Killing is saving
残虐描写、性的描写多数あります。R15設定程度ではありますが、気持ち濃い目とお考え下さい。
手は、一ミリも震えることなく、機械のように半ば自動的に動いた。
僕の手が軌道を描くサバイバルナイフは、それの首元を捉え、喉を切り裂いていく。
噴き上がる鮮血を返りに浴びないよう僕は直ぐ様サイドステップを踏む。
何万と繰り返した素振り通りの動きだった。
丁度相手が、シミュレーションを重ねた母親だったのも良かったのだろう。
そう、ぼろいアパートのリビングのフローリングの血の海に伏すのは、僕の母親。
母親と言っても血の繋がりはない。ダメ親父をたぶらかして、籍を入れ込み、むりくり上がり込んできた輩だ。
しかし、それ以前に、僕が切ったのは、義母の形をしたパンデミック症を発症したゾンビでしかないのだ。
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僕がナイフに目覚めたのは、少一の時だ。
屑な親父はいつも違う女を家に連れてくる。
僕は父親に逆らえば、包丁で僕はいつも脅されていた。
その包丁で僕はリスカをしていた。
それは、父親がもたらす恐怖を克服するための訓練に近いものだった。
僕は、すこしづつ父親の財布から金を盗み、近所の手伝いをしたりし、アングラのインターネットサイトで五万のサバイバルナイフを購入した。
サバイバルナイフが届いてからは、僕はリスカをしなくなった。代わりに小動物を捕らえては、殺すようになった。解剖もした。ネットで調べて、食えると言われる肉は全部食った。
獲物を食すのは、狩りを行っているかだと自分を正当化するのに必要な過程だった。
いつからか僕はネットの動画のナイフを使った対人格闘術を見漁るようになった。
屑な父親と義母を筆頭に、高校のいじめっこ等を仮想敵にして、僕は自室でナイフを振るった。
サバイバルナイフには、名前をつけた。その名は、ジャック。
イギリスの切り裂きジャックから付けた名前だ。
何故か、僕は一度もジャックで自分を傷つけたことがなかった。僕はジャックが僕を傷つけないなら、僕も自分を大事にすることに決めた。
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口を大きく開けて仰向けに倒れる義母を眺めながら、僕は歓喜した。
義母を殺したかったからじゃない。ジャックが仕事できる時代がきたからだ。
僕は、暗殺術の一貫として、気配を消して歩く術も練習していた。
更に、僕は隠しておいたダイバースーツに着替えた。
服が擦る時の音がせず、人の歯や爪にかかれない程度の防御性能があり、尚且つ動きを阻害しない。
極めつけは、同素材で出来た顔面フルマスクだ。
これらは、黒で統一しているため、夜道でただの影である。
- 同日午後5時
ネットの情報によれば、午後3時に発生した品川区の中心から大凡時速10kmで感染範囲外広がっている。
午後5時時点で、封鎖のために品川区全域を封鎖しようとしたが間に合わなかったらしく、今も拡大が広がっている。神奈川県内では箱根を防衛ラインに、北と東は東京都内から出さないように封鎖区域を作ろうとしているようだ。
今も感染分布図が、様々なサイトで更新されているが、箱根はともかく都内封鎖は合うかは微妙だと見られている。
- 同日時刻午後8時
まずは、腹が減ったな。家で食うこともできたし、それが安全だったかもしれない。でも僕は、どうしてもパンデミックが発生した混沌とした街中で、ただ食いをしてみたかった。
アパートの部屋を出ると、甲高い悲鳴が響いていた。長い長い苦痛に満ちた女の悲鳴だ。
街の様子は、街灯はついているし、普段と大きな違いを感じない。
悲鳴を除けば、むしろ少し静かなぐらいかもしれない。
僕は、アパートの三階に住んでいるのだが、一階にどうやらゾンビがいるようだ。
ドンドンと玄関の扉に体当たりを仕掛けているのが見える。
パンデミック症感染者… 僕には、どこかどう見てもゾンビだ。
ゲームでお馴染みのゾンビにしか見えない。
体の彼方此方に傷があり、皮膚と肉が損傷している。服もかなり破けている。
そして、何よりも仕草が人間が日常で行うものではないのだ。
音が立たないように、錆が付いたアパートの階段を降りていく。
近くで見ると、小太りの中年男のゾンビだった。
赤いTシャツに短パン姿。ちょっとそこらを散歩するような格好だ。
僕は、周囲の音に集中し、中年ゾンビしか周囲にいないことを確認する。
得物は既に右手の中だ。
後ろから1メートルの距離まで近づき、突然最速で前に大きく踏み込む。
そのまま刃を逆さに持って、後ろから頸動脈を深く切った!
『ゴボオ』と血が溢れるような音を聞き、中年ゾンビは地に倒れる。
ちらっと死亡を確認すると、背を向けて、立ち去ろうとした。
しかし、僕は何を思ったが、ゾンビの頭の額に、十字架の記号付を刻んだ。
自分でも何をしているのかは分からない。
そして、涙が溢れていた…
え、何故だ、何故、僕は泣いている!?
僕は悲しいのか…
何に!?
殺した事が?この見知らぬ中年が死んだ事が?
嬉しいんじゃないのか?ジャックの晴れ舞台じゃないかのか?
大きく深呼吸をして、僕は心を落ち着かせた。
大きく目を開いて、呟いた。
『そうか、僕は、救っているのか。』
病魔を感染させるための媒体と化した憐れな者を、平安なる死に着かせるため…
Killing is Saving...
僕は、今日のこの時のために、生まれてきたんだ。