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146 トラブルさん、オメーの席ねーから!


 うーん、この人達が見てなければサクッと【ストレージ】に仕舞うんだけど、どうしよう……?

 と、何とか倒した大型魔獣の死体の処理をどうしようか迷っていると、何やら町の方からまたしても一人、人がやってきた。


「ギルマス! さっきの騒音の正体は一体どうなって……? ……!? おお! これは!」


「町長……、安全が確認できるまでこちらには来ないようにお伝えした筈ですが? なぜここに?」


「いや、何が起きたのか気になって仕方なくてね」


「そういう問題ではありませんよ、何かあったらどうするんですか?」


「そうは言うが実際は大丈夫だったわけだろう?」


「結果論だけで話さないでください、大体一人で来るなんて……」


「その話はもういいじゃないかギルマス! それにしても、まさかこの魔獣を倒してしまうとは! 素晴らしい!! 君達がやってくれたのか!」


 あー、あの職員さんってこの町の冒険者ギルドのギルマスだったのね、とか、危険かもしれないから来るなって言われてたのにそれでも現場に来ちゃう町長だとか、駆け寄った先はラッドさん達だったりとか、突っ込みどころ満載だけど、またしても面倒な人が来た予感。


「素晴らしい! さぞ凄腕の冒険者なのだろうね! 名前を教えてくれないか!?」


「いや、俺達は……」


「……町長、魔獣を退治したのは彼らじゃありませんよ」


「ふむ? じゃあ一体誰が? 彼ら以外にはそれらしい人物はいないようだが……」


「そこの彼女達です」


「そこの? ……、…………? ……???」


 あー、すごい困惑顔。気持ちはわかるけど。


「……ギルマス、馬鹿を言っちゃいけない。こんな年端も行かない少女達にこんな化け物が倒せる訳がない。笑えない冗談はやめてくれ」


「冗談でもなんでもありませんよ、町長。数時間前にこの依頼を受けたのは彼女達で、それ以外にこの泉に向かった冒険者は一人もいません。門番に確認してもらえればすぐにわかります。そっちの彼らは私達の護衛についてきてもらっただけです」


「……本当に、彼女達が? ……その、すまないが本当に君達がこれを倒したのかね? 一体どうやって?」


 あー、面倒な事になってきたな……。どうしよう?


「ええと、この魔獣を倒したのは私達です。どんな方法を使ったかはちょっと……」


「うーむ……」


 と、私がどうしようか迷ってたらリリーさんが前に出て対応してくれた。流石リーダー、こういう時は本当に頼りになるね。


「まあいい。何はともあれ問題の魔獣は倒されたのだ、これで漁も再開できる! 幸いというべきか、今、街には冒険者達が溢れかえっているし、この魔獣を使った料理を売れば傾きかけていた町の財政も立て直せる! 急いで町に戻って人を集めてこないとな! こんな馬鹿でかい魔獣、解体するだけで相当な手間だからな!」


 ……ん? んんん? ちょっと待って? なんかおかしい事言ってない?


「町長、ちょっと待ってください!」


 って、私が声をかけようとしたら、先にギルマスが町長を呼び止めてくれた。


「うん? どうしたんだギルマス、私は急いで人を集めてこないといけないんだが……」


「いえ、何故町長はこの魔獣の素材を勝手に使うつもりでいるんです?」


「は? いや、何故といわれても……むしろ勝手に使うとはなんだ? 何を言ってる?」


「何を言っている、は、こちらの台詞です。いいですか、町長。あなたが出した依頼は魔獣の討伐もしくは排除であって、素材の収集ではありません。そして、討伐依頼によって発生した素材は全て冒険者のものです。ですのでこの魔獣の素材の全ての権利は彼女達のもので、町長が勝手にこの素材を使う事は窃盗になります」


「は!? いや、どうしてそうなる!?」


「どうしても何も、町長が依頼をしにきた時に私は全て説明しましたよ。聞き流していたのは町長、貴方だ」


 おお……私が言いたかった事からそれ以上の事までガンガン行くな!


「いや、待ってくれ……なら、依頼内容を変更させてくれ」


「依頼達成後にですか? そんな虫のいい話は通りませんよ、それこそ契約違反です」


「そんな! 大体、急にそんな事を言われても困る!」


「急ではありませんし、困っているのはこちらの方です。そもそもこれは冒険者の権利の話です。大体こんな無理が通っては今後、今回のような高難度の依頼を受ける冒険者が居なくなってしまう。それになにより、この若さでこれほどの事を成し遂げた彼女達に申し訳が立たない。どうしても必要だというのなら、買い取りなりなんなり交渉するべきです」


「いや、それは……しかし、町の財政もひっ迫しているし……」


「それは町の問題であって彼女達には関わりのない事です」


「だが……いや、そうだ! こんな大量の素材をどうやって持ち運ぶんだ? 大した量は持ち運べないだろう? そうなっては大半は腐らせてしまうだけだ! だったら有効活用するべきだ、そうだろう!? 君達もそう思わないか!?」


 いや、ギルマスの攻勢で私達置いてきぼりの状況から急に話振られるのもあれだけど、そう思わないか、なんて言われても……。

 というか、なんで全部無償で提供する前提で話してるの? 満額は無理でもせめて払える限りの金額で買い取りたいって交渉するとか色々あるでしょ? 困ってるってのは分かるけど、いくらなんでも流石にそれは……。

 でも実際問題、持ち運びは普通に出来るんだよね、【ストレージ】あるし。最大の問題はそれをやると私が【ストレージ】のスキル保有者である事がばれるってだけで、そしてそれが私にとっては死活問題だって事。

 ああー! もー! こういう面倒な事になるからさっさと【ストレージ】に隠して、こっそりギルドに持ち込んで報告しようと思ってたのに!

 私が対応に悩んでる間にもギルマスと町長は侃々諤々と遣り合い続けている。よし、この隙にこっそり相談タイムだ!


「リリーさん、どうします?」


「どうしますって言われても……」


「実際の所どうなのー? 入るんだよねー?」


「それは、まあ……ただ……」


「スキルがばれるのはまずいですよね……?」


「……出来れば」


「だよねー……」


「なあ、ちょっといいか?」


 私達がひそひそと話し合っていると、ラッドさんが町長とギルマスの話に割り込んだ。


「ラッド? どうしました?」


「要はこの素材を持ち運べるかどうかって話なんだよな?」


「なんだ、関係ない人間は口を挟まないでくれないか!?」


「いや、俺も冒険者だし、冒険者の権利の話とかも言っていたのに、関係ないってことはないんじゃないか?」


「だから……!」


「ちょっと待ってください町長! ラッド、何かあるんですか?」


「いや、彼女達なら問題無くないか? 動揺してる所為かしらないが何故かギルマスは忘れてるみたいだが、ほら……あっちの子がゴブリンを運ぶのに使ったアレがあるだろ?」


「アレ? ……ああ!」


「あれだけ大量のゴブリンが入る容量だ、あの大亀くらいは余裕で入るだろう。というかあの時のゴブリンの方が遥かに多いと思うんだが」


「そうか、そうでした! なんでこんな大事な事を……!」


 ……おお? なんだか話が勝手に進んでいってるけど、いい流れになりそうな感じ? っていうか、またしても私達そっちのけで話が進んでいくんですが! だけど、アレ? アレってなんぞ?


「おい、さっきから何の話だ? アレがなんだとか、ゴブリンがどうとか……」


「いや町長! なにも問題は無かったという話です! 彼女達はあの魔獣の素材が丸々全部入るだけの大容量のマジックバッグを持っています!」


「……は?」


「いやあ、よかったよかった! これで一件落着ですね!」


 あー、そうだったそうだった! マジックバッグがあったね、そういえば! いや、正確には違うんだけど!

 正確にはそこまで大容量って訳じゃなくて、そういう風に見せかけたって話だけどね!

 詳しく説明すると、レギオンを攻略した後に町に応援を呼びに行く時、貸し出してたマジックバッグを全部回収して、私の使ってるマジックバッグ(という事になってる鞄)に中身を移すふりをして【ストレージ】に移して運んだんだよね、たしか。

 うっかり忘れてたよ! ラッドさんファインプレー!


「そ、そんな! 待ってくれ! それじゃ困るんだ!」


「そんな何度も困る困ると言われましてもね……。さっきも言いましたが、困っているのは貴方に無茶な要求をされているこちらです」


「それは……」


「……大体、何故普通に買い取り交渉をしないんです? 一括は無理でも分割で払うなりなんなり、方法はいくらでもあった筈です。だというのにさっきから貴方は彼女達に無償で譲らせようとばかりしている。さっきも言いましたが、冒険者ギルドの人間として私はそんな事は絶対に認められない」


「だが……」


「大体にして彼女達が若いからと言って理由もなく下に見ていませんか? どれだけ若くとも彼女達は優秀な冒険者達です。それも、あの大型の魔獣を倒すほどの。それほどの冒険者達を意味もなく下に見る意味が分からない」


「……」


「……そもそも彼女達はこの町の恩人の筈だ、違いますか? それもこの短い間に、今回の魔獣討伐で2回目だ」


「……2回目?」


「そうです。彼女達が嫌がるから公表はしていませんでしたが、ゴブリンレギオンを壊滅させたのはここにいる彼女達3人ですよ」


「は!?」


「そこにいるラッドも優秀な冒険者ですが、今回のレギオンはその彼らですら捕らわれる事になってしまった規模の相手です。町長、レギオン壊滅の話を聞いた時には青くなったり大喜びしたりしていたではありませんか?」


「そんな……ああ、なんて事だ……! 私は……! 知らなかった事とはいえ、恩を仇で返すような真似を……! 君達! すまなかった、この通りだ! 馬鹿な事を言った私を許してくれ!」


 うお、土下座!? ちょ、やめて!?


 ……その後、町に戻ってギルドで若干の話し合いをした結果、町長は魔獣の素材の一部買い取りをして急場を凌ぐという事になった。10kgほど買い取り、今日と明日はそれを使って何とか売り物を用意するらしい。

 そして今日、明日の間に大急ぎで亀漁をして食材を集めるのだとか。がんばれー。

 ちなみに別れ際までひたすらペコペコと頭を下げまくっていた。この町が大事過ぎて、町の為を思って行き過ぎた言動と態度をとってしまったって、何度も頭下げまくりですよ。

 ……まあ、悪い人じゃないんだろう、多分。滅茶苦茶良い人って訳でもないんだろうけど。

 実際、自分が町長って立場だったら……いや、普通に分割とかで払うよね。信頼と信用って大事だよ、うん。

 でもなんかさあ……前々から思ってたんだけど、この世界の偉い人っていうか、それなりに立場ある人って、ケチっていうかなんていうか……微妙な人多くない? いや、今回はすぐ態度変えてくれたけど、うーん……。いやいや、良い人も結構いたけど、それでもみんな自分の利益追求しすぎじゃない?

 そう考えるとギルドの権益と冒険者の権利を守りつつ、さらに冒険者の意見も汲んでくれるここのギルマスって、かなり出来た人物なのでは……? なんであんな人がこんな田舎にいるんだろう?


 話し合いが終わった後、依頼報酬金を受け取って借家に戻り、しばらく休んでいると何やらいい匂いがしてきた。匂いにつられて町の広場に戻ってみると、先ほどまでは無かった屋台がいくつも増えていた。屋台の店先を覗いて見ると、串肉を焼いてるらしい。

 ……この町の名物の亀肉料理って、串焼きかよ!

 うーん、亀肉を串焼きって……。しばらく観察していると、なんか壺に突っ込んでタレを付けて焼いてるっぽい。タレは何種類かあるみたい? あと塩焼きもあった。

 折角なので買って食べてみたところ、普通に美味しかった。あー、亀肉っていうかやっぱりすっぽんっぽい。臭みがなくてうま味はあるけど肉自体は淡泊だからタレなのかな?


「あの見た目で一体どんな味がするのかと思ってましたが、結構美味しいですね」


「私も結構気に入ったー。もぐもぐもぐ」


「アリサ……両手に持って食べ歩かないで……」


 リリーさんとアリサさんも気に入ったみたいで、何ヵ所かの屋台で数本ずつ買って食べ比べをしていた。ちなみにタレはどれも醤油ベースっぽいね、この国では珍しい。でも私はシンプルに塩だけの方が好みかなー?

 なお、予想通りというかなんというか、効能もやはりすっぽんっぽいみたいで、数本食べると体がほこほこしてきた。……ムラムラじゃないよ?


 だけど、んー……、なんか中途半端にすっぽんっぽいもの食べた所為か、すっぽん鍋が食べたくなってきたぞ……?

 よし、早く帰って作ろう!


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― 新着の感想 ―
[一言] 「……まあ、悪い人じゃないんだろう、多分。滅茶苦茶良い人って訳でもないんだろうけど。」 守銭奴の塊のような発言ばかりでしたが、悪い人じゃないの?
[気になる点] >知らなかった事とはいえ、恩を仇で返すような真似を……! つまり今回のすっぽん退治は恩とは感じてないって事か……
[良い点] 面白いですー。漫画とか小説とかAmazonさんで買ったりしましたー!続きが待ち遠しくて!!!更新待ってますー!
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