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 マーディは漁師だった。


 田舎の島の漁師町で1人で生活している。


 島の周りの漁場に出て、網を打ち小魚を捕る。


 大した儲けにはならないが、20代前半の若者が食べていくだけなら、それで充分だった。


 小柄で日に焼けた筋肉質なマーディはお世辞にも美男子とは言えず、恋人は1度も出来なかった。


 島の数少ない娘たちは誰1人、マーディに興味を示さず、これからの出逢いも望みは薄かった。


 ある日。


 前の日まで続いた嵐に海が荒れ、それがようやく収まったかという月夜に、マーディは海沿いの砂浜で光る物を見つけた。


 波で浜辺へと打ち上がったそれを手に取ってみると、たいそうな意匠(いしょう)を施した金製の指輪だと分かった。


(こいつは高そうだぞ)


 マーディは思った。


 これを定期的に島を訪れる行商人に売れば、いくらかにはなるだろう。


 ちょっとした贅沢が出来るかもしれない。


 マーディは月明かりに指輪をかざし、まじまじと見つめた。


 指輪の内側には見たことのない文字と模様が彫られている。


 それを見るうちに、どういうわけかマーディはだんだんと指輪を売る気持ちが失せてきた。


 ふと気付くと、それを自分の左薬指にはめていた。


 指輪はまるで最初からそこにあったかのように、しっくりと馴染んだ。


 その日からマーディは売ろうとしていたことなどすっかり忘れ、指輪をつけ続けた。


 寝る時も外さず、片時も離さない。


 すると次第に不思議なことが起こり始めた。


 まずは漁だ。


 指輪を拾うまでは、マーディが住む質素な小屋の近くの漁場で捕れる魚はたかがしれていた。


 そのため、マーディは湾のぎりぎりの場所や、時には沖まで出て魚を捕っていたのだが。


 それが指輪をつけたマーディが網を入れると、どこでも簡単に魚が多く捕れるようになった。


 最初のうちはただのまぐれと思ったが、その現象は何日経っても変わらなかった。


 おかげでマーディは暮らし向きがあっという間に楽になり、住む家も立派に出来た。


 そうなると今まで彼にそっぽを向いていた島の娘たちが、急に何人かなびいてきたが、以前の彼女たちの冷たさと残酷さを知るマーディは、誰とも付き合う気にはなれなかったのだった。


 だが幸運はそれだけではなかった。


 ある日、島の外からやって来たユノという髪の長い痩せた娘がマーディの前に現れた。


 マーディより少し年下の美しい娘は島の娘たちとは違って、最初から優しかった。


 ここには遠縁を捜す旅の途中で立ち寄ったという。


 彼女の大人しく、気が利く性格にマーディはたちまち恋に落ちた。


 田舎に住む平凡な漁師を気にかけてくれるユノに心から好意を持った。


 マーディは思い切って告白した。


 ユノはそれを受け入れた。


 2人はその夜に結ばれた。


 次の日の朝、仲睦(なかむつ)まじい2人が砂浜を歩いていると。


「あのー」と申し訳なさそうな若い女の声がした。


 マーディがそちらに眼をやると、海岸のいくつかある岩場の上に座っている女が見えた。


「あ」


 マーディが驚きの声を上げる。


 女の姿が予想と違ったからだ。


 女は人魚だった。








 

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