バロックミラー
平面鏡に正対して映る容姿は
生々しい程に現実ありのままで
それがあまりに醜い外見だと
素直に受け入れたくないもので
癖毛で雀斑の散った洋梨体型の少女は
鼻筋の通った清楚な令嬢のアバターを使い
鰓が張り面皰が潰れた胴長短足の少年は
精悍で爽やかな八頭身のアバターを使い
筋骨隆々でスマートなハンサムボーイが
脱毛と不眠に悩む名ばかり管理職とも知らず
沈魚落雁の美貌を誇るセクシーガールが
対人恐怖症を拗らせた引きこもりとも知らず
真相から目を逸らす毎に鏡は歪み
虚像を映す鏡が変形して凹凸だらけでも
浮かび上がる蜃気楼を本物だと思い込み
束の間の幻影に逃避し酔い痴れる
歪みに耐えかねた鏡が割れたとき
そこには果たして何が映るのだろう