171 なんだァ……てめェ……?
そんな訳で温泉地から半日ほど移動した先の野営地で野営中。まあ半日移動と言っても実際の移動距離は一般的な馬車の移動速度の数倍はあるんだけど。
ともあれ、作ったばかりのコンテナハウスが早速大活躍である。うんうん、作っておいてよかったね。
ん? 出発の時にジョージ爺さんに挨拶とかしなかったのかって? したよ? 実にあっさりしたものだったけど、冒険者って言うのはそういうものなんだよ。ラッドさんとの挨拶の時もあっさりしてたしね……。いや、私はまだ微妙に慣れてないけど。
そうそう、ちゃんとノルン達も帰ってきて一緒に出発したので、そこのところは大丈夫。
さてさて、それはさておき野営ですよ、野営。というか私的には野営云々よりもコンテナハウスの実用試験っぽい感じの方が強い。
コンテナハウス、今回の配置はL字配置でアリサさん、リリーさん、クロ、私、排水小屋を角に置いて折り返してキッチン、お風呂、トイレの並びにした。
馬車はトイレ小屋の横で、馬車とコンテナを混ぜてコの字配置。中心部に焚火を焚いて、並びの開放されてる面は街道に向けてある。排水小屋って言うのはお風呂とキッチンで発生した排水を溜めておく為の専用の小屋で、お風呂のお湯は専用の魔道具でろ過浄水して綺麗にしてから循環再利用、適宜川とかに排水。キッチンの排水はお風呂の排水とは別のタンクに貯めておいて浄水、お風呂の排水同様に捨てる感じ。当然だけど川が近くにある時はタンクに排水管をつなげて浄水にしてから直接川に排水する。
ちなみにノルン達は不寝番をしながら焚火の横辺りで適当に丸くなって寝るから問題ないとの事。なんだったら四畳半ハウスを出してそっちで私と一緒に寝ようと思ってたんだけどね。
パーティーメンバーの不寝番担当者は装備を完全に解除せずに土足のまま就寝。うーん、日本人の感覚で土足厳禁にしてしまったけど、不寝番をすっかり忘れてた、失敗失敗。
とはいえノルン達が居る限り私に不寝番の担当は回ってこないので、リリーさんアリサさん達用に靴裏の汚れを擦って落とす為の硬く起毛した玄関マットを用意した。
あ、後でオプションでコンテナ入口上部に付ける屋根でも用意しておこう。今のままだと雨が降った時にトイレまで行くと濡れちゃうし。うーん、やはり実際に使ってみないとうっかり忘れたり気付かなかったりしてる事が結構出て来るなぁ。
とまああれこれ考えながらもご飯である。
今日の当番は久しぶりに私。でも凝ったものを作る気も起きなかったのでありきたりだけど肉を焼いた、と言うかみんな大好きオーク丼である。半熟卵もトッピングしてあるのでちょっと豪華。後は不寝番の人の為に多めに野菜スープも作った。
「うーん、やっぱりレンさんが作ると全然味が違いますね……でも作ってる時に特別に何かしてるようには見えないし、なんでこんなに違いが……」
「リリー、難しい事は良いから味わって食べようよー」
「それはわかってるんだけど、でもやっぱり気になるし……」
最近料理にはまってるリリーさんは味の違いが気になるらしい。うんまあなんて言うか、私の料理スキルってレベルカンストしてるから、適当に作ってるようでも黄金比とかそういう感じで出来ちゃうっぽいんだよね。意識して抑えて作ればある程度は雑な味付けにしたりも出来るけど、何も考えないで最効率で作ると滅茶苦茶美味しく出来上がる。便利だけどね。
「レンちゃ、おかわり!」
「はいはい」
クロは最近よく食べるけど、成長期かな? なんかそのうち身長抜かれそうで怖い。
ちなみにノルンとベルは自分達で獲ってきた謎肉を食べてたりする。何の肉なのかは謎。ノルンが【アイテムボックス】から出した時には既に謎の肉塊状態だったからね……マジで何の肉なんだろう……。
「それにしてもレンさん、本当に『祝福』と同じ効果の魔法が使えるとか、凄いねー」
「本当にね……でも【神聖魔法】と同じ効果の【生活魔法】だなんて、実際に自分に使ってもらってもまだ信じられないよ」
そんな事言われても当の本人ですら何でこんな魔法覚えられたのか、全く心当たりがないんですが。しかし【神聖魔法】か……ふむ。
「ところで【神聖魔法】って聖職者しか使えないって話でしたけど、どうすれば覚えられるんでしょう? リリーさんは知ってます?」
「あー、【神聖魔法】の覚え方ですか……」
「知ってるんですか?」
「ええ、一応は知ってます。【神聖魔法】を覚えるには【信仰】というスキルを覚えないといけないんですよ。【信仰】は教会や神殿に行ってお布施を払って、神様に『宣誓』をする事で覚えられるそうです。その時点ではLV0だったかな? で、後は毎日お祈りをしたり善行を積んだりすると【信仰】のレベルが上がって、その【信仰】のレベルに応じて【神聖魔法】のレベル上限も解放されていくんです。【神聖魔法】の利点は色々ありますけど、例えば【回復魔法】の才能がなくても癒しの魔法を覚えられる事とかですね。神聖系回復魔法で、確か名前は『ヒールライト』だったかな?」
「おー……じゃあ私でも『宣誓』して【信仰】を得れば【神聖魔法】を覚えて回復魔法も使えるようになるという事ですか?」
「理論上はそうなります。ただ『宣誓』をするっていうのは『神に仕える事を誓う』っていう事なので、基本的にはそのまま神職として教会や神殿に出家する事が多いって話です。それに【信仰】のレベルを上げるのってすごい大変みたいで、よっぽど強い信仰心がある人でもないと、出家しないでレベルを上げるのはほとんど不可能って聞きました。ちなみに『僧侶』や『司祭』で冒険者をやってる人達は修行の一環ですね。荒行? 苦行? の一種みたいな感じだとか?」
「なるほど……」
利点は凄いけど、神を信仰するって事を聖職者として生活の一部に組み込むレベルじゃないとスキルレベル上げは難しいって事か。私には難しそうだなあ、色々と欲に弱いし。例えば食欲とか、あとは日課とか。
「あと、才能に関係なく回復魔法が使えるようになる、とは言いましたけど、使えるようになる【神聖魔法】には若干の個人差があるそうですよ。さっき言った『ヒールライト』は【神聖魔法】のLV1~3の辺りでほとんどの人が覚えるらしいですけど、上級回復魔法とか範囲回復魔法は同じレベルでも使える人と使えない人が結構いるって聞きました」
「毎日朝晩お祈りするだけで上がるんだったらやってみようかと思いましたけど、流石に無理っぽいですね」
「あー、そこが難しい所で、結局は『信仰心の高さ』が重要らしくて……昔、農家の娘さんで【信仰】LV10、【神聖魔法】LV8まで到達した人が居たそうです。朝晩のお祈りを欠かさず、後は日々農業を頑張ってただけでそこまで至ったとかなんとか……」
はー??? なんだそりゃー???
「出家して真面目に奉仕活動してる人でもそこまでのレベルの人はまずいませんよ……と言うか高位の聖職者でもLV6~7くらいの人すら数えるほどしかいないそうです」
「……滅茶苦茶神様を信じてる人だったんでしょうか」
「多分そんな感じだったんじゃないかと……」
うんよし、私には無理だな!
「私には無理っぽいので、やっぱり【錬金術】を何とかする方が最優先ですね」
「あー、その件についてなんですが、えー」
「はい?」
「えー、あー……」
「???」
「うー……」
「リリー、もういい加減ちゃんと言った方がいいよー」
「それはわかってるんだけど……」
「これ以上引き延ばしても印象が悪くなるだけだよー」
「あう……」
「何の話です?」
「ううう……」
「……はー、仕方ないなー。リリー私が言うよ、いいねー?」
「オネガイシマス……」
「本当にリリーは駄目だなあ……レンさん、実はね?」
「はい」
「リリーの実家はね、錬金術に滅茶苦茶詳しい魔導師の家なんだよー」
「は?」
「正確に言うとね、錬金術師と魔導師の両方の界隈で有名な家なんだよー」
「え? でもリリーさん、【錬金術】の覚え方は知らないって……」
「はー……それも本当の事だよー、リリーはね、錬金術師としては落ちこぼれ以下のダメダメ人間だったからねー」
「そこまで言わなくても……」
「本当の事でしょー? と言うかリリーは黙っててねー」
「ハイ……」
「リリーはね、今でこそ思慮深そうにあれこれちゃんと考えて行動してるように見えるけど、元々は喧嘩っ早くて短気でじっとしてられない性分でねー、鍋をコトコト火にかけて、魔力を流しながら混ぜ棒をぐるぐる混ぜ続けたり、ちまちまと魔力回路を焼き付けて魔道具を作るとかは性に合わなさすぎて、錬金術の修行の初日から逃げ出し続けてご両親に匙を投げられたんだよー」
「それは……なんというか……」
「幸いにも魔導師としての才能が高かったから、ご両親があれこれ頑張ってそっちを伸ばす事で何とか優秀そうに見える魔導師としての体裁を整えたのがダメダメ人間のリリーなんだよー」
「そ、そうだったんですね……」
「リリーはダメ人間の癖に格好つけたがりな所もあるから、レンさんに落ちこぼれって事を知られたくなくて今まで嘘をついてたというか黙ってたと言うかー……」
あー……まあ、気持ちはわからなくもないけど、うーん……。ちなみに私と一緒に実家に帰省した時はご両親や使用人達にも頭を下げて錬金術関連の物を隠してもらってたらしい。
「えーと、なんと言うか事情は分かりました、はい」
「許してくれるんですか……?」
「あー、許すとか許さないとかではなくて、人にはそれぞれ事情とか感情とかありますから……私もリリーさんの気持ちが理解できますし。なので、これまで通りという事で」
「ううう、ありがとうございます……」
いやそんな、別に泣かなくても……。
「ちなみに、完全に何もわからない感じなんですか?」
「ぐすっ……いえ、両親や親族が調合とかしてるのは横で見ていた事があるので、どんな感じでやるのかというのは、漠然とはですが……」
「……なるほど。じゃあ何かの時にはちょっと意見を聞いたりするかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「わかりました、任せてください!」
「リリー、調子良すぎだよー」
「うっ……ごめんアリサ、ありがと……」
「どういたしましてー? まあリリーは駄目な子だからねー」
「今日ばっかりは流石に何も反論できない……」
「取り敢えずご飯食べちゃいましょう」
「あ、そうですね。って、ちょっと冷めちゃいましたね」
「このくらいへーきだよー」
そんな感じで新事実が判明したりしつつも和気あいあいと食事を取っていると、不意にノルンが頭を上げた。む、敵襲?
「ノルンさん、なにか来たー?」
「うー?」
アリサさんとクロもノルンの動きに気付いたけど、何が来てるのかはわかってないっぽい。ならばここは私の出番、という事で【探知】【気配探知】、ついでに【警戒】と【危険察知】も意識的にフルパワーだ!
……むむむ、大分離れたところに人が1人居るっぽい! 居るって言うかこっちに向かってふらふらしながら歩いて来てるっぽい? ……と思ったら、倒れ込んだっぽい? え、これって行き倒れ?
んー、どうしよう? ノルンに様子見か回収に行ってもらう? いやでも魔獣に間違われちゃうか。それなら私がノルンに乗って一緒に行く? うーむ?
よし、ここはみんなと相談しようそうしよう。
「……という感じで、あちらの方で行き倒れた人がいます」
「行き倒れですか……」
「他に周囲には誰もいない感じー? 盗賊の待ち伏せとかってことはないー?」
「他には人の反応は無いですね」
「じゃあ私がノルンさんと一緒に見て来るよー。危険が無さそうなら拾ってくるねー、行こうノルンさーん」
「ヴォフッ」
「アリサ、わたしも一緒に行く」
「よし、じゃあクロちゃんも一緒に行こうー、ベルちゃんはお留守番ねー」
「わふっ」
あれよあれよとそういう事に決まり、簡易的に装備を整えたアリサさん達が様子見に小走りに駆けて行ってしまった。
「大丈夫ですかね……?」
「アリサなら大丈夫ですよ、凄い強くなったみたいですし」
「あー、そういえばそうでしたね」
ジョージ爺さんとの特訓、傍目にもかなりやばかったからなあ……終わりの方は本気で殺し合いしてるようにしか見えなかったもん、アレ……。やっぱりバトルジャンキーだよね、ガチ勢マジで怖いわ。
あ、アリサさん達戻ってきた。
えーと、ノルンの背中に人がうつ伏せになって乗ってるね。意識は無いみたい?
「どうでした?」
「女の人が倒れてたから回収してきたよー。格好からして冒険者だと思うけど、肩掛けの鞄だけで大荷物は無いしボロボロになってるから、魔物に襲われて荷物を捨てて命からがら逃げ延びたって感じじゃないかなー」
「なるほど……命に別状はない感じですか?」
「私が見た感じでは大怪我とかはないと思うけど、その辺りはリリーに任せるよー」
「わかった、じゃあ後で私が診て、回復魔法だね。あ、レンさん、新しくコンテナハウス出してもらっていいですか? そこに寝かせましょう」
「はぁい」
ドーンと取り出してアリサさんの小屋の隣に連結。うーん、コンテナハウス大活躍。やっぱり沢山作っておいてよかったなー。
という訳で新しく出したコンテナハウスに行き倒れの人を運び込んで、ちょっと服を緩めて楽な状態にして怪我の確認。というのをアリサさんとリリーさんがテキパキとやって行く。私は見てるだけ。コンテナ内は狭いから三人も入るとぎゅうぎゅうなのだ。
「レンさん、『洗浄』お願いしていいですか? 服の汚れもそうですが、肌の方も結構酷いので」
あいあい。『洗浄』一発、ホホイのホイ。
「相変わらず凄い効果ですね……うーん、腕にやや深い切り傷、足も何か所か切り傷……噛み傷は無いから、狼系とかの魔獣じゃなくて武装したゴブリンとかコボルトか、或いはオークですかね?」
ほうほう。
えーと、見たところ肩にかかるくらいの長さの黒髪、目の色は意識がないのでわからないけど、服装は革の胸当てに小手、脛あて、外套。後は武器に短剣と、短い杖……魔法使いか魔法戦士かな?
「軽くだけど回復魔法を掛けて……一先ずはこれで大丈夫だと思うので、後は意識が戻るまで寝かせておきましょう」
いいなあ、回復魔法便利だなあ。
「なんです?」
「いや、回復魔法って便利だなーと」
「確かに便利は便利ですけど、私は重症は治せませんし……レンさんのポーションの方が凄いと思いますよ」
そこは、隣の芝生は青いっていうしなあ……。余裕が出てきたら回復魔法ももう一度練習してみよう。
……さて、焚火を囲んで話し合いタイムだ。っと思ったらノルン・ベル・クロは周囲を見てくると言って走って行ってしまった。あー、何かしらの痕跡とか、魔物の追っ手とかいないかの確認は必要か。
「レンさんとノルンさんのスキルだと、周囲に他の人も魔物も居なかったんだよねー?」
「はい、いませんでしたね」
「じゃあ相当離れたところからここまで休まずに逃げ切った感じかなー? 運が良いねー」
「でも私達が居たからいいものの、そうじゃなかったら食料もなさそうだし怪我もしてるしで、普通に死んでた可能性も高いね」
「そこも含めて『運が良い』んだよー」
「あーなるほど、確かにそうだね」
「二人はどう思います?」
「うーん、ノルンさん達の結果待ちだけど、私は大丈夫だと思うなー」
「私も、野盗とか山賊の類ではないと思います。後は魔物が追いかけてきてるかどうかですが、それも多分大丈夫じゃないでしょうか? レンさんとノルンさんの索敵範囲はものすごく広いですから、それに反応しないっていう事は、おそらくは」
「それはそうと、私、あの人の事どこかで見た事あるような気がするんだよねー?」
「あれ、アリサも? 実は私もどこかで見た事あるような気がして……」
「話とかしたような感じはしないから、ただの気のせいかもしれないんだけどー……」
「レンさんは心当たり有ります?」
「いえ、全くないです」
「じゃあやっぱり気のせいですかね?」
ふむー、不思議な事もあるもんだ。
なんて話し合っているとノルン達が戻ってきたので報告を受けたけど、やはり周辺には危険そうな魔物は居ないらしい。
「そろそろいい時間ですね……不寝番ですが、私とアリサで起きてるのでレンさんとクロちゃんはもう寝てていいですよ」
あー、クロも偵察から戻ってきて早々に船漕いでるし、お言葉に甘えようかな。
「そうですか? それじゃあ……」
と、その時、眠らせていた行き倒れの人が目を覚ましたようで、コンテナの方から動く気配がした。
「え、ここ何処……? 家? あ、外? 外に人がいる?」
独り言が聞こえる……あ、外に出て来るね。
「あれ、ここ、外? じゃあこの家って……? ……あっ」
コンテナから顔だけ出してしばらくきょろきょろと周囲を伺っていたけど、こっちに気付いた様子。
「あっ! ああー! アンタ達は!」
「……どちら様?」
え、マジで知ってる人だったの?







































