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025 初仕事


 旅の疲れが溜まってた所為かちょっと起きるのが遅くなったけど、起床。着替え等を済ませて食堂へ。当然マントにフードは着用。

 朝食はパン、サラダ、スープと昨日の晩と一見同じようだけど、茹で卵が付いてた。卵、初めて見た。実は高級食材らしい。但し卵が付いてる分、昨日の晩よりも全体の量は少ない。

 でも良く見ればスープの具は昨日とは違うし、ちゃんと手が込んでるのが分かる。ここ、当たりだね。連泊決定。

 宿を出る精算の時に追加で3日分の料金を払うと、連泊客の証として木札を受け取った。整理券的なものらしい。


 寝過ごした割にはなんだかんだでそれなりに早い時間にギルドに着いた、と思う。さて、記念すべき初仕事ですよ、がんばろう!

 ……いや、それなりにね? がんばり過ぎて倒れても労働基準法とか保険とかないからね、この世界。

 ノルン達も連れて建物の中に。視線が集まるけど、無視。

 依頼票が貼ってある掲示板を遠目に見ると人だかりが凄い。うん、まあ、そっちに用はないから別にいいんだけど。


 私が受けるのは常時依頼の薬草採取だ。

 一概に薬草と言っても様々な種類がある。例えば傷薬と一言で言っても何種類かあるし、飲み薬もそうだ。毒消しだって何種類もあるし、医療用の痛み止めなんかもある。他にもポーションの材料だって作るものによって何十種類もあるのだ。

 無論それぞれが単一の種類の薬草で作られる訳ではない。薬草採取と言ってもその種類は多種多様、薬草採取道は奥が深いのだ。

 という訳で、掲示板には目もくれずに窓口へ直行。


「薬草の採取依頼をお願いします」


「あ、はい……薬草採取ですか?」


「薬草採取です」


 職員さんは私とノルンを交互に見ながら聞き返してきた。昨日、登録した時とは別の人だ。


「あの、討伐とかでは……?」


「私まだ11歳ですから、受けられません」


「え……?」


 うん、こんな大きな狼連れてるけど、私11歳だからね。討伐無理だから。もういい加減その反応は慣れた。


「薬草採取でお願いします」


「アッ、ハイ」


 依頼受諾確認。即離脱。面倒事は回避だ。変な連中に声を掛けられる前にすぐさま街の外まで移動。ギルドカード提示で今回はあっさりと門から出られた。


 暫く街道を進んだ辺りで周囲を見回す。私と同じく採取依頼を受けた子達だろうか? 小さな子供達があちこちで地面に這って、何かを探している様だ。

 結構賑わってるので、この辺りだと何も採れそうにない気がする……でも良く見れば南の方に大きそうな森があった。あそこで探してみよう。


 40分程歩いて森に到着。私の【探知】だとレベルが足りないので、薬草なんかは反応しない。でも。


「ノルン、森に居た頃に集めてた薬草とかが沢山生えてる所、分かる?」


「わふっ」


 ノルンは分かる。ノルンは私よりも【探知】のレベルが高いのだ。

 ノルンの後を付いて更に40分程歩くと、薬草の群生地に出た。軽く見回したところ、人の手は全然入っていない様だった。ぐるりと見回しながら群生する薬草の7~8割程を全て【ストレージ】に納める。かなりの量だ。でもまだ足りない。

 別の場所を探してもらって、其方にも移動。収納。合計で4ヵ所程回り、薬草以外にも料理に使うハーブや野生の香辛料等も集めた。引き篭もっていた森では見かけなかったものも幾つか有った。これで料理の幅が広がる。

 次にその辺りに生えてる木に巻きついた蔦を大量に集める。そしてそれらを紐に変換。後はそれを使って集めた薬草を種類ごとに分け、それらを10本毎にひとつに束ねていく。といっても【ストレージ】を操作するだけだ。10本で一つの束、10本で一つの束、10本で一つの束……

 森の中で延々と繰り返す。正直飽きる。とは言っても種類毎に一括で分けられるのでそこまで時間が掛かる訳ではない。集めた数が多すぎるだけだ。

 端数分は次回に回せば良いかな? なんて考えながら【ストレージ】内を確認すると、ちょっとおかしい量になってる事に気付いた。

 そもそも、森に引き篭もってた時に採取していた薬草類も相当な量を溜め込んでいたので、それらと併せた事で更に酷い事になってしまってる。


「……これ、まとめて売ったら拙い気がする」


 いや、考え方を変えよう。数日分の仕事を終わらせたのだ、と。その分別の事ができる、と。

 と言っても、他にする事ってあまり無いんだけどね……取り敢えずは小出しに売る事にしよう、うん。


 そんな事を考えながらふと顔を上げると、もうお昼位の時間の様だ。

 そう言えばお腹空いたね。なにか作って食べようかな? ああ、そう言えばノルン達は……ノルン達の事を確認しようと後ろを振り返ったら、とんでもない事になっていた。

 オーク、ゴブリン、これは狼? あとなんかやたらでかい鳥。それに、これは……もしかしてオーガ? 初めて見た。

 兎に角、魔物の死体の山。いや、山って程は無いんだけど、とにかく惨事。その横を見ると2匹がゴブリンを齧っていた。


 え、これ、どうしろと?


 うん、なんだか狩りの練習をしてたらしい。ゴブリンを食べてたのは、他のは美味しそうだったのでお土産だって。いや、正直ありがたいけど、これ、ギルドで買取ってもらうのは拙くない? 討伐受けられないのに、こんな……取り敢えず全部【ストレージ】に仕舞って黙っておこう。それなら別に腐らないし。

 見なかった事に、じゃなくて前向きに考える事にして森の外まで移動。昼をちょっと過ぎた位かな? 面倒な事を考えるのは後だ、ちょっと遅くなったけどここでご飯にしよう。


 ぺったんこの鞄から取り出す振りをしながら【ストレージ】からテントと小鍋を出して食事の準備。

 ノルン達のお陰で獲れたての角兎の肉があるから、それを使ってポトフ風のスープを作ろう。野菜はニコルさんに分けてもらった物が幾つかある。じゃが芋はないけど。じゃが芋欲しいな。トマトっぽいものがあればミネストローネ風にしたりとか色々出来るんだけど、ないものは仕方ない。後で市場とかも見て回りたい。

 あれよあれよとスープの出来上がり。マントの中でこっそりとおにぎりを作り出して一緒に食べる。日本人はやっぱりお米だよね。パンだとあまり食べた気がしない。いや、パンをベースに惣菜パンを作れば……?

 なんて事をつらつらと考えながら食事を取ってると、遠巻きに何人かの冒険者がこっちを見てるのに気付いた。彼らも休憩中のようで、不味そうな携帯食を齧りながら羨ましそうにこっちを見ていた。

 ……そんなに見てもあげないよ。これは私のご飯だよ。


 ご飯も食べ終わったので後片付けしてテントも仕舞う。

 【ストレージ】に関しては魔法の鞄と偽る事で普通に人前でも使える。こんな便利なものを使わない手は無い。平穏も大事だけど快適な生活も大事だ。

 ちなみに私がダミーとして使ってる鞄は肩にかけることも出来るデザインのもの。ニコルさんが無料で譲ってくれた。

 魔法の鞄の使い方に関してもニコルさんが教えてくれた。

 容量が大きくても鞄の取り出し口が小さい場合、サイズの大きいものは出し入れできないなんて事は実は無かったりするらしい。

 そういう場合は片手を鞄に突っ込んで、空いたもう片方の手を中身を取り出したい方向に向けて念じる事で出し入れが可能になる、という事だった。

 ニコルさんは容量の小さいものを幾つか持ってるとかで、使い方を知っていたのだそうな。



 食後はてくてくと街道を歩いて街へ帰る。切り上げるのが早い? いや、夕方になると窓口混みそうじゃない? 人混みって苦手なんだよね。

 城門に着くと、昨日と違って今度はあっさりと通してもらえた。ノルン達の魔力認証はされたけど。

 大通りを冒険者ギルドへ向かって歩きながら、今日集めた薬草をどの位売るべきか考える。

 あまり沢山売って目立つのは拙い。でも少なすぎても生活が成り立たない。今泊まってる宿は三食付きだけど、それだけというのも寂しい。

 外食もしてみたいし、偶には自分で作ったりするのもいいし、悩むなあ……


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >魔法の鞄と偽る事で普通に人前でも使える。 ただし、ギルマスが容量が大きいというレベルだけど強奪される可能性は無い物として考える。 ですか? 殺したら駄目なアイテムボックス持ちってより…
[良い点] 美味しそうな獲物はお土産にしてクソ不味いゴブリン齧ってるモフモフたちにホロリとしました(*´ー`*) 美味しいご飯を食べさせるのは飼い主の義務であります。
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