終わらない輪廻〜全てを終わらせるため〜
また、繰り返す。何をしても愛しい人が死ぬ運命から逃れられない。だからせめて王族殺しで他人の手で殺されるくらいなら、私の手で……私は何度この手でライアン殿下を殺したのだろう。
私の手はもう真っ赤に染まっている。
そうか、私も罪人だ。最初からこうしていれば良かったのか。
私はライアン殿下の婚約者候補として名乗り出る。今までは拒むばかりだった話に乗り、王妃殿下にさり気なく取り入る。
「オリビア、貴女も悪い女ね。好きでもない、あの女の産んだ子を利用する為に婚約者候補になるなんて」
「ええ、汚れた血が混ざるライアン殿下の婚約者候補になるのは心苦しいのですが、王妃殿下の様な素敵な女性に親しくして貰えて嬉しい限りです」
私は心を殺し嘘をつき続ける。ライアン殿下が最も憎む人間。もうライアン殿下の手は汚させない。汚れ役は私が全て引き受けよう。私は既に罪人なのだから。
ライアン殿下に憎まれようと、これが私の贖罪であり愛だ。
ライアン殿下とのお茶会で、ライアン殿下に小声で貶されるが、痛くも痒くもない。私はそれ以上の事をこの方にしてきたのだ。
「オリビア、君が何を考えているか分からないがそんな浅はかな女性だとは思わなかったよ。あの女に取り入っても何も良い事など無いのに」
「なんとでも言ってください。私は私にしか出来ない事をするだけです」
「昔の優しい君は何処にいったんだ」
「……ライアン殿下。これから何が起きようと、知らぬ存ぜぬを貫いて下さい。それが貴方の為です」
「……?どういう意味だい?」
私はその問いに答えず、紅茶を言葉と一緒に飲みこむ。
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今日は王妃様からのお誘いでお茶会に参加する。他の王妃様の取り巻きが溢れる中、私は王妃様の近くに座り無害な笑みを浮かべる。
私の手首まで隠れるドレスの中には小さいナイフが仕込まれている。
「それにしても、オリビア……貴女も不憫ね。あの汚れた女の子の婚約者候補なんて」
「そうですわ、本当に不憫ね」
クスクスと王妃様と取り巻きが私とライアン殿下を嗤う。思わず反論しそうになったが耐える。その瞬間が来るまで。
私は手首に隠していた小さなナイフをテーブルの下で取り出し、見えない様に王妃様に近づき嗤う。
「王妃様……貴女にライアン殿下を嗤う資格なんてありません」
「なんですって!?っ!!」
私はナイフで王妃様の首を掻き切り、確実に死ぬように何度も狂った様に首と胴体が離れるくらい掻き切る。だが、警備をしていた騎士によって私は取り押さえられ、牢に血塗れのまま入れられる。
これで良い。これでライアン殿下は王族殺しの運命から逃れられたはずだ。
だがその夜、ライアン殿下が牢を訪ねてきた。
「オリビア……なんでこんな事!!私の復讐に君はどうして!!」
「良いではないですか、これでライアン殿下は王族殺しで死ぬ事は無いのですから」
「オリビア……」
私はベッドから立ち上がり、牢の前までゆく。牢から手を伸ばし、ライアン殿下の首を優しく締め、すぐ離しライアン殿下の頬に手をあてる。
ライアン殿下は涙を流しながら私の頭を引き寄せ、牢越しの口づけをする。
それが私とライアン殿下の最後の逢瀬になった。
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「オリビア・ガネイストは王妃殿下殺害の為、極刑に処す!!」
私は兵に引きずられる様にして、王都の広場へと連れて行かれた。これから私の処刑が行われる。剣を持った騎士が私の頭を掴み、跪かせる。
私は何も怖くは無かった。愛する人を失う辛さ、愛する人を殺す痛み。なんとなくだが、これで繰り返しが終わるのを私は感じていた。
最初からこうしてれば良かったのだ。私はライアン殿下に贖罪出来ただろうか。
ライアン殿下には私が死んでも何も答えない様に言い聞かせてある。
処刑台の前に、ライアン殿下が何事も無い様に振る舞い椅子に座っている。そんなライアン殿下に私は優しく微笑み、最後の別れを告げた。
騎士の剣が私の首に振り下ろされる瞬間、ライアン殿下の私の名前を叫ぶ声が聞こえた気がした。