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006 お風呂は文化の極みですね


 水辺を求めて移動して川辺に辿り着き、そこに定住すると決めてから二ヶ月。

 転落事故にあったのは確か三月頃だったので、今は春も通り過ぎちらほら初夏が近づく頃合いだ。

 今私は川の近くの掘っ立て小屋に住んでいる。いや、これでも大分マシになったんです。ほんとに。今が暖かい時期でよかった。


 最初は竪穴式住居の方がまだマシ、というレベルだった。テントというかなんと言うか……数本の木材を錘状に建てて、枯れ草を屋根にしたというか……はい、造ったその日の夜に強風で吹っ飛びました。泣いた。

 何度も建て直しては崩れて、何とか打開策は無いかと考え、MP回復ポーションを作って直ぐにそれを使って無理やり回復して小屋を強化、と言う事を繰り返し。

 今では何とか強風で倒れない小屋になりました。ここまでで一ヶ月経過。思い出すのも嫌になる地獄の日々でした……


 次に優先的に行ったのは食生活の改善。

 あ、一応合間合間で小屋は強化してますので。雨の日の雨漏り、本気で辛いです。

 え? あ、はいはい。食生活の改善でしたね、はい。

 最初にやった事は周囲の確認でした。危険な動物が居ないか、何か食べやすいものは無いか。

 一応食用可能な実が生る木を数本発見、茸の群生地も2ヵ所発見。そして危険な魔物が居ない事も確認。その過程で【警戒】と【探知】のスキルが生えてびっくりしたのも今では懐かしい思い出です。

 ちなみに【警戒】は襲撃や不意打ちなどに反応するスキル。勘がよくなる、と言うかなんと言うか……

 【探知】は自分を中心とした効果範囲内のものを何となく感知するスキル。探知系の上位スキルになると悪意の有無や種族なんかもわかるようになるらしい。


 ただ、やはり安定してバランスのよい食事を、というのは難しく……今ではお腹を膨らます為のおにぎりとは別に栄養サプリを飲んでます。うん、簡単に作れまして……お陰で成長の為の栄養面に関しては気にする事がなくなりました。

 ごめん。嘘。美味しいもの食べたい。ううううううう! 飽食の日本が懐かしい……


 そんな状況の打開の為に調味料が豊富な完成品の食事の創造が出来ないか試した所、要求MPが多いようでちょっと現実的では無かった。

 代わりに栄養的に塩を作れないかと試してみると、其方は多めのMPと引き換えに何とか作れたので、塩分不足は何とかなりそうだった。

 香辛料に関しては自生してる胡椒っぽいものやハーブはあるので、なんとか? 前世では凝り性だった所為で自炊する技術はあるから、材料が揃えられるならそれでなんとかいけそうかな?

 いや、美味しい食事は大事だからね、仕方ないよね。


 さて、一応の衣食住が整い、身の安全も確保されたとなれば次は住環境をより良いものにする為の努力ではないかと思う次第でありまして。


 はい、つまり風呂です。


 え? 家をちゃんとするほうが先? いやいや、風呂が先だよ! 川の水は冷たいんだよ! 【洗浄】で誤魔化すのはもう嫌なんだよ! ちなみに疲労は疲労回復ポーションのお陰でどうとでも。


 今の風呂は河川敷の一部を土魔法で掘って、大きめの石をいくつも集めて区切ってそこの水をお湯に換えて入る形。

 でもこれだと雨の日とか、これから季節が変わって冬場になったら入れないから、何とか家のほうに増築する形にしたい。


 そんなわけで今日も地道に石材と木材を集めてる訳ですが、集めた材料を使って家を強化するのに使うMPが足りなすぎて先が長すぎるのが最近の悩みの種。一応今の最大MPは70。あれから増えてはいるけれど、もっと沢山ほしい。


「……発想の転換が必要な気がする。現状の回復ポーションで誤魔化すのには限界がある」


 そもそもMP回復ポーションを作るのもかなり消費が大きい。検証した結果、作り置きしたポーションで無理やり回復させて一気に家を強化したほうがロスは少ない事はわかってる。それでもやはり一度に使える最大量が少ないのが問題なのだ。


「いっその事、一時的にでも最大MPを増やすポーションが作れたら……?」


 以前のスキル検証の時にステータスを一時的に上昇させるポーションは作れた。なら、一時的にとは言えMPの上限を上げるものが作れれば? 

 思いついたら即実行だ。MADだからね、安全よりも思いつきの検証が大事だからね? 仕方ないね!


 結果から言えば作れました。

 でも最大MP強化ポーションの製造効率が悪すぎて笑うしかない。笑うしかない……


 うん、素材として今まで作り溜めておいたポーションと採取してあった薬草が全部なくなりました。うわあああああああああああ!


 そこからの作業工程としては、強化ポーションを作った後にそれを使って増えた分を回復する為のMP回復ポーションを作り置きする為の材料集めに1週間。作り置きに3日。そしてポーションを飲みまくりながら家の増築に丸一日励んだ結果。


 私は今自宅でお風呂に入っています。


 これからまた色々と素材収集してポーションを作り置きして、とか考えると憂鬱で仕方ないけれど、今は至福なので考えない。考えない。大事な事なので二回言うよ。

 そして風呂はいいね、文化の極みだね。


 自重せずに増築した結果、土を盛って石を積み上げ2mほどの石垣を作り、やや広めの庭の一角に畑。そして建屋は二階建ての一戸建て。

 入って直ぐに居間、少し奥に厨房。更に奥に風呂とトイレ完備。

 一階には他に客人用個室と物置、二階に寝室と書斎予定の部屋。ついでに地下室もあったりする。

 そんな色々と馬鹿げたものが出来上がった。家具は追々追加していく予定だ。後悔はしてない。排水関係の下準備が面倒だったけど、そこは土魔法でがんばった。

 ちなみにトイレの処理は後々【創造魔法】で肥料に変換する予定なので、溜めるタイプ。でも王都や領都みたいな大都会だと下水道があるらしい。


 いやあ、それにしても便利だね、魔法って。



 そんな事を考えながら植物性のボディソープを作り出して身体を洗う。


 あ、そう言えばこれも売り物になるんじゃない? シャンプーもいいよね。

 うーん……夢が広がるね! でももう森を出る気はほとんどないけど! ちなみにこれも【創造魔法】で作ってたりする。割と消費が多いのが困りものだけど、仕方ないのだ。必要経費なのだ。



 身体を洗いながらふと股間に目をやると、うん、凄く微妙な気分。

 前世では有ったモノがない違和感と、なくて当然と言う感覚とが複雑に絡み合って、なんとも言えない。


 この数ヶ月で意識の在り方は大分落ち着いたような気もするけど、やっぱり前世の記憶からの影響は大きくて、考え方や価値観なんかは前世の日本人のそれが強い。

 男性としての意識の部分もある程度残ったままの様で、相変わらず男性相手に云々と言うのは未だに嫌悪感しか湧かない。

 いや、余り難しく考えすぎないほうがいい。頭がおかしくなって死ぬかもしれない。もうこういう事に関してはその時になったら考える事にしよう、うん。


 でもそういう事は置いておいても、前世の知識が色々と役に立つのは間違いない。ここでの生活の向上にも大いに大活躍だしね。使えるものは使うべき。


 湯船に浸かりながらそんな事をぼんやりと考える。

 でも重要なのはこの先の事だ。仮にでもこれから先の行動方針を決めておかないといけない。

 転落事故の現場から移動した時はあまり深く考えてはいなかったけれど、私は自由を得た。あの孤児院を出る時は絶望しかなかった。先は暗く、自由の無いこれからの生活。

 そう、今の私は自由だ。何でも自分で決められる。自分で決めて生きていかないといけない。

 でも……何をすればいい? 正直、この世界で生きてきた私は生きる目的がなかった。ただ

生きる為に生きていた。それでも囲われてこれから先の人生を過ごすのは嫌だと考えていた。


 なら、前世の私は?


 前世の私は正直に言うと面倒くさい性格だった。自分のやりたい事が優先。その為にならやりたくない事をやらないといけないならばやるけれど、そうでないならば極力やらない。興味を持った事はとにかく追求する。だと言うのに基本的に面倒事と厄介事は嫌う。

 私だったらこんな面倒な相手との付き合いは控えるだろう。でもそんな性格の自分は嫌いじゃなかった。凝り性だったから変に自炊に凝った事もあったなあ……結果、プロ並と言ってもいい位の料理の腕になった。いやまあ、お陰で今困らないで済んでるけど。


 と、話が逸れた。

 とにかく、現世の自分に合わせて決められないなら、前世に合わせてもいいはずだ。一応同一人物だし。

 とにかく私は無理強いされるのが嫌。それに面倒事は嫌いだ。だから何かあった場合、逃げる。基本的にはこれで行く。

 そして取り敢えずは、このままここで過ごすのもありだろう。いずれはこの森を出る事になるかもしれないけれど、それまでは別にここで過ごし続けてもいい。何かあるまではまったりとスローライフを過ごす。うん、これで行こう。

 但し、スキルは鍛える。何かあった時の対抗手段はあったほうがいいから。


 それに作りたいものもある。

 前世では開発途中だったり失敗したりしたけど、この世界には魔法がある。もしかすると作れるかもしれない。


 大した目的も無くほぼ無目的だけど、取り敢えずはそんな所? 余裕が出てきたら世界を見て回るのもいいかもしれない。異世界旅行? 凄く面白そうだし、興味はある。

 今世の私が知っているのは孤児院があった街の事くらいで、それ以外は殆ど何も知らない。世界の常識なんてのも多分、全然足りてない。この世界にはインターネットなんて無いから、情報の共有なんてされて無い。

 なら、森を出たらそういった基本的な事から調べるのが優先かも?


 そんな感じで基本方針を決め、お風呂から上がった。


 あー、こんなにゆったりとお風呂入ったりしてたけど、そういえば私って孤児だった筈だよね? なんて考えながらふかふかのベッドでぐっすり寝た。このベッドも前世知識と【創造魔法】で作ったものだ。チートって酷いね……


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― 新着の感想 ―
[一言] 赤子の時に誘拐されて孤児院に居た場合は両親が生きているかもだけど、関係を調べる魔法でもないと探せないですね。
[気になる点] 前世が科学者だ技術者だとはとても思えないスキルと魔法依存が酷い。魔力に限りあるから魔法の検証しても時間あまるだろうからうろおぼえのアウトドア・サバイバル知識を試行錯誤でもすればいいのに…
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