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沈黙の半時  作者: 白糸雪音
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プロローグ

 神様は何を好み、何を嫌うのだろうか。

 愛を好み、平和を望み、誠実さを、勤勉さを求めるのだろうか。そして、憎しみを嫌い、争いを処断し、不真面目を、怠惰を罪とするのだろうか。

 僕たちの知る神は僕たちの思いつくことを好み、嫌っているのだろうか。

 それは僕たちにはわからないことだ。身近にいる人のことも完璧にわからない不完全で鈍感な僕たちには、姿かたちもわからない、そんな神様のことなんてわかるわけもないのだから。

 それに、神様だからと言って、崇高で、誰からもほめたたえられる存在だなんて限らないのではないのか。

 ただ、自分が好きだから、自分が嫌いだから、そうしているだけかもしれない。その行為に崇高な意志や明確な目的なんてないのかもしれない。

 力があるから、能力があるから神様なんて呼ばれているだけで、本質は僕たち人間と大差ないのかもしれない。愚劣で、鈍感で、不完全。僕たち人間と変わらない、そんな存在。

 そうであるならば、神様は皆が言うような全知全能ではなく、僕たちすべてを見通せているわけでもないのだ。神様は僕たちと同じように、自分の想像を僕たちにぶつけ、夢想し、期待し、裏切られているのかもしれない。

 ただ、神様と呼ばれる存在と僕たちの違いは、自分が何が嫌いで何が好きかをよく知っていて、自分に何ができて何ができないかをよく知っているだけなのだ。

 ならば、僕は何を好み、何を嫌うのだろうか。僕には何ができて、何ができないのだろうか。そのことをかんがえれば、神様の目的や思考が分かるのではないのか。

 隣の席の少女のことを好きで、騒がしい日常が、平穏でない日常が嫌いだ。僕はただ誰にでもできるようなことしか出来ず、好きな相手に素直になれず、勇気を振り絞ることができない。

 思春期を迎えた人ならば皆が考えるようなこと。胸のうちに秘めているであろうこと。

 しかし、神様にとって、一個人の色恋や感情なんてものは重要視されるもののはずではないし、神様がそのようなことをかんがえているとも思えない。

 この世界には幾多の人間がひしめき合い、そういった感情が渦巻いているからだ。その一つ一つを摘み上げ、思考することは徒労にしかなりえない。

 考えたところで、人の考えは時とともに移ろいで行くものであり、それはとても簡単に行われるからだ。

 しかし、このことをかんがえている僕もまた、徒労にしかなりえないことをしているとしか言えない。結局、姿かたちのわからない相手のことをかんがえるということは、徒労にしかなりえないのだから。姿かたちのあるあの少女のことでさえわからずに悩んでいる僕なのだから。

 僕たちと神様は、互いに虚像を眺め合い、憶測でしかない自分の考えを押し付けあっているのだ。

 それは蜃気楼のように、真逆を写し込んでいるのであろうか。交わることない、出会うことのない、押しつけがましい理想の砂粒でできた砂漠をさまよっているのだ。


 だからこそなのだろうか、そんな神様が僕たちに用意したのは簡単で残酷な罰。二十年前から突如訪れた、嘘をつけなくなる、そんな罰だ。その罰は太陽がその地に垂直になる時間、12時に起こる。人々はしゃべろうと思ったことと違う、その人間の本心を勝手にしゃべってしまう。

 たったそれだけの事なのだが、僕たち醜い人間はそれだけのことで困ってしまう。偽れない、ありのままの自分をさらけ出すことが怖いのだ。嘘という、服を着飾らなければ僕たちの言葉は歩くことができない。だからこそ、世界は混乱した。

 その解決として、世界で出された答えがしゃべらないこと。その時間の間しゃべることを放棄することを選んだのだ。人はしゃべる必要のない理由を与えられるだけで、この混乱は簡単に収まった。実に単純で、実に醜く、恥ずかしいことだ。

 この制度のことを「沈黙の半時」と名付け、今なお続いている。

 改めることはなく、ただごまかし続けることを選ぶ、醜い僕たちの本質。そんな現状を見せられている神様はどんなことを思っているのだろうか。ただ、悲しく見守っているのだろうか。それともざまあみろとでもほくそ笑んでいるのだろうか。

 落胆し、絶望しながら見放されたりしていないだろうか。僕ごときに神様のことがわかるとは思えない。だからこそ、僕の中の神様はきっと落胆し、僕らを見放しているのだろう。

 ただそれは、僕の中の神様ではなく、僕自身なのかもしれない。自分に落胆し、自分の周りの世界に落胆する。そんな自分から変わることのできない自分を正当化し、守るための言い訳に過ぎないのだろう。

 結局のところ、神のみぞしるところなのだ。

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