双子の片割れ令嬢はやり返したい
私達は、双子だ。けれど、容姿は似ていない。金髪のティティと、艶やかな紫色をしたフィニ。
そして、可愛らしく人の心をキュンキュンと揺さぶるような容姿に成長したティティは優しく気品を兼ね備えて育った。
そして、フィニは艶やかな美しさこそ備えたものの、寄ってくるのはフィニの体目的か怪しい手を差しのべてくる者達。
そして、ティティとは反対に、容姿から【悪女】と囁かれていた。
そんな二人は【反対の双子】と呼ばれていたが、それは上部だけの話だ。
実態は全くの別物だった。
「フィニ。今日は誕生日おめでとう!」
「あら、あなたの誕生日でもあるでしょう?ティティ。」
その一言だけでも、ティティに向けられる視線とフィニに向けられる視線は違う。
「ティティ。そういえば、最近また勉強をサボったようね。あなたも、王家を支える公爵家の人間として勉強を怠ってはいけないわ。」
「酷いじゃない、フィニ。わざと、なの。こんな場所で私のことを‥‥‥。それに、私だって私なりに頑張って学んでいるのに!」
うるうるした涙姿を見せる。そして、周りの人々はそんな姿に虜にされてティティの味方をし始める。
そう、ティティの実態は悪魔。実際に悪魔というわけではないが、人を味方につけて何かとフィニに敵対する。
《私、フィニがだいっきらい。だって、私の方が可愛いし皆気に入ってくれるのに、双子というだけでフィニもそれなりにプレゼントを貰えるのよ?
この国の王子からだって、双子だからって同じものが送られてきたの!酷いと思わない?なんでよりによってフィニと一緒なのよ。
まぁ、いいわ。王子の婚約者、いえ。王妃になるのは私だから。ねぇ、そうでしょう?》
これは、少し前に言われたことだ。
もちろん、フィニだって良い性格をしているわけではない。けれど、ティティは本当に面倒くさい性格をしている。
別にティティに対抗するつもりはフィニに無かったのだが、ここまで言われたフィニは黙っていられなかった。
今まで散々やられてきたのだ。
━━この際、この婚約者を決める期間に少ししめてみようかしら。
「ふふふ。」
不気味な笑い声が広がった。
ティティは、どの女性からも男性からも愛されている。けれど、特別仲が良いという人はほとんどいない。
フィニは一人そっと部屋に帰り、自分の侍女を呼んだ。
「どうされました?フィニ様。」
この侍女、パールはフィニの信用の置ける侍女の一人だ。
「パール。明日の王子とのお茶会、ティティと一緒だったわよね。」
「はい。そうですよ。」
「前に仕立てたドレスを着ていきましょう。」
パールは、にこりと笑う。もちろん、フィニの意見に反対しているわけではない。フィニの魅力を理解しているパールは、フィニの仕立てたドレスがとても合っていると感じている。
今笑ったのは、『応援しています』というメッセージが含まれている。
パールは同じ屋敷で働く姉がいる。姉はティティの侍女だ。幼い頃に散々いじめ抜かれたパールは姉を嫌っている。そして、ティティの醜い性格も。
「パール。その間に‥‥‥。」
言いかけた時。扉がバンッと開く。
「フィニさま~。お使い行って来ましたぁぁ!」
帰ってきたのは、もう一人の侍女、リエットだ。幼い顔立ちのリエットは、フィニが通っていた孤児院の出だった。
孤児院で、てきぱきと、明るく振る舞うリエットが仕事先を探しているときに真っ先に侍女にならないかと誘った。
もちろん、リエットはフィニのことが大好きだったため、喜んでついてきて今に至る。
そして、リエットの大好きなフィニがティティによって散々言われているのを目撃したリエットは、ティティに対して敵対心を抱いていた。
リエットのたまに吐く言葉の毒は、幼い顔立ちで笑いながら言うから、ティティと同じ、またはそれ以上に怖いと感じるときもあるが‥‥‥。
「フィニ様、本当にこれで良かったんですか?」
「リエット。お嬢様に何を頼まれていたの?」
「シガルミを一輪、買ってくるか、咲いているのを摘んでくるように、と。シガルミよりも良い花は沢山ありますし、シガルミはそこら辺にも咲いていますよ?」
「いえ、それでいいのよ。それも、一輪で。」
フィニはゆっくりと紅茶を口に運んだ。
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「今日はよろしく。二人の令嬢と会わせて頂いても?」
「ええ、もちろんです。今お呼びいたします。少々お待ちを。」
爽やかに笑ったイケメンは、この国の王子。おとぎ話のように綺麗な王子と会話すること、結婚するのは淡い乙女達の夢である、が。
今日のフィニにとって、王子はただの手段でしかない。
結果、ティティが悔しいと思うことがあれば、もっといえばティティが婚約者にさえ選ばれなければ、フィニの勝利である。
「ティティ。入りなさい。フィニも呼んでくる。その間に、殿下との仲を深めておくと良い。」
どうやら、お父様はティティの味方らしい。ティティは満面の笑みで部屋に入っていく‥‥‥様子を四人は端から見ていた。
「フィニ様ぁ。本当に大丈夫なんですか?」
「リエット。お嬢様を信じなさい。」
「おい、何で庭師の俺が呼ばれているんだ?」
「「あんたは黙ってて。」」
「「‥‥‥。」」
パールとリエットが突っ込むのを、黙って見ているフィニとため息をつく勢いで肩を落とす庭師。
「いい、計画通りに庭師のあなたはやってくれれば報酬は‥‥‥。」
庭師はごくりと唾を飲み込む。
「最近王都に入ってきた有能な肥料よ。」
庭師は、ぱあぁ、と顔を明るくさせてこくこくと頷いた。そんな様子を見たフィニは、一度部屋に戻った。
━━コンコン
「フィニ。殿下がいらっしゃった。ティティはもう先に行かせたからお前も行きなさい。」
「はい。分かりました。」
扉から出ると、お父様が驚いたように目を見開く。
そんな様子は気にせずに、フィニは先ほどまでいた通路を戻っていき、その部屋の前まで来る。
「さ、行きますよ。」
小さく呟いて、その部屋に入る。実際は、そこが王子との顔合わせの場所ではない。そこから、庭に繋がっているのだ。
そっと庭へ出て、王子とティティが楽しそうに話しているところへと行く。
「殿下、ティティ、お待たせいたしました。」
殿下はほぉ、と息をついた。そして、ティティは固まっている。
真っ赤なドレスは、体のラインにぴったり合っていて、ただでさえ妖艶なフィニがさらに色気を増している。
「フィニ・マリアードと申します。この度はよろしくお願いいたします。」
「よろしく。さ、今ちょうど君の話をしていたんだ。座って。」
またティティは何か口を出そうとしていたのか。少し冷めた気持ちになりながらも、さっと殿下と対面、ティティの隣に腰をおろす。
「噂では聞いていたけれど、とても美しいね。」
「ありがとうございます。」
ふわりと笑うと、殿下も優しく笑った。そんな様子に少し焦りを抱いたのか、ティティが側にいた侍女から何かを貰う。
「あの、殿下。私殿下へ渡したい物があるのです。」
「おや、なんだろう。」
ティティは、再び男受けする笑みで何かを渡した。
「殿下に、懐中時計を渡そうと思いまして。実は、最近殿下が領地へと視察に行った際に池で懐中時計を落とされたと耳にしたので。」
「それはそれは。ありがたいな。喜んで使わせていただくよ。」
ティティは嬉しそうに笑った。そして、何故か余裕を取り戻したような空気が伝わってくる。
「あ、フィニはない、よね。ごめんなさい、二人で選べば良かったかも‥‥‥。」
そうよね、何かしら来ると思ったわ。まさか、同じ渡し物でかぶるとは思わなかったけれど。それでも、勝算はあるわ。
「良いんだよ、ティティ嬢と同じではなくて…」
「いえ、あるん、です‥‥‥。」
「え?」
フィニは、わざともじもじしながらと言う。
「でも‥‥‥ティティのように立派な物では‥‥‥。」
さぁ、ためて、ためて…。
「良いんだよ、そんなの。折角用意してくれたなら、欲しいな。」
あぁ、すごい。確かに惚れてしまうほどのキラキラ感。
「これ、なんです。」
はい、ここで登場。シガルミ。
「これは、シガルミだよね?これをくれるの?」
「あ、違うんです。これは‥‥‥。」
そこに、庭に一つの人影が偶然出てくる。その人影に気付いた王子はそちらを向く。
「あ‥‥‥‥すみません、顔合わせ中でしたか。庭師のタジと申します。‥‥‥ははっ、そうでしたか。」
「タ、タジ。黙っていて下さいっ。」
「殿下、すみません、昨日お嬢様が楽しそうにシガルミを摘んでいたのです。何故摘んでいるのか聞いたら、花言葉が『儚い初恋』で、渡したい人がいるから、だと。」
「タジッ!」
「あぁ、失礼しました。ではごゆっくりと。」
王子は、少し目を見開いたまま固まったあと、フィニのぷるぷると震えていた(震わせていた)手からゆっくりとシガルミを抜き取る。
そして、温かな笑みで
「本当に嬉しい。ありがとう。」
と言った。
その横で、今にもテーブルを叩きそうに顔を真っ赤にさせているのがティティ。
「ティティ、顔色が悪いわ。」
そっと触れようとすると、パシッとフィニの腕を払う。
「触らないで!‥‥‥あっ。」
王子がいることを思い出して、顔を青くさせたティティは、「すみません、体調が優れなくて」と、その場をあとにした。
━━皆!お疲れ様!勝利したわっ!
と、思った時だった。
「くくく。面白かったな。」
「‥‥‥。え?」
「お前も、面白い演技をする。初めにあの令嬢に会った時から、いつ化けの皮を剥がそうかと思っていたが、逆にこんな面白い展開が見られるとは。」
「分かっていたのですか‥‥‥。」
まさか、と思いながらフィニは王子の顔を見る。
「初めから、あの令嬢のことは疑っていた。噂で、【誰からも愛される令嬢】と聞いていたが、そんな令嬢の双子の片割れが悪女だなんて思うはずがない。あまりにも出来すぎている話だ。そして、こんなにも美しい貴女が出てきたとき分かったよ。」
「‥‥‥何がですか。」
「皆が嫉妬から、敢えて私と貴女が良い出会いをしないようにしていたのだろう。それで貴女よりは何もかも少しずつ劣っているあの令嬢の味方を皆がした。まあ、男達もいずれは貴女を手に入れたいと思っていたはずだよ。
そして、その噂に調子に乗って舵を握ったのが、あの令嬢だ。まぁ、見た目もそこそこよかったから男どももついてきた訳だが。実際、貴女は、誰からも見ても美しい。」
「口説き癖があったなんて、初耳です。」
「まさか。昔から、健気で可愛いと思っていたよ。いじめられたら、裏でぷくっと膨れていたところが特に。」
「なな、何故、それを‥‥‥。」
王子は、にやりと笑う。その姿に、フィニは背筋が凍りつく。嫌な予感しかしないのだ。
「いやぁ、昔、この家のティーパーティーに誘われた時にあの令嬢にやられている場面を偶然見たんだけれど。その後、貴女にそっとついていったら、ぷくっと膨れたままポロポロ涙を溢していた。それを見たから、この子をいじめたい、泣かせたい、と‥‥‥。」
「ひっ‥‥‥。」
「こんな形で会うことになったけれど、まぁいいや。こんなめんどくさい趣味が加わったのも、貴女のせいだし、貴女に対してだけだから、心配はいらないよ。さ、安心して婚約しよう?」
「なーにが安心して婚約するものですかっ!!」
とは言いながらも二人はその後すぐに婚約する。
フィニは、抵抗した。もう、ティティの時とは倍以上に。王子に何度もやり返そうと思ったフィニだが、それはかなわず、さらりとかわされてしまうだけ。また、王子が離れるように策を巡らすも、王子はフィニを離すことは決して無かった。
それが、いずれ愛という形に変わっていることに気付く日もそう遠くないだろう。
こうしてこの国に新たな王妃が誕生することになる。
また、フィニと王子の結婚式はマリアード家の庭師が沢山のシガルミを飾ったとか。
そして、そのシガルミはある肥料によって、ほとんど枯れることはなく、フィニの黒歴史を未だに掘り返し続けている。
誰が仕組んだことかは、言わないでおこう。
━━そして一方では‥‥‥。
「ティティ。君のような気の強い女性に、いじめ抜かれたいっ。」
王子の黒い性格によってティティの性格がばらされた今、ティティは誰からも話して貰えない。
また、特別仲が良かった令嬢もいなかったせいで、酷い目に遭っても誰も助けてくれないのだ。
そんなティティの元に来るのは、たいてい不思議な趣味をお持ちの方。
「俺をいじめて下さいっ!ティティ!」
「ひっ‥‥‥。」
やはり、双子は似た状況に陥ることが多いらしい。
読んで頂き、ありがとうございます!