147 さくやは おたのしみでしたね。
という訳ですっぽん鍋おいしゅうございました。
ん? すっ飛ばしすぎ? そうは言ってもねえ……?
えーと、最初は定番の生き血のオレンジジュース割り。リリーさんとアリサさんはワイン割り。次に足の肉とか肝臓とかの刺身。鍋は甲羅の端の方とかを気合いで削ったり他の部位で出汁をとって作った。でかいんだよ! そして最後は雑炊でしめ。まあ、平均的なすっぽん鍋の食べ方だったんじゃない? 知らんけど。
結構多めに作ったけど私も含めてお代わりしまくってお腹ぽんぽこりんになりましたとさ。げふー。
食後は居間でのんべんだらり。お腹いっぱいだし体ほこほこしてるし、もう動きたくないでござる。
でも気合いを入れてお風呂入って就寝と行きますかね……、今日は大捕り物で疲れたし。
私がお風呂から上がってきても、リリーさんとアリサさんは疲れてるのか居間でまだどことなくぼーっとしてる様子。
「二人共お風呂入ってもう寝ましょう、今日は色々疲れたでしょうし」
「ん? あー、そうだねー。お風呂入らないとねー」
「わ、わたしは今日はお風呂はいいです……今日はちょっと疲れたので……」
「なら明日の朝にお風呂に入るといいですよ」
「そ、そうします」
のっそりとお風呂に向かうアリサさん。でもリリーさんの方はなんだかソワソワ落ち着かない様子で自分の部屋に戻っていった。
「???」
なんか様子が変だったような……? まあいっか、私ももう寝よ……。明日も朝から次の依頼探さないといけないしね。
と、思っていた時期が私にもありました。
いや、自室に戻ってからあの大亀魔獣の素材で何か作れないかなーと考えだしたら色々興が乗ってしまいましてね? 血を素材に強壮剤的な奴を作ってみたり。そう、ここに新たな日課用ポーションが完成したのである! ちなみに今までのものより効果ははるかに上! 状況によって薄めて使いましょう、大変な事になること請け合いなので!
……あ、使ってませんので、あしからず。日課は自宅の自室以外ではしない事にしてるので。
そんな感じで結局寝付いたのは夜中になってしまったのでしたとさ。
でも朝はちゃんと早くに目が覚めるんだよね。習慣って恐ろしい。
あくびを噛み殺しつつ眠い目をこすりながら居間に出ると誰もいない。まあいつもの事なんだけど。
でもしばらく待っていても誰も起きてこない。今日の朝ご飯担当、リリーさんなんだけど……昨日寝るときに疲れてるって言ってたし、寝坊かな? ちょっと声掛けて起こしてこようか。
リリーさんの部屋の前に来てみると中に起きてる人の気配。というかなんかもぞもぞ動いてる感じ? だけどしばらく待っても出てくる様子もなし。うーん?
とりあえずノック。コンコン。
「リリーさん? 起きてます?」
ガタン! ドカッ! ……ごそごそ。
「???」
……え? なにしてるの?
カチ、ガチャ。
鍵を開ける音の後、少しだけドアを開けて半分だけ顔を出すリリーさん。そして部屋から漏れ出す独特のにおい。……ん? これって……?
「……ど、どうしました!?」
「あ、いや……朝になっても起きてこなかったので……」
「え!? 朝ですか!? 嘘、もう朝!?」
あー……うん、なんか色々察した。
「……昨日も寝る前に疲れてるって言ってましたし、今日はお休みにしましょう」
「あ、はい! なんだかすみません!」
「いえいえ、昨日は大捕り物でしたから。では、ごゆっくり……」
「はい、おやすみなさい……」
バタン。閉まるドア。そして静寂。ドアの向こうではまた動き出す気配。ちなみに割と激しめ。あー……。
次にアリサさんの部屋の前に来てみたけど、こちらも中では休むことなく動いてる気配。んー……。
……まあ、すっぽん鍋だし、そりゃ元気になるよね? あとは二人共そういう刺激物を摂り慣れてなかったんだろうね……。
それに普通のすっぽんじゃなくて魔獣、それもあんなに大きく育った魔獣だから普通のすっぽんよりも効果大きいんだろうなあ、多分だけど。
……そういえば夜中もずっと起きてるような気配あったけど、気の所為じゃなかったって事か。でも朝までオールナイトとは、流石に……。
ん? そんな危険物を食べて私は平気なのかって? いや、普通に我慢できるよ? 我慢っていうかむしろ普通に平気だよ。
私はほら、自作の専用ポーションでそういうのに体が慣れてるって事じゃない? 知らんけど。
……なんだろう、この罪悪感。
アリサさんには声をかけるのはやめて、ドアの隙間に『今日はお休み』って書いたメモを挟んで離脱。
とりあえず朝ご飯作ろう、二人も食べやすいやつ。
……水分補給も考えて、スープかな? 肉もちょっと入れてポトフっぽい感じで。あとは籠にパンいれて布かけておけばいいでしょ。出来上がったご飯を食べ終わった後、私は自分の部屋に戻った。
さて、急に暇になっちゃったし今日は何をしよう?
うーん……昨夜に引き続きまた何か作るか、寝不足気味だしちょっと仮眠取るか……? ……二人の部屋の方から伝わってくる気配の所為で非常に落ち着かない。
……これはあかん、このままでは変な気分になってしまう! よし、出かけよう!
そうと決まれば玄関に鍵をかけてお出かけタイム。二人のお楽しみを邪魔してはいけませんからね……来客はノーセンキューですよ? なので庭を囲ってる柵の門扉も閉めておく。うん、これで一見して留守に見える。よしよし。
一応ノルンを留守番に残すことも考えたんだけど、それは拒否されました。お母さん、過保護すぎ! 私もう子供じゃないんだよ! ……なんちゃって。
そんなくだらない事を考えつつ適当に露店を冷やかしていく。この町には結構逗留してるので、もうノルンを見て驚く町民は居ない。なのでノルンを見て驚いているのはゴブリン討伐需要で新しく来た冒険者達くらいのものだったりする。
あ、小亀の魔獣発見。
おー、もう獲ってきて売り出してるのね。町長、対応が早いなあ。とりあえず買い占めとこう。昨日のすっぽん鍋美味しかったし。そして私の買い占めに眼を見開いて驚いた様子の売り子のお兄さん。でも気にしない。あ、あっちにも売ってる。買い占めよう。
……と、そんな感じに買い荒らして回った。うんうん、これでいつでもすっぽん鍋が食べられるね。大型魔獣は色々素材としても使いたいから、全部食べちゃうのもちょっと勿体ないというか判断に困るところなんだよね……でも美味しいからなあ……本当に困ったね。
さて、一通り市場を荒らした後はどうするかな? 一人で依頼を受けるのもちょっと気分じゃないし、怒られそう。よし、適当に町の周辺散策でもしてみようかな。
という訳で町の柵の外に出る。ノルンがちょっと微妙な顔してたけど、遠くに行くわけじゃないから大丈夫だよ?
でもどっちに行こうかな? そういえば町の南の方って畑なんだっけ? そっちの方はまだ行った事なかったから、そっちの方覗いてみよう。
少し歩くと開けた場所が広がっていて、その一帯は全部畑になっていた。まあ畑とはいってもまだ芽が出たばっかりって感じの所が半分くらいを占めてるんだけど。農夫っぽい人かが訝しげにこっちを見てるけどスルーして散策。うーん、珍しい作物はないかな……? ちなみに【鑑定】を使ってるので畑の芽だけの状態でも何の作物なのかはわかるのだ。
ちなみにもう5月だったりするので、色々夏野菜を植えてるっぽい。しばらく歩いて行った先にあった畑になんか見覚えのある芽が……。
ん? んんん???? ……え? マジで? あー……。そうか、そういう事だったかー……。
……いや、うん。見つけたのは稲なんだ。畑に稲。田んぼじゃなくて畑で作ってる稲、つまり陸稲。
この国で流通してる米、短粒種なのに微妙な感じだったのはつまり、これが理由だったという事だね。陸稲って水稲に比べて育成段階で水が足りなくなるから、どうしても食用部である種子部分が硬くなりがちで食味が悪くなるのだ。
なんだか変な所で長年の疑問が解決したぞ……? でも微妙に嬉しくない。
だけど陸稲かあ……まあ、水田は管理が超面倒だしね……。
新しい発見というか陸稲を発見した頃にはもう昼くらいになっていたので町に戻る事にした。適当に露店で何か食べよう、作るの面倒だし。
なにか美味しそうなものないかな? と露店を見て回っていたら、声を掛けられた。
「あ、レンさん?」
「あれ? ネルさん?」
こんな所で会うとは珍しい。と言うか昨日ぶりか。
「どうしたんです? 今日はお仕事はお休みですか?」
「あー……それはこっちの台詞というか、なんというか……」
「???」
どういう意味?
「えっと、ちょっと一緒に来てもらってもいいかな? その、話したい事があって……えーと、あそこの宿の私たちが借りてる部屋なんだけど……」
そういって指差したのは以前私達がこの町に来た時に最初に泊まった宿だ。でも、話したい事? んー……もしかして魔剣の買い取りしたいとかって話かな? でもなぁ……売るのはちょっとなぁ……。
「あの、お昼まだなので、何か食べてからでもいいですか?」
「あ、ごめんなさい! 気が利かなくて……でも、それなら何か奢るわよ? えーと……あそこにしましょう!」
引き摺られるように連れていかれたのはこれまたこの町に来た日にお昼を食べた高級店。これは……もしかして接待?
結局宿に行ってから話したい事というのは食事をしながらになった。そして予想通りに魔剣を買い取りたいという話だった。
なんでも、ラッドさんは私が貸し出した魔剣がどうしても欲しくなってしまったのだそうな。そして、同じ剣を数本持っている事だし、お金を集めて土下座する勢いで頼み込めば一本くらいは譲ってもらえないだろうか、と考えたらしい。
それからはゴブリン退治の特別依頼を受けまくって荒稼ぎしまくった。
ラッドさんの武器が強力なものになればパーティーの戦力も向上するという事で、パーティーメンバー全員の同意の元に皆でそれはそれは頑張ったらしい。
ゴブリンに奪われた装備がほぼ全部返ってきたのも大きかったらしく、クエスト失敗からの立て直しに大したお金も掛からず、ラッドさん個人の貯蓄とパーティーの共同資産の一部を合わせて何とか金貨2000枚を集めてきた、との事だった。
だけどただ土下座して頼んでも売ってもらえると決まったわけでもないし、かといって信用と信頼を積み重ねるにしても時間も足りない。
そこで彼らが考えたのは、契約魔術使って契約を交わす事だった。
ここで軽く説明すると、大雑把な分類としては『魔法』は自分自身の魔力のみを使って行使するモノで、『魔術』は触媒を用いて行使するモノ全般を指す。
ただ、この辺の区分は割と曖昧なので、触媒を用いないと使えない儀式魔法や大魔法なんかは『魔法』と呼ばれてたりするし、使い捨てのマジックスクロールは一々『魔術』なんて呼んだりはしない。そんな感じで結構ふわっとしてるのだ。
そのなかでも『契約魔術』は特殊な処理をして作成される魔力を秘めた白紙のマジックスクロールに、一定の定められた書式によって記述する事で、契約者達に書かれた内容を強制する効果を発揮する、というもの。当然ながらこの契約魔術用のスクロールもかなりお高い。本当に頑張ってお金貯めたんだね……。
なお、契約魔術に反した場合、一時的に声が出なくなったり身体が動かなくなったりして、記載内容に違反する行動がとれなくなったりする。それでも無理に契約に反した行動をとろうとすると、全身に激痛が走ったり、最悪の場合は死に至る。
ちなみに隷属魔術はこの契約魔術の更に特殊なものらしくて、色々資格とか使用条件とかがあるとかなんとか? 私は詳しくは知らないけど。
そんな感じに契約魔術用の白紙のスクロールとか色々と準備を整えて、ついさっき私達が借りてる家までパーティー全員で出向いたんだけど、どうにも留守のようでしょんぼりしながら帰ってきた、という事だった。
そしてそのまま今日はお休みという事で散開したそうな。
「……つまり、私の情報を洩らさない事を契約魔術を使って誓う、と?」
「ええ。地道に信用を積み重ねるのが一番なのはわかってるんだけど、そんな時間もなかなかね……なんだったら敵対しない事も書き加えてもいいわ」
あー……それだと知らないうちに敵対してて酷い目にあったりしそうだから、その辺も盛り込んでおいた方がいいかな? うん、ラッドさんには昨日助けてもらったし、まあ、売ってもいいかな?
「わかりました、いいですよ。お譲りしましょう」
「いいの!? 本当に!? ありがとう!!」
そんな訳で食事の後はネルさん達の泊ってる宿屋に行って契約を交わす事にした。ラッドさんは一人で部屋でしょんぼりしてた。でも魔剣を売ってもいいと聞くと大喜びで他のメンバーを探しに駆け出して行った。……起伏が激しい!
今回交わした契約内容は下記。
1.私の情報を直接、間接を問わず洩らさない。
2.騙されたり知らないうちに敵対していた、等の已むを得ない場合を除き、私と敵対しない。
3.以上をラッドのパーティーメンバー全員が厳守する。
ラッドさんのパーティーメンバー全員と私が署名と血判を押して契約成立、そして今後この契約魔術のスクロールは私が所持する事になる。
「おお……! 遂にこの剣が俺の手に……! これで俺も魔剣士……! ありがとう……! 本当にありがとう……!」
「この恩は絶対忘れないわ! 何か困った事があった時とか、手が足りない時には声を掛けて頂戴、きっと力になるから!」
うーん、なんか凄い感謝されちゃってて居心地が悪い……。ちなみにラッドさんとネルさん以外のメンバーも滅茶苦茶お礼を言ってきた。私の手を掴んで上下にブンブンしながらだったりとか、涙目になりながらだったりとか。そんな中、ラッドさんはマジ泣きしてた。
しばらくしてから落ち着いた後、今回の魔剣の購入で一気に貯蓄が吹っ飛んでしまったので、ラッドさんは明日にでもゴブリン退治に行くと意気込んでいた。パーティー資産からの持ち出しもあるので、そっちの埋め合わせもしないといけないから、これから忙しくなるぞ、とか何とか。
……ちなみにラッドさんのパーティーは本当にハーレムパーティーだったらしいよ。メンバー全員恋人なんだってさ。パーティー資金も将来の為の貯金なんだって。……もげればいいのに。
そしてまたしても剣の名前を付けてくれと言われて大変困る事になったり。私に命名させるとか、後悔しても知らんぞ……!
そして付けられた名前は『エヴァーカット』。
包丁じゃないです、魔剣です。いや、ソリッドなスラッシュとかも頭をよぎったんだけどね? 著作な権利が怖いからね?
「『エヴァーカット』か……不思議な響きだが、悪くない」
……マジで!?






































