熊沢さんは推理する
一応、スマホでご覧下さった方々にも読みやすくなるように、想像して組み立ててみました。
ここはダメ、とかご指摘下されば幸いです。
あとナレーターが……お気に召さなかった場合、歯を食いしばってご一読を。
こういうイメージで話を考えてしまった。
後編でサクッと終わるので、よろしくお願いします。
熊沢さんが、弁当箱とスリッパをブラブラさせながら自分の教室に戻ってきたよ。
開けっ放しだった教室の後ろの扉から入るみたいだ。
昼休みもそろそろ終わりだね。
彼女は時間ギリギリまで、休みを満喫するタイプでは無いからね。
廊下側の一番後ろにある、自分の席に腰を下ろした熊沢さんは五時間目の準備を始める。
すると教室の前の扉から、男子の一団が入ってきたよ。
黒田くん、保村くん、それに――井沢くんだ。
「井沢、お前無謀すぎるって」
「ナムナム~死体は拾わないよ」
井沢くんは2人のからかいを無視して、しかめっ面のまま自分の席――つまり熊沢さんの横――にどっかとばかりに腰を下ろした。
(また、何かやったな)
リーダーの教科書で口元を隠して、熊沢さんはこっそりと微笑む。
◇ ◆
熊沢さんは、鈴ヶ崎高校に通う女子高校生。
クラスは2年B組
クセのないまっすぐな髪をショートボブでまとめ、鈴ヶ崎高校のブレザータイプの制服をカタログ通りに整えている。
大きな特徴と言えば、
大丈夫? サイズがあってないんじゃない?
と言いたくなってしまう大きな黒縁の眼鏡。
そう。
熊沢さんは、見事に優等生そうなビジュアルを獲得しているんだ。
それも、いわゆる地味系女子とも両立している。
顔立ちは整っているのだが、サイズの愉快な眼鏡がそれを隠しているんだ。
だが、安心してくれていいよ。
キチンと気付いている者も居るんだ。
巨体をゆらしながら、熊沢さんについて語るのはクラスの賢者・金村くん
曰く――
「熊沢はそれだけじゃない。隠れ巨乳だ」
――金村くんのバカに幸あれ。
さて、その熊沢さんの横に座る井沢くん。
未だ五月中頃であるのに。ブレザーの上着はすでに椅子に引っかけられていてた。
カッターシャツも袖がまくられ、胸元のネクタイも盛大に緩められている。
髪もいわゆる蓬髪で、しかも、つむじがちょっとずれてるのか妙に逆立っていた。
「井沢~、次もやってみよう」
リーダー担当の細田先生が、その井沢くんに執拗に当て続けているよ。
細田先生は体育教師でもないのに、ジャージを愛用の生活指導担当なんだ。
名前に反して、少々小太りであるのが愛嬌と言えば愛嬌かな?
「え~~アイル~ミート、ユ~アット……」
井沢くんのカタカナ英語が朗々と響く。
先ほどから、この繰り返しだから、教室のあちこちでクスクスと笑い声が漏れているね。
突然だけど井沢くんは実はあんまりイケメンでは無い。
……フツメンも怪しい。
言ってしまえばブサメンだ。
顔の造作が大ざっぱで、よく言えば豪快なんだ。
そういう顔立ちの井沢くんが、苦悶の表情を浮かべながら、カタカナ英語を奏でる。
芸人のネタのように見えなくもないね。
そんな井沢くんの横顔をじっと見つめていた熊沢さん。
(おかしい……!)
と、いきなり定番の台詞を心の中で叫んでるね。
事件の臭いでもかぎつけたのかい?
――さあ、熊沢さんの“推理”が始まる。
◇ ◆
細田先生は、日付と出席番号で当たるのが誰なのか、わかってしまうタイプの先生だ。
そこから考えると、今日は井沢くんの当番では無いはずだけどね。
時々、こんな風に変化球を混ぜるのが厄介なところだけど、今日のは変化球では無く、打者・井沢へのビーンボールのようだ。
(井沢くんは、昼休みの時に細田先生と揉めた?)
熊沢さんは、まずそう考える。
それだと細田先生が悪者過ぎるので、恐らく井沢くんが何かバカをやったんだろうね。
熊沢さんも、そういう結論に落ち着いたようだよ。
いわば自分で当たりに行ったデッドボール――の方が比喩としては正しいんだろう。
これだと昼休み終わりに話していた、黒田くんと保村くんの台詞とも、合致するしね。
(――問題は何をしたのかよりも、何故やったのか)
熊沢さんは教科書で隠しながら、ノートに落書きを始めた。
これは熊沢さんのいつもの手順だね。
ノートの上に描き上がったのは、アホ毛のあるディフォルメされた一匹のクマ。
落ち着いて欲しいんだけど、これ実は「井沢くん」なんだよね。
ほら、熊沢さんがノートにさらに書き込んでいるよ。
井沢くんクマ、略して「井クマ」の側に書かれているのは、
“How?”と“Why?”
の二つの言葉。
やがて熊沢さんは“How?”の方に×印を付けてしまった。
そして“Why?”から矢印をノートの余白に伸ばして、そこに井クマを描いてしまう。
驚いたと思うけど、これが熊沢さんの“推理”の進め方なんだよね。
変わってるね。
さて熊沢さん。
そこで少し首を傾げる。
細田先生のいつものやり方だと、誰が当たることになっていたのか?
当然、それを考えるよね。
だけど、これは熊沢さんにとっては簡単なこと。
頭の中で、さっとリストアップしてしまったよ。
川村くんと岸部さんだ。
岸部さんは熊沢さんみたいな似非優等生ではなく、本物の優等生なので井沢くんが、かばう必要は無いだろう。
一方の川村くんは……何だか追い詰められた顔をしているね。
井沢くんの独演会を見ているのに、笑うどころかまるで祈っているみたいだ。
熊沢さんは、井クマの前にさらさらロングヘアのクマと、何だかピカピカ光っている効果付きのクマを描いていた。
ロングヘアのはすぐにモデルがわかるね。
岸部さんだ。
ということは、効果付きのクマの方は川村くんだろうか?
効果の意味がよくわからないね。
おや?
よく見ると、こっちのクマは随分りりしい眉毛をしてるじゃないか。
して見るとハンサムであることを示したいのかな?
確かに川村くんはハンサム――いわゆるイケメンだね。
そういう一般的な美醜の判断力を、熊沢さんは持っていたんだ。
これは驚きだね。
やがて、熊沢さんはロングヘアーのクマに×印を付ける。
川村くんのクマ――「川クマ」に丸を付けて、矢印を付けて新しい天地へと誘導。
そして熊沢さんのシャーペンが唸る。
出来上がったのは井クマと川クマが肩を組んで、笑い合っている様子。
……ちょっと疑問なんだけど、熊沢さん?
井クマのモデルは井沢くんだよね?
それなのにアホ毛だけで井沢くんの特徴あらわしてると思っているの?
ほら、そんな風にシャーペンで特徴を付け足し……おや?
熊沢さん、書き足すどころか、グリグリっとやって、全部無しにしてしまった。
井沢くんと川村くんが仲良しで、だから井沢くんが身を挺して川村くんを助けた。
――熊沢さんはこのシナリオにご不満のようだ。
(井沢くんは、こうじゃない)
熊沢さんは胸の内で強く否定した。
改めて井クマと川クマを描いてみた熊沢さんは、その二匹の間にシャーペンでクマと同じ大きさの丸を描く。
(……もう1人必要)
“推理”を組み立てるには、井沢くんと川本くんだけでは足りないと、熊沢さんは考えたみたいだね。
◇ ◆
「よぉし、井沢良いぞ。あとは放課後だ」
「……うす」
ようやく井沢くん・オン・ステージが終わったみたいだ。
だが細田先生のフルコースは、まだ終わらないぞ。
当てられて、ヘマをしてしまうと放課後まで細田先生は離してくれない。
これがあるから川村くんも焦っていたんだね。
その細田先生がちょっと口調を変えて、井沢くんに話しかける。
「お前は今日、朝から変だったぞ。スリッパあったのか?」
「ありました」
「どこに?」
「ああ……後ろのロッカーの奥の方に」
「お前は……焦らずに行こうや」
「今日は日直だったから、仕方ないんですよ」
「お前、今日日直か」
細田先生は黒板の隅に書かれた「井沢」の文字を発見したね。
そこでちょっと考える細田先生。
どうやら細田先生。今日は朝から井沢くんに面倒をかけられていたみたいだ。
だけどそれは、井沢くんが日直だから……かも知れない。
これはもしかする恩赦が……
「じゃあ、日直の仕事終わってからだな」
……やっぱり出ないみたいだね。
これは、この授業のことだけじゃなく、色々お説教もあるかもしれないぞ井沢くん。
それでも井沢くんは、着席を許されてようやく人心地付いたようだ。
おや?
井沢くん、珍しく女子の方をちらっと見たね。
熊沢さんとは反対側の列の一つ前、羽月さんだ。
羽月さんは小柄で。目を見張るような美貌の持ち主だよ。
髪はウェーブのかかったセミロングでよく似合っている。
その前髪の右側だけピンでまとめている、ちょっとお洒落さんだ。
井沢くんも、やっぱり男の子って事かな?
格好悪い姿を可愛い女の子には見られたくない――みたいなことかも知れないね。
さて、熊沢さんは……
わ!!?
どうしたの熊沢さん!?
その目は良くないよ! それは人殺しの目だよ!!
◇ ◆
@gnoinori
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名前はこことは別ですがw