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「終わりました」
「終わった…? ユノは!?」
「残念ですが」
メーアが首を横に振る。
「あの娘は私より弱かったので」
結婚まで考えた想い人の突然の死に、マーディは砂浜に両膝を突いた。
しかし、驚きのあまり涙は出てこない。
「どういうことだ…」
「ユノさんも人魚なんです」
メーアが答える。
「あの娘の両親は以前に指輪を盗もうとして、私たちの一族を追放されました。娘のユノさんにも何か良からぬ嘘を吹き込んでいたんだと思います。彼女は嵐で打ち上げられた指輪にいち早く気付いたけれど、それはもうあなたの指にはめられていた。だから人間の娘に化けて、時間をかけて奪おうと計画したんだと思います」
マーディは言葉を無くした。
指輪の幸運のひとつがユノとの出逢いだと思っていた。
しかし実際は指輪を狙ったユノが近づいてきただけだったのだ。
この1年間のユノとの甘い時間が走馬灯のように思い出され、マーディはやっと悲しみが込み上げてきた。
涙がこぼれた。
「何故、もっと早く教えてくれなかった?」
「私と出会った時はもう、あなたの眼が彼女と恋に落ちていたので」
メーアが申し訳なさそうな顔をする。
「いきなり現れた人魚と恋人と。あの時のあなたなら、どちらを信じたと思いますか?」
「そうだな…お前は正しい…」
マーディはゆっくりと立ち上がり、指輪をメーアに投げた。
メーアが右手でキャッチする。
「いいんですか?」とメーア。
「ああ。お前の言う通りだった。その指輪が俺に大きな災いをもたらした。そんな物に頼っちゃいけなかったんだ」
「分かりました」
メーアが微笑む。
「後悔しませんか?」
「しない」
マーディが力強く頷く。
「ありがとうございます。それでは、さようなら」
メーアは大きく右手を1度振ると、海中へと姿を消した。
マーディは1人砂浜に残され、いつまでも水平線を見つめていた。
あれからマーディの生活は指輪を拾う前に戻った。
裕福ではない、独りぼっちの毎日。
あまりの寂しさに、猛烈な孤独に苛まれる日々。
つらくなるとマーディは砂浜を歩く。
そして海辺に視線を走らせる。
光る物が無いかと。
あれほどの悲しみを経験し、本来の自分の人生を生きると決めたのに。
また探してしまう。
指輪の力を借りれば、今度こそ本当に愛し合える人が現れるのではないか?
そうすれば、この孤独の地獄から解放されるのでは?
1度知った恋人との蜜月の日々は、かえって独りの苦しみを増大させる。
あの時の判断は間違っていたのではないか。
もしも再び指輪が落ちていたら。
そう思ったマーディは、いつしかあの岩場近くに立っていると気付いた。
岩場の上に人影が見える。
聞き覚えのある笑い声が聞こえた気がした。
人影が消え、バシャリと水音が響く。
マーディはしばらくじっとしていたが、ゆっくりと歩き始めた。
指輪はどこにも見つからなかった。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
大感謝でございます。
今回のイラストと短編コラボ企画に協力してくださいました志ノ野メア様、ホントにありがとうございました。