159 へへへ……いい薬揃ってますぜ、旦那ァ
少し短め
という訳で帰りの道中は特筆する事も無く代官屋敷まで戻ってまいりました。
え? 早いって? 巻きだよ巻き。何? 何か作るとか言ってたって? あー、あれは特に手古摺る事も無くサクッと作ったよ。
なんだかね、作りたいものを想定して、材料をあれこれ手に取ると何となく必要な素材とかわかるんだよね。コレ、最初はスキルレベルが上がったからかなーとも思ったんだけど、多分違うっぽい気がする、なんとなく。それでこっちも多分なんとなくなんだけど【創造魔法】と【解析】がいい感じに作用してるからじゃないかなーと思ったり。いや特に理由らしい理由もなく、本当になんとなくね。勘とかそういう感じの感覚で、そんな気がするって言う話。
それはさておき代官屋敷まで戻って来たのはいいけど私達は早々にお暇する事にした。いやほら、報告やら後始末やらなんやらでみんな忙しそうだし、ここにはそろそろ一週間くらい滞在してるし。
ジャンさん的には領主屋敷までのブラックバイパーの素材運搬も手伝って欲しそうではあったんだけど、そこは人足仕事に来た人への手当の支払いとかで経済回したり領民にお金が回るようにしないといけないとかの理由もあって、引き留められることはなかった。支配者層の人達は大変だよね……適当にやるならそうでもないのかもしれないけど、真面目な人は本当に……。でも山の奥から運ぶ事に比べれば平野部はある程度は道が整備されてるから、まだマシでしょ。
でもジャンさん的には運搬云々よりもアリサさんともうちょっと手合わせしたかったという理由の方が多そうな感じだそうです。やはりバトルジャンキーか……。
そんなジャンさんとの手合わせという餌に未練がましそうなアリサさんを連れて村まで戻る。
村の方でも結構なお祭り騒ぎ状態というか、運搬の人足の募集だとか害獣が駆除されたお祝いの準備だとかで色々と忙しく動き回っていた。
うーん、これは直ぐに出発したいところだけど、多分一緒にお祝いしようって引き留められるパターンだな。
そして村長さんの所に戻ると予想通り引き留められた。まあタダ飯は有り難いのでここはお言葉に甘える事に。とはいえあの祝い事の時にしか出さないって言う猪肉のステーキも出るという事なので実はちょっと楽しみでもあったり。
お祝いの祭りはなかなかに盛況だった。というか大騒ぎだった。討伐に出た兵士三十人の中にはこの村出身者も数人いたようで、そのうちの何人かが人足募集やらの件で一時的に帰る事を許されたらしい。ちなみに村長さん曰く、これは他の村に対しても同じだったみたい。どうせお祭り騒ぎになるなら討伐の様子を語って聞かせて領主様への人気も高めようとか、領民達への慰撫も含んだ意図からのジャンさんの指示なんだとか。兵士達全員を戻さないのは警備とか他にもまだ仕事が残ってるからだそうで……そういう残った人達へは多分あとで補填されると思う、とは村長さんの弁。
ちなみに討伐の様子を語る役にはアリサさんも自主的に参加していた。今回の個人武勲は無かったけど、小規模とは言え集団戦闘による討伐戦への参加は初めてで面白かったし、色々と勉強になる事が多かったとかで、実際に戦っていた兵士達から直接話を聞きたいというのも理由らしい。その過程で少し離れたところから見ていたアリサさんの客観的な視点からの兵士達の動きへの感想とかを述べたところ、兵士と混ざって色々語る羽目になった模様。
私? 私はもきゅもきゅとステーキを食べてたよ。本当に美味しいよね、これ。私の横でクロも黙々と肉を食べている。
って、よく見たらアリサさん、兵士達と一緒になってお酒飲んでない? ……いや、確かリリーさんとアリサさんって今年で15歳だっけ。15歳、飲酒が許される年齢……羨ましい。ああ、私も早く15歳になりたい、ストレージ内に大量に貯蔵してる色々な自作のお酒を飲みたい……。
別に15歳になってない人が多少飲んだって羽目を外さなければ顔を顰められるくらいで目くじら立ててくる人はそう居ないとは聞いたけど、私は一応は守るつもりでいる。まあ作ったお酒の出来を確認する為の味見で少し舐める程度とか、料理に使うとかはしてるけど。
ともあれ、何か間違いがあっても困るのでそろそろアリサさんを回収して村長さんの家の離れに戻ろう。もう割といい時間だし、明日には出発だし。
「アリサー! お酒なんて飲んで! もー!」
「リリーも飲もうよー、ぶっちゃけ不味くて最初は微妙だったけど、今はふわふわして楽しいよー」
「ちょ、ちゃんと立って歩きなさい! 明日も早いんだからね! あと私はまだ15になってないから! あと一月くらい先だから!」
「あははははー」
おおう、駄目だコレ。
へべれけのアリサさんを連れて離れまで戻り、リリーさんが何とか介抱というか面倒というか、酔っぱらいの相手をする。
「あはー、あははー」
「ちょっと、ちゃんと着替えてから寝なさい! ほら!」
うーん、アリサさんは笑い酒の亜種かな? ちょっと絡み酒もあるかも? ……そういえばお酒不味いって言ってたなあ……んー、安易だけど甘めのお酒なら好きそう。というか不味い酒って言うのも気になる。私が今までに見てきた感じだと、この世界で飲まれてるお酒ってビールって言うか、エール? ビールというかラガービールはまだないっぽい。まあ私のストレージ内にはあるけどね! ホップは森の中で生ってるのを採取しました。あと、薬屋に胃薬として置いてあったのも見たかな?
あとワインは普通に売ってたのと、果実酒の類もいくつか売ってるのは見た記憶が……たしか蜂蜜酒も有ったかな? ちょっとうろ覚え……。
でもって甘いお酒となると、果実酒系とか蜂蜜酒? まあ無いなら作ればいいだけなんだけど、あとは果汁を無味のアルコールで割るとか? 小麦やジャガイモからウォッカとかジン的なアルコールは作製済みなのだ。高濃度アルコールは消毒とかにも使えるし、色々使い道があるから。
……ええ、当然蒸留酒の類も仕込み済ですよ。ウィスキーとかブランデーとかね。熟成は【創造魔法】で時間短縮が出来たので、実は既に20年モノが存在してます。でもこれまた蒸留酒の類も見かけた事がないので、これを表に出したら色々ヤバそう。見た事が無いのはたまたまかもしれないけど。
と、アリサさんと格闘するリリーさんを眺めながらつらつらと考え事をしていたらアンナさんが手桶で水を持ってきてくれた。ありがたい。
水魔法で出しても良かったんだけど、酔っ払い相手に奮戦したくないしね。そうこうしているとリリーさんが手桶の水を木のカップで汲んでアリサさんにガンガン飲ませ始めた。うーん、リリーさん強い。
ああ、そうだ。いいタイミングだしアンナさんにアレを渡しておこう。というわけで、じゃーん! 私お手製のお薬!
効能はなんというか、ミーナちゃんが言っていたアンナさんの母乳に関するお悩みに効く感じ。ざっくり説明すると、魔力的に作用して薬効を高め、母乳の分泌を促進しつつ乳腺の詰まりをこれまた魔力的に作用して解消する、といった感じの魔法薬となっております。
ちなみに結構効き目が強いので薄めて使用する事が前提。原液で服用すると数日の間、滅茶苦茶沢山母乳が出る羽目になるのでマジで要注意。希釈する場合はさっきの手桶に大匙数杯くらい? なのでコップなら一滴から数滴程度かな。
と言うような説明をしながらアンナさんにポーション瓶を3本ほど手渡す。3本あれば半年~一年くらいは持つんじゃないかな、多分。いや、使う頻度にもよるけど。……近所の奥さんに分けたりしないよね? ……一応注意しておくか。
「え、そんな貴重な物を……本当にいいんですか?」
「ええ、どうぞ。私は使いませんし。ただし、使い方は間違えないようにしてください。それと近所の方に分けたりする際は使い方もしっかり教えるようにお願いします。……使い方を間違えると大変な事になりますよ」
「き、気をつけます……」
「後は小さい子供の手の届かないところに保存するようにした方がいいですね」
「なるほど、確かに……そうします」
うん、マジで気を付けてね。
この薬、老若男女問わずに効くから。あとは動物にも効く。だから乳牛とかに飲ませたら色々捗ると思う。……うん、鑑定したらね『効能は男女問わず、動物にも効く』って出てね……。つまり、おじさんとか幼女に飲ませると大変な事になるんだよ!
やったねレンちゃん! 新しいプレイができるよ! ってしねえよ! 誰がするんだよそんなマニアックなプレイ!
……いや、マジでしないから……そういう性癖ないから、本当に。
そんな感じにやり取りをしているうちにアリサさんは寝入ってしまった様子。リリーさんは本当にお疲れ様である。クロ? クロは我関せずって感じで離れに来たら早々に寝ちゃったよ。
「……なんだかすごい薬を作ったんですね。いつの間にそんなものを作ったんですか?」
「えーと、野営の時に?」
「野営の時に」
「はい。こう、ちょいちょいと」
「ちょいちょいと」
「はい」
「……」
……何かもの言いたげな様子。だが知らん顔で対応である。
「……なんというか……いえ、もう寝ましょうか」
「そうですね、寝ましょう」
色々言いたい事はあるけど口には出さずに飲み込んだ模様。大人になったね、リリー……。
「おやすみなさい」
うん、おやすみー。