにある不思議な塚の話が、風に舞う綿毛のように、国のあちこちに広まっていました。
その腰ほどの高さのある積み重ねられた平石の隙間からは、木漏れ日のように淡い金色の光が滲み出ているといわれています。
また、その光の中には、寄り添い合う二匹の美しい鹿が駆け巡っていて、それを見た人の心の迷いを晴らしてくれるともいわれます。
戦の混乱が続き、生きることに様々な迷いがあった時代だったからでしょうか、多くの人が「我も是非に金色の鹿塚に」と不慣れな山に足を踏み入れました。
なれど、鹿塚へと至る道というものはなく、暗い森で迷い、あるいは熊や狼に出くわして命を危うくさせることが殆どでした。
そのような時、どこで知ったのか、決まって一人の狩人が現れ、救いの手を差し伸べてくれました。そして時には、その広い背に負いながら、街道が見える所まで送ってくれたのです。
「無理に鹿塚を訪ねる必要はない。まずは草鞋の紐を結び直し、前に見える道を歩かれよ。
あなたが育んできたものが成長し、慈悲深きものと出会うその時、あなたの胸の内の霧はきっと晴れる。そしてあなたは気づくはず…あなたは真に求めていたものと既に歩み始めているということに…」
狩人は、人々にこう伝えては、普段の生業に戻るように、木々の合間に姿を消しました。
終わり




