081 肉を食え、肉を
ってなわけでギルドを出て大通り移動中。ぎょっとしてこっちを振り返る人々。ノルン目立ちすぎぃ!
「毛皮の置物かと思ってたけど、まさかお前の従魔だったとは」
マリクルは資料室で話し込んでる時から気になっていたらしい。アルルはびびってるのかちょっと距離を取ってたり。クロはベルに触ろうとしては逃げられている。
「この子達が居なかったら私は死んでたと思います」
そういう事にしておく。いや、死にはしなかったとは思うんだけどね。でもその場合はとんでもなく苦労していたと思う。もうほんとノルン大好き。だからもっともふらせろ。
のっしのっしとノルンを引き連れて移動してる途中、皆が屋台で串肉を買っていた。お昼ご飯用にするらしい。あとは固そうな黒パン。
なんとも言いがたい表情で見てしまったらしく、色々教えてくれた。
「つい半月位前までは常にお腹空かせてたけど、今は収入も増えてそれなりに食べられるようなったんだ!」
「前はこのクソ固いパンだけだった。今は毎食もう1~2品は買えるようになった。お前がトリエラに色々入れ知恵してくれたお陰だ、感謝してる」
「孤児院にいた時からそういう所あったけど、やっぱレンは凄いっていうかおかしいと思う!
たった1年ちょっとでここまで色々覚えてるとか、一体何やってたの?」
アルル酷くない? でもまあ、色々やってました。うん、色々とね。でも説明できない事も多いので、お得意の曖昧な笑み。ニッコリ。
とまあそんな事を駄弁りながら門の外へ。そのまま歩きながら昼食も取る。行儀が悪い? いやいや、時間の短縮ですよ。街中の移動中に食べないのはぶつかって落としたりした事があったかららしい。なるほどなー
ところでさっきから気になってたので聞いてみる。マリクルが背中に木の板背負ってるんだよね。なんで木の板?
「ああ、これは盾代わりだ」
おお……木の盾。ていうか板に取っ手つけただけにしか見えない。あれだ、壊れたドア板? なんかちょっと強い体当たりとか受けたら割れそう。
「これでも何度かゴブリンから逃げおおせてる。俺は1番身体が大きいから将来的には盾役をやろうと思って」
一応将来的なパーティー内での役割とかは皆で話し合って決めてあるらしい。ふむー。
ちなみに、1番体格のいいマリクルは最初は両手剣とか重量系の武器を使おうと思ってたらしいんだけど、三馬鹿が全員剣を使いたがった結果、防御担当になる事にしたそうな。実際問題、盾役は身体ががっしりとしてるほうがいいし。
今の予定だと前衛は男子で固めて、マリクルが盾で抑え役、ボーマンが両手剣、リューとケインが片手剣と小盾装備で、ケインは前衛の指揮も兼ねる予定。
後衛は女子4人で、武器に関してはまだ未定とのこと。投擲武器は消耗品なのでコストが高くなってしまう為、悩ましいらしい。索敵役候補は何でも器用にこなせるトリエラか、身軽な黒猫族のクロか、そのくらいしか決まってなかったらしいんだけど、リコが魔法を覚えたのでアルルとクロも何かできるようになりたいと色々悩んでる模様。何を割り振るにしても後衛の指揮はトリエラで決まってるそうな。
なんて色々話しながら両手にパンと串肉を持って食べながら歩いてるんだけど、見てて危なっかしい。クロが今にも落としそう。
「ちょっといいですか?」
「んう? レンちゃ?」
黒パンを貸してもらってナイフで横に切って二つに割る。次に串肉も受け取って肉を串から外して挟む。ついでに手持ちの葉野菜も追加してみる。タレとかは元から肉に付いてるから、別に無くてもいいかな? これで簡易ハンバーガーもどきの出来上がり。
「はい、どうぞ。これで食べやすくなったと思います。落とさないように気をつけてくださいね」
「レンちゃ! 凄い! おいしい!」
うむ、いい笑顔です。癒されるわー。
「ちょっと、レン! クロだけずるい、私のもやって!」
「……すまん、俺も頼めるか」
アルルとマリクルの分もやってあげる。最後にトリエラの分もやってあげたら何故か苦笑された。
「相変わらず良く思いつくというか、面倒見がいいというか」
「性分です。面倒見がいいのはトリエラとマリクルもでしょう?」
「それを言われるとね」
私ももそもそとサンドイッチ食べながら駄弁る。私も具は肉系のサンドにしてみた。
「あー、おいしかった! 今度から屋台で買ったときにその場でパンに挟んでもらおうかな? 外まで串肉持って歩くのも途中で落としそうだし!」
多分それをやってもらうと、その内その屋台でそういう食べ物を売り出すようになると思う。いや、まあ、別にいいけどね……とはいえ一応伝えておく。
「むむむ、商売のネタになるのか! 悩ましい!」
アルルは、お金を貯めて将来的に冒険者を廃業した後、それを元手に商売をしてみたいとかなんとか。何時までも冒険者をやっていられないというのはわかる。
「それにしてもレンの食べてるそれ、前にトリエラがもってきてくれたやつでしょ? あれ、美味しかったなー」
「あれおいしかった、ありがと、レンちゃ」
クロ、食べ終わってないのに抱きつこうとしないで、ちゃんとしっかり食べてからにしようね?
「……レンのお陰でこうしてたまには肉を食えるようになったけど、もっと食えるように頑張らないとな。あの3人も五月蝿いし」
「だよねえ、もっといっぱいお肉食べたーい!」
トリエラが何気に顔を逸らしてる。うん、トリエラは時々私が食べさせてるからね。すまんね。しかし、肉か……
「角兎は、狩ってないんですよね?」
「ああ、狩ってないな。武器も防具も揃ってないし。あれが安定して狩れるようになれば肉の自力調達は出来るようにはなるんだが、孤児院に居た頃も農家のおじさんとか毎年怪我してたり、たまに亡くなったりしてただろう? だから、俺達は無理はしないって方針だ。リューとボーマンは五月蝿いけどな」
「あの2人は特に馬鹿だから、ほんと困るよ。リコとクロを見習えっての!」
ちんまい子もいるので安全策をとってるらしい。リュー辺りが『だからこんなチビ共つれてきたくなかったんだ!』なんて言ってるらしいけど、そのチビのなかに自分が入ってる自覚はないらしい。流石バカ王。
うん、よし。ちょっと色々思いついた。お節介かもしれないけどここにいるのはみんな私の大事な人達だし、みんなでお肉を食べようじゃないか。但し三馬鹿は除く。リコの分は後で持って行ってもらおう。
と決めたところで森に到着。まずは準備せねばなるまい。準備が終わるまではみんなに薬草採取していてもらおう。
という訳でいつものテントを取り出す。
「な、なに……!?」
いきなり現れたテントに言葉を無くしているところ悪いけど、まだまだ続くよ。
「4人とも集まってください。ダガーを配ります」
「え? ダガーって、リコが持ってたあのなんか凄い切れ味のヤツ?」
「あれ、ケイン達が欲しがってたな……」
「って言うか、もしかしてあれ作ったのってレンだったの!?」
みんなぼろぼろのナイフしか持ってなかったので、採取用にダガーを配布する。ついでに砥石も渡しておく。
「あれ? 私も?」
「トリエラもです。トリエラ、その剣で薬草採取やってるでしょう?」
「それは、うん」
やりづらいじゃん。とは言え、前に剣を押し付けた時にナイフ取り上げたのは私なんだけどね。
「そのダガーは皆へのプレゼントです。三馬鹿の分はありません。もし何か言ってきたら親切な冒険者に貰ったとでも言ってください」
「……相変わらずレンはあの3人には手厳しいな」
あの3人は別に友達でもなんでもないからね!
「私は少しやる事を思いついたので、4人は薬草採取しててください。準備ができたら呼びます。ノルン、ベル、周囲の魔物を蹴散らしてみんなの安全確保してね?」
「わふっ!」
「うぉふっ!」
これでよし。工作開始である。
今回作るのは盾2枚と槍を数本。皆が安全に角兎狩りが出来るようにするのだ。重要なのはメンテが簡単である事と、今後も武器の自作による自給が出来る事。なおかつ製法が簡単なら更に良し。
まずは槍。材料は角兎の角と、丈夫な角材。どちらも【ストレージ】に大量に余っている。
角兎の角、これは自作する上で材料の確保が容易だから。狩る対象は角兎で、狩れば狩るほど材料が溜まる。基本的に消耗品程度のものを考えているので、壊れたら新しく作ればいい。何よりも角兎の角は固くて丈夫。チェスの駒とかにも使われている。使い捨ての武器には十分。ちなみに私の箸もいくつかはコレ製だったりする。
角の根元、付け根側を大きめのピンバイス的な工具をいくつか作って、ごりごりと穴を開けて中空にし、更に横側からもロープを通す為にやや小さめの穴を開ける。丈夫な角材も握りやすいように円柱状に削って、先端のほうは横からロープ穴を開ける。角の根元側の穴に差し込み、これまた丈夫なロープを横穴に通してがっちり固定。【身体強化】で腕力底上げして緩まないようにしっかり固定する。
軽く振り回してみたり木を突いてみたりして確認。うん、しっかりしてる感じ。長さ的にはショートスピア位かな? 長すぎても邪魔だし。穂先が角なので突きしか出来ないけど、急所を狙うとか大人数で黒髭危機一髪ごっこする分には問題なさそう。
3本目を作ってる辺りでマリクルが私の背中側から肩越しに、興味深そうに私の手元を見ていた。薬草採取はどうした。
でも丁度良いか。ついでだし、今後の為にここでマリクルに作り方を覚えてもらおう。
「……意外と簡単に作れるんだな」
「作り方は覚えました? でしたら1つ作ってみてください」
「俺がか?」
「今後は自作してもらいます。材料はこれから勝手に余るでしょう。マリクル、角兎の解体とかは出来ましたよね?」
「なるほど、そういう事か。任せろ」
私の考えを理解した模様。穴開け用の工具も渡しておく。
「返さなくていいです。そのまま持っていってください」
「いいのか?」
「無いと作れませんよ」
「そうだな、わかった。ありがとう」
この辺、マリクルは変に遠慮しないので、一々問答しなくて済むので気楽で助かる。
「……こんな感じか?」
「私の作ったものと使い比べてみて、問題がないようなら大丈夫です」
「……大丈夫そうだ」
振り回したりその辺の木を突いてみたりして、使い勝手をみた感じだと問題なさそうで、マリクルは何度か頷いてる。
「角材はしっかりとした、固くて丈夫なものを使うようにしてください。下手にケチると簡単に折れて死にます」
「わかった」
次は盾。予備も含めて2枚は作っておこう。予備という名目だけど……癪だけど、2チームで狩ったほうが効率もいいだろうから、三馬鹿の誰かが使うと思う。むかつくがそこは諦める。女子がお腹空かせない為には仕方がない。
適当な木の板を数枚用意、長方形にカットして、紐でつないでそれを数枚造る。その表面にオークのなめし皮を貼り付けて固定していく。次にそれを三枚ほど重ねて更に固定して縁とかもがっちり補強。裏側に腕固定用のベルトと持ち手をつけて完成。
あっという間に盾が出来上がっていく様子にマリクルが目を丸くしている。【木工】も【革加工】もLV8だからね、そりゃ早いよ。
「こんなところでしょうか……付けてみてください」
「俺がか? 2枚あるのは何でだ?」
「予備です。……まあ、誰かが使っても文句は言いませんよ、一応」
「すまん……」
私の心情を察してくれたらしい。ともあれマリクルが盾を装備して装着した腕を回したりしている。
「どうです?」
「いや、凄いなこれ。軽いって事は無いけど、重過ぎない。それに作ってるところを横で見てた感じだと、かなり頑丈だろう?」
「丈夫には作ったつもりですけど、木の盾や皮の盾はどちらかと言うと消耗品ですから、もし壊れたら無理に使わないで次はちゃんと店で買ってください」
「分かった。それで、次はどうするんだ?」
まあ、呼ぶ前に既にみんな集まってるからね、呼ぶ手間が省けたとは思うんだけど、なんだかなあ。
「これから皆で兎を狩ります。自力で肉を確保できるようになってもらいます」
「お肉!」
「にくー!」
アルルとクロの目が怖い……
「マリクルが盾役です。角兎の突進を受け止める役です。でも、受け止めるだけではなくて、受け流したり、逆に盾で押したり叩いたりもしてみてください」
「シールドバッシュとかチャージとか言うやつか……つまり、肉の確保と同時に、俺は兎相手に盾の取り扱いも覚えろと言う事か?」
「……物分りが早くて助かります。将来的に盾役をやるのであれば、今のうちに取り回しを覚えたほうがいいと思いますので。いきなり重い金属盾で、重さに慣れるのと取り回しを覚えるのを両方同時にやるよりは、今のうちに取り回しを覚えて、後は重さに慣れるだけの方が楽だと思います」
「そこまで考えてくれてたのか……すまん、助かる」
「3人は、マリクルが兎を抑えて無力化、或いは安全に攻撃できる隙を作ったら、この槍で刺し殺す役目です。攻撃をする順番やお互いの立ち位置とか、ちゃんと相談して連携を取るようにしてくださいね」
「この槍の先って、兎の角?」
「今後も肉を自給する上で、武器の準備が容易に出来るように考えてみました」
「レン……」
トリエラとアルルが潤んだ瞳でこっち見つめてるけど、そんなに気にしないでいいよ?







































