169 ああ、朝日が眩しいなぁ……
おはようございます、六日ぶりの朝日です。
いやぁ……実に充実した数日でしたね! 何と言いますか、色々と興が乗りすぎてしまったが故と申しますかね? 色々と挑戦してみたり新発見したりして捗りました、はい! ……うん、反省はしてるけど後悔はしてない。
という冗談はさておき、実際に日課に費やしたのは四日程度で残りの二日は結局もの作りしていたと言うのが実情だったり。
うん、なんかすっごい捗った。エリクサー作製滅茶苦茶成功したんだよ。四日も日課しまくったからハイパー賢者タイムかな? ってうるさいわ!
いや、割と本気で冗談抜きに、凄いすっきりした気分で集中できてポンポン成功したんだよね……。だからと言ってまたすぐ籠ろうとは思わないけど、やっぱり気分転換って大事なんだなってしみじみ思ったよ……。
でもまあ二日ぶっ通しでエリクサーだけ作ってたわけではなくて、ちょっとした小物とかもちらほら。いや日課用とかじゃなくてね? 真面目な奴よ、真面目な奴。
まずはこちら、中距離会話用の魔導式双方向通信機! 見た目はまんまトランシーバー! とは言っても私自身を発信局に見立てて無理矢理でっち上げたものなので、私を中心に半径1キロ圏内でしか使えなかったりする。通話可能範囲もそこまで広くないし、私が近くに居ないと使えないという致命的な欠陥はあるものの、それでも離れた相手とリアルタイムで会話できるというアドバンテージは非常に強力だ。一応中継塔に該当する物も作製済なので、こっちも設置すれば更に通話距離も伸ばせるようになる……んだけど、通信機も中継塔もワイバーンの魔石を使ってるので、そちらの在庫を考えるとあまり沢山作る訳にはいかなかったりもした。
通信機は一基に付き魔石一個使用で、私、リリーさん、アリサさん、クロの分と予備に二個の合計6つ作製。中継塔は一基に付きワイバーンの魔石を三つも使うので三基しか作らなかった。これでワイバーンの魔石を合計15個も使ってしまっているのだ。
ちなみに魔導甲冑の改装でも15個使っているので、この時点で合計30個と既に半分以上使ってしまった事になる。
尚、中継塔は結界塔と同じくらいの灯篭サイズなので、持ち運びには向かないという欠点がある。……あ、マジックバッグを使えばいいのか。丁度2人にも譲渡したところだし、余裕で色々使えるじゃん。よし、中継塔は三基あるし、2人にも一基ずつ預けておこう。あー、クロの分はまた今度考えるという事で。
いずれは何とかインカムサイズまで小型化して、ヘッドセットタイプにしたいところ。今の形状だと手が塞がるから戦闘しながら通話は無理だしね、利便性を考えるとやはり小型化は必須だと思う。
そして次に作ったのは二つ目の『魔法の扉』。正確には二つ目って言うか三つ目って言うか……。
元々作ってあった『魔法の扉』って自室に設置してある親機と外で使う子機の二つで1セットみたいな感じだったので、親機に繋がる子機の扉をもう一つ作った、というのが正しい。
えーと、爺さんとの世間話で教えて貰ったんだけど、転移魔法っていくつかの種類があるらしいんだけど基本的には儀式魔法の一種で滅茶苦茶お金かかるって話だったんだよね。触媒とかそういう諸々で。
それを聞いた時、私の『魔法の扉』も一種の転移魔法だよな、と思ったんだよ。
で、更にふと思ったんだけど、これって『子機の扉を複数作ってあちこちに設置して自宅を経由すれば、転移ポータル代わりに使ってノーコストで移動時間を短縮できるのでは?』って。
まあ実際はこの扉を使えるのは私だけなので、パーティーで活用するとかそんな美味い話ではないんだけど。とは言え私専用ではあるけど非常時の離脱・逃亡用の手段としては最強クラスなのは間違いない。
ついでに色々試してみたところ、自宅に入った状態で外に出してある子機の方の『魔法の扉』を収納するという意味不明な事が可能な事もわかったのだ。脱出・逃亡用以外でも、この方法は色々な場面でも活用できると思う。……まあ最大の問題は、現時点ではこの扉の子機が二つ以上作れなかった、という点なんだけど。
んー……なんとなくだけど、この作製数制限も【錬金術】未収得の所為な気がする。
もう一つ作製出来たらここに設置して、いつでも温泉に入れるようにしようと思ってたのに……。取り敢えずどこか拠点的な場所が決まったら、そこに設置しようかな? という訳でこれは当面は予備用という事で、しばらくの間はストレージの肥やしになる事が決定したのであった。
最後は野営の時に使うテント替わりの長方形の小型の小屋。中の広さは三畳程度だ。
内装は一応人一人サイズのベッドと小さな机を兼ねた小棚。床は絨毯が敷いてあって一応土足厳禁。あと室内灯も付いてる。
出入り口は引き戸だけど、基本的には引き戸は開放した状態で入口はカーテンを引いて目隠しして使う。非常時にはすぐに出られるようにする為の使い方だ。カーテンの丈は一応床ギリギリまであるので最低限のプライバシーは守られる。密談したい時は戸を閉めればいいので大きな問題はない。大丈夫、ちゃんと防音加工済。ちなみに窓は付いてないけど代わりに換気扇が付いているので、空気が籠る事はない。そして冷暖房完備なので夏も冬も安心である。
小屋の箱そのものには外壁のあちこちにジョイントが付いているので複数の小屋を色々な並びで連結させて使う事も可能だったりもする。
これをパーティーメンバー分に加えてゲスト用と予備込みで20個ほど作っておいた。世の中何があるかわからないからね……。これも後でみんなに渡しておかないとなあ。
最初は床面積を四畳半くらいにしようかと思ったんだけど、ちょっと広すぎるかなーと思いましてね……。いや、だって野営で使う訳じゃん? あんまり大きいと人数分出すにも場所がなかったりする時だってあるだろうから、やっぱり小型の方がいいかなーってね? ……一応四畳半サイズの小屋も5つほど作ってあったりするけどね、自分用と貴賓向けで。
……念の為、パーティーメンバー用と予備も兼ねてあと5つくらい追加で作っておこう。えいさー! ほいさー! よし完成! じゃあいい加減部屋から出るか!
ってなわけで数日ぶりに部屋から出て居間へと行ってみたらソファーで寛いでたらしい爺さんに遭遇。
「おお? 久しぶりに顔を見るな。随分と集中していたみたいだが、何か面白いものでも出来たのか?」
「ええまあ、色々と」
「ふむ? まあ捗ったならいい事だな」
全くだよ。まあ捗ったのは物作りだけじゃないけど。
あー、あとで爺さんにも二種類の小屋を一つずつあげようかな。色々旅したりもしてるみたいだし、あれば便利でしょ。譲渡した分は時間がある時に適当に補充しておけばいいし。
「なにか変わった事とかありました?」
「うん? いや、特には……あーそういえば……だがあれはなあ……」
なにかあったの? なかったの?
「実際に見るのが早いか。ほれ、リリーの部屋に行ってみろ」
「はあ……?」
うーん? まあいいか、行ってみよ。
という訳でやってきました、リリーさんとアリサさんが使ってる客間でござーい。ヘイ! ノックノック!
「リリーさん、いますか? 入りますよ?」
「あー、レンさんですか、どうぞー」
……なんか声に元気がないな。
部屋に入ってみるとリリーさんはベッドに横になってぐったりしていた。あれ、病気にでも罹ったのかな。
「あー、大丈夫です、病気ではないです」
「え、でも……」
大分具合悪そうに見えるけど、病気じゃないの?
「ええ……病気ではなくて、月の物です……」
あー……そういえばいつもは教会で祝福してもらって抑えてるけど、リリーさんは症状が結構重いって言ってたっけ。
「レンさんが部屋に籠ってから数日たった頃になりまして……祝福が切れてしまっていたみたいです」
「そういえば最近はずっと移動ばっかりでしたしね」
教会などで聖職者から女性冒険者が受ける『女性の守りの祝福』……通称『祝福』と短くして呼ばれるそれは、女性の尊厳と言うか、まあ分かりやすく言うと望まない妊娠を防ぐ為の物らしい。
効果は『月の物が来ないようにする』というもの。まあ月の物が来なければそういった行為をしても子供は生まれない、という訳である。一応月の物が来ないだけではなく、その辺りも保護されてるような状態になってるらしい。有効期間は大体一ヵ月って言うかきっちり30日。
そして結果として見ればそもそも月の物が来ない為、症状が重い女性も仕事を休まずに働いたりできるという事で、冒険者をはじめとした女性労働者には必須のものとなっている。あとはまあ、冒険者以外にも世界最古のお仕事に従事してる女性とか……うん、確かにこんな効果があるなら便利だよね……。
元々はとある女神様が前述の『女性の意思や尊厳を守る為』に作った神聖魔法だったとかなんとか……? ついでに少しだけど病気に罹りにくくなったりもするらしい。あ、これは孤児院に居た時に院長先生から教えて貰った豆知識ね。
ちなみにだけどそんな成り立ちなので当然ながら男性が祝福を受けても何の効果もない。
なお、この『祝福』を受ける時はお布施という名目でお金を支払わないといけないんだけど、この金額は宗派によって異なる。ここで言う宗派って言うのはどの神様を信仰しているかという違いくらいの話で、祝福の効果には差はない。でもってこのお布施の額なんだけど一番高額なのは光神教で、お値段はなんと小金貨一枚である。ゲオルギウス王国の国教に指定されてる風神教は銀貨3枚なので、光神教は相当お高い。参考までにこの二柱以外の他の属性を司る神の宗派だと銀貨2~5枚くらい。
……困った事に祝福以外の『怪我の治療』や『呪いの解呪』なども光神教だけ高額設定だったりする。その為、光神教はぼったくり教なんて呼ばれてたりもする。いや、同じ光神教の教会でも安い価格設定のところもあるらしいんだよ? でも大抵は高いらしいんだよ。
……なんか話がズレてきたな。
「『祝福』ってそんなに高位の神聖魔法って言う訳ではないみたいで、聖職者がいる教会に行けば大抵は受けられるんですけど、あの村には居なかったみたいで……」
最後に寄った村にも教会はあったのでリリーさんが確認に行った所、よぼよぼのおじいさんの神父だけで祝福が使える聖職者はいなかったらしい。
大蛇討伐の後、あの村を出る時にはそろそろ効果が切れてもおかしくない時期が近づいていた頃だったので、結構困っていたそうで……なんだか申し訳ない……。
うーん、これはもう隠さないでさっさとばらしてしまった方がいいかな? 私も『似たような効果の生活魔法』が使えるって。
よし、そうしよう。
「じゃあ私が代わりに魔法を掛けましょうか?」
「え? レンさんって神聖魔法は使えませんでしたよね?」
「神聖魔法は使えませんが、『女性の祝福』に似た魔法が使えるんですよ。『避妊』っていうんですけど、効果は聞いた限りほぼ同じです」
「……そんな魔法聞いた事ないんですが……無属性魔法か何かですか?」
「【生活魔法】です」
「……【生活魔法】にそんな魔法があるなんて聞いた事ないですよ……?」
うん、私も自分が覚えるまで知らなかったよ。冒険者ギルドの図書室で調べても載ってなかったからマジで謎。
……あ、そうだ。すぐそこに物知りさんがいるじゃん?
「ジョージさんに聞いてみましょう、色々物知りですし、知ってるかもしれません」
「……なるほど、確かに。そうしましょうか」
という訳で聞いてみた。
「なんだそりゃ、聞いた事ないぞ。そんな生活魔法があるなんて初耳だ」
えー。
「ジョージさんも知らない事があるんですね」
「俺なんて知らん事ばっかりだ。だがまあ、実際にあるっていうならあるんだろう。そうなると固有魔法かもしれんな」
「固有魔法? 固有スキルみたいなものですか?」
「そうだ、固有スキルが魔法の場合はそう呼ばれる。別に言い分ける必要もないんだかな」
へー。
「固有というほどではないが、魔法系統に『嵐』という希少な系統がある。要は『壁』を回転させて竜巻状にする、攻性になった『壁』魔法って感じの攻撃魔法でな、攻撃系では多分最上位だろう。でまあ、属性魔法のこの系統って言う分類が【生活魔法】における『応急処置』だの『乾燥』だの『洗浄』だのと言ったものの扱いと同じなわけだ。それで、魔法系統には個人差があるだろう? それと同じように嬢ちゃんのその『避妊』とやらも『嵐』同様に使い手が少ない希少魔法か、或いはそれ以上に使い手が少ない固有魔法だった、とそんな所じゃないか? よくわからんがな」
ほーん? そんな事もあるんだ? なるほどなー。
「他の魔法にもそういうのってあるんですか?」
「あー、確か【回復魔法】の『解毒』も、使い手によっては治せない毒があるとかなんとか聞いた事があるな」
「あ、それなら私も聞いた事があります!」
お、リリーさんも知ってるなら間違いなさそう。
「……私の知り合いはどうしても麻痺毒が治せなくて、それで仲間を死なせかけたとかで、思い出して泣きそうになってました……」
「それは……大変だったろうなあ……」
「ええ、幸い命に別状もなく、後遺症なんかも残らなかったそうです」
後で聞いた話によると、リリーさんの伯母さんの冒険者時代の仲間の話らしい。っていうか麻痺毒を喰らったのは今はハルーラのギルマスをやってるウォーゼルさんだったそうな。人に歴史あり、か……。
とまあ色々話し込んだ結果、今後は教会で『祝福』を掛けてもらうんじゃなくて私が『避妊』を使う事になった。実はジョージ爺さんが特殊な【鑑定】を使えるとの事で、それで見てもらったところ、効果がほとんど同じだったのだ。それならわざわざ教会まで行く必要ないよね、って事で決まったのだ。ちなみにちゃんとお代は戴く事になった。銀貨一枚だけどね、まあ仲間割りって事で。銀貨一枚は現代貨幣価格だと概ね千~一万円くらい? まあ物価とか全然違うから全くアテにならないけど、多分そのくらいだ。
なお、月の物が既に来てる状態では魔法をかけても効果がないらしいので、実際にリリーさんに『避妊』を使うのは症状が完全に落ち着いてからになる。ちなみにこれは『祝福』も同様だそうだ。
「本当にレンさんって便利ですよね……」
「冒険者を辞めても何でも屋で食べていけそうな気がしてきました」
「そうですねえ……って、冒険者辞めませんよね?」
「辞めませんよ」
今の所はね。
「で、ですよね!」
「ええ、今の所は」
「え!? 辞めませんよね!?」
だからやめないって、だいじょーぶだいじょーぶ。
「辞めませんよね!?」
ヤメナイヨー。







































