145 決戦、大型魔獣!(嘘です)
という訳でやってまいりました、こちらが件の大型魔獣が住み着いてるという泉でございます。正確には住み着いたんじゃなくて異常に大きく成長したんだっけ? まあ、どっちにしても退治なり何なりして排除するのが目的なんだけど。
ところでこの泉、泉って聞いてたからもっとこじんまりとしたものを想像してたんだけど、思ったよりも大きくて、むしろ小さい湖って言っても通用するんじゃない? って位の大きさだったりする。
うん、何せ今いる水辺って言うか浜辺って言うか、まあ結構広い砂浜なんだよね、この辺。向こう岸の方は草がボーボーに生えてるから、この辺りは使いやすいように切り開いたんだろうけど。
で、辺りを良く見てみれば折れた樹の破片だとか、壊された罠や網の残骸がちらほらと……。その痕跡を見てるだけでも問題の魔獣は相当な大暴れだったのが見て取れる。
「……なんというか、かなりやばそうな感じですね」
「そうですね……で、レンさん、どうしますか?」
え? 私が考えるの? リリーさんは何かアイディア有ったりはしないの?
「……私は特に何も思い付かないです。というかこの依頼を受けようって言い出したのはレンさんですし、何か良い案があったのでは?」
いや、別にそういう訳ではないんだけど……でも、そうだなぁ。
うーん……まずは問題の大型魔獣がどんな感じなのか知りたい所だけど、過去の討伐失敗で学習したらしくて滅多に泉から出てこないって話なんだよね……。
取り敢えず通常の、というか普通のサイズの亀型魔獣の方がどんな感じなのかを確認かな? それを元に大型の方がどのくらいの大きさなのかを予想する? となると何とかして普通のサイズの亀を1匹くらい捕まえたい所なんだけど……んー、軽く見渡した限りでもその辺りを歩いてたりはしないか、残念。
むーん……罠や網で漁やらすると大型が出てきて暴れるって話だけど、釣りとかで1匹釣り上げるってのはどうだろう?
……よし、試しにやってみるか。
右手側の方にちょっと歩くと、そんなに高くはないけど少し切り立った崖っぽくなってる所があったので、そこから釣竿を垂らしてみる事にする。餌はその辺の地面を穿り返してゲットしたミミズ。……亀ってミミズ食べたっけ? いや、普通の亀じゃなくて魔獣って話だし、意外と何とかなると信じよう。
「レンさん、正気ですか? もし大型が出てきたら……」
「その時は走って逃げましょう、全力で」
「レンさんてきとーすぎー」
ちょっと!? アリサさんにだけは言われたくないよ!?
そんなやり取りの後に釣り糸を垂らすと、僅か数分で竿に引きが! おお、割と引きが強いような、そうでもないような? でも私でもそのまま釣り上げられそうな感じだったので、そのまま釣り上げてしまう事に。フィーッシュ!
……ところで魚じゃなくて亀の時でも『フィーッシュ!』でいいの? 亀だし『タァートル!』とか? うん、どうでもいいや。
さて、釣り上げた亀を観察。大きさは30~40cmって所か。口はちょっと尖がってるような? 淡水亀って聞いてたし、料理に使うって事だからもしやとは思ってたけど……なんかコレ、スッポンっぽくない? いや、でも甲羅はなんか硬いし、足の先の爪も結構鋭そうだし、そういう意味では似てるようで違う種類なのかもしれないけど。というかそもそも世界も違うし、なによりこの亀、魔獣だし。
うーん、実に興味深い。他にはどんな違いが……?
持ち前の探究心が頭をもたげだし、もっと色々観察してみる事に。んー、陸亀のような、そうでもないような、なんとも面白い。
というか私の知的探究心はほら、アレだよ。日課とかでも遺憾なく発揮されてるけど、気になりだすと止まらないのだよ? 気になったらとことん調べる! パスタマシーンも気になって分解した男だよ、私は! いや、『前世が男の現世は女』か。でもそのお陰で今お金に困ってないんだから、私の知的探究心は悪くない!
ついでに試しに【鑑定】と【解析】を使ってみた所、『可食』で『淡白だが非常に美味』らしい。ほうほう、なるほど?
そんな感じでひっくり返したりしながら亀をあちこち確認してると、くいくいと袖を引かれた。んー? 邪魔! 腕を払う……が、また袖を引かれる。腕を払う。袖を引かれる。払う。引かれる。払う……ええい、しつこい!
何!? 今いいところなんだから邪魔しないで!
仕方なく後ろを振り返ると、リリーさんとアリサさんが泉の方を指差しながらなんかカクカクと不思議な動きをしていた。
「れ、れんさん、あれ……あれ、あれが………」
「あれ、あそこに……ちょっと出てる……あそこ……」
はい? あれ? あそこに? 出てる? なにが?
2人が指差す方向を良く見るといつの間にやら小さな島のようなものが水面に……? 更にその前の辺りの水面にもなんか生えてる……?
……んん? あれ、まさか……!? 【鷹の目】で視力強化、謎の物体をよーく見ると……顔? いや、頭? っていうか……あれ、亀の頭部!?
でかっ! え、でかっ!? しかも徐々にこっちに近づいてきてる!? え? え? え? どうしよう? どうすれば!?
ああああああああああ、どうするどうする!? あ、もしかしてこの手に持った亀!? これが原因か!? 泉に返せば何とかなるか!? よし、即実行! 大慌てで手に持っていた亀を泉に放り投げる! 身体強化! そいやー! ……ぼちゃん。
………………動きが止まった? いや、まだこっち見てるし、どうなるかわからない。警戒は解かずに少しずつ後ろに下がろう。2人の服の端をつまんで引っ張って促して、ゆっくり……じりじりと……。
……あ、居なくなった。
5分ほどかけて慎重に、慎重にゆっくりと下がっていくと大きな亀の頭部はゆっくりと沈んでいったのだった。あっぶなー……。
「……いなくなりましたね?」
「そうですね?」
「……途中までは何もなかったので、いけるかと思っちゃいましたが……ダメでしたね」
「そうですね?」
「……反省してます?」
「してないわけではないですけど、何か行動しない事には何もわかりませんし、仕方ないと思いますけど? それに結果だけなら成功の類では?」
「はぁ~……はい、そうですね! で、次の行動は!?」
何で怒ってるの!? そもそも冒険者の仕事ってこういうものでしょ!?
「リリー、結果おーらいだよー?」
「わかってるよ! もう!! …………それで、次はどうします?」
次? 次は、そうだなあ……。
「……あれ、釣り上げてみますか?」
「……釣るんですか? あれを?」
「はい」
まあ、これしかないかなーと。
え? さっきみたいに小亀を釣っておびき寄せればいいって? いやいや、そもそもあの大型魔獣って仲間を助ける為に大暴れするんでしょ? で、さっきの小亀一匹であの反応ですよ? 無理無理、絶対大暴れする。
「…………」
あ、リリーさんまた遠い目してる。
「……もう好きにしてください」
そうします。
そんな訳で諸々の準備を完了させてみました! こちらをご覧ください、特殊装備で武装した魔導甲冑です!
手にしているのは魔導甲冑サイズの大型の釣竿、魔鋼製となっております! 当然耐久強化などの付与がマシマシとなっております! リールはモーター付きで自動巻き上げ式!
釣り糸には【鋼糸作成】スキルで作った魔鋼製の鋼糸を編み上げて作ったワイヤーとなっております! こちらも耐久などを強化済み!
脚部も大型の無限軌道が取り付けられた特殊タイプに換装、更に釣り上げる時に力負けしないように背中には追加で大容量バッテリーを二つ増設!
おまけにノルンにも手伝ってもらう為に魔導甲冑の胴体に鋼糸ワイヤーを巻きつけて完成! ……うん、ちょっとやりすぎた感が否めない。
いや、最初は竿も竹とかで作ろうかと思ったんだけど、さっき見えた頭部のサイズから逆算するに、大型魔獣のサイズって6m前後くらいはあるんだよね。
ソレを釣り上げるとなると竹じゃ流石に無理だし、そもそも魔道甲冑もかなり出力が大きいから、引き合いになったら折れちゃうだろうし……耐久性やらなんやらを考慮した結果なんだよ。
で、そこまでしても魔導甲冑だけじゃあ釣り上げられるか微妙だったので、ノルンにも引っ張ってもらう為のワイヤーも追加、と。
ちなみに装備の作製はあっちの木陰でリリーさん達に見えないようにしながらサクサクっと終わらせました。
「じゃあ早速やってみますね」
「ハイ、ドウゾ」
「ガンバッテー」
……2人はもう考える事を止めたようだ。なんか、ごめん。
さて、気を取り直して亀釣り開始といきましょうかね。餌は……【ストレージ】に大量に余ってるゴブリンでも使ってみよう。人間にはとても食えたものじゃないけど、魔獣同士なら珍味の類でしょ、多分。
という訳で早速キャスト! ひょーい! ぼちゃっ! ……着水音でかいけど大丈夫か、これ? ……まあいいや、気にしないで続行! といっても後は食いつくまで待つだけなんだけど。
…………………………………………む、来た! 食いついた! リール巻き上げ開始! って、リール全然巻けねえええええええ!!! いや、最初のうちはちゃんと巻き上げてたけど、途中でピタリと止まって……あああ、引きがやばい! 負ける!? このままだとこっちが引き摺り込まれる!?
ええい、無限軌道始動! 一気に引き上げたらァーーー!!
ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ! ギャ、ギャギャギャギャギャ!!!!
……最初は勝ってたけど、途中で拮抗して、そこから少しずつ引っ張られて……! あああああ、ノルン! ノルーン! ヘルプ! ヘルーーープ!!!!
……。
…………。
……………………。
その後、ノルンの加勢で少しずつ引き上げる事に成功し、大型亀魔獣の前半身が陸に出てきたところでアリサさんが首を斬り落とそうとするものの、多少の傷を付ける程度で断念。
ノルンがダッシュで首に食らい付いて首を引っ込められないようにし、そこへ私の魔導甲冑が持ち替えた斧槍を首目掛けて何度も打ち込んで首を落とす事に成功。なんとか勝利を収めたのだった。
「……なんとか、勝てましたね」
「勝ったって言うか、釣ったっていうかー……?」
「排除に成功したので、勝利です!」
「……そうだねー」
ちょっとアリサさん? 活躍できなかったからってふて腐れるの止めて?
「……私、何もしてません……」
ほらー、もっと活躍できなかった人がいじけちゃったでしょ! もー!
いじけたリリーさんを宥めていると町の方角から数名の人の気配と喧騒が近づいてきた。
あー!! もしかして換装した魔導甲冑の大型無限軌道の駆動音が町の方まで響いてた!? やばっ!
大慌てで魔道甲冑を【ストレージ】に収納、荒れた地面も土魔法でざっと均して何事も無かったように証拠隠滅。現場に駆けつけた人達からなんとか隠す事に成功したのであった。
いやー、あぶないあぶない。
隠す必要があるのかって? いや、別に目立ちたい訳じゃないんだから、色んな人達に見せびらかす必要ないでしょ? ギルドで討伐確認だけしてもらえば何も問題はないんだよ。
ちなみにやってきた人達は冒険者ギルドの職員数名と、冒険者数名。というかゴブリンレギオン攻略の時に助けたラッドさんとネルさん達のパーティーだった。
冒険者ギルドで職員達が泉に様子を見に行くか話し合ってる所にタイミングよく戻ってきたところだったらしく、大型魔獣退治に向かった冒険者パーティーが私達だと聞いて職員達の護衛に名乗りを上げたのだそうな。
曰く、恩人になにかあった時に助けになる為とか何とか。
義理堅い人は嫌いじゃない、でもなんとなく複雑。いや、後ろめたい訳じゃないけど隠し事多いからね、私……。
「それにしても、よくもこんな大型魔獣を倒せたものだな……」
「大変でしたけど、なんとか?」
「……周囲を見た感じ、大規模魔法とかを使ったような様子も無いし、一体どうやって……? ああ、別に詮索してる訳じゃないから答えなくていい。というか、むしろ答えないでくれ。ただの興味本位の独り言だ。そもそも冒険者にとって切り札は隠しておくべきものだからな」
「そうですね」
うん、最初から教えるつもりは無いけどね。ラッドさん達の後ろでギルド職員が滅茶苦茶詳細を聞きたそうな顔してるけど、気づかないフリ。
……多分だけど、どういう技能があるのか分かってれば塩漬けになってるクエストの斡旋とかしやすくなるから、情報収集したいんだろうね。前にリリーさんがそんな事言ってたし。
変に特殊技能を持ってる事を知られると、面倒なクエスト勧められたり、変な指名依頼で推薦されたりとかするようになるらしい。
ギルドの規約とかで指名依頼はCランク以上の実力のある冒険者にしかされない事になってるんだけど、特殊技能持ちだと特例的に指名される事が偶にあるんだって。
ちなみに指名依頼を断ると、依頼達成率には影響はないけど冒険者ギルドからの内部評価に影響があるみたい?
んー……面倒くさいのはいやだし、私はもうずっとDランクのままでいいかなぁ? Dランクでも別に困る事とか特にないらしいし。……まだEランクだけどね。
なお、Cランク以上に昇格するには実績を積んだ上で昇格試験を受けないといけなかったりする。戦闘技能だけじゃなく、他の技能や人格面なども含めて総合的に判断するんだとかなんとか?
でもさっき私が考えたように、指名依頼が来るのが嫌で実力があっても昇格試験を受けない冒険者と言うのは一定数いるとの事。
とまあそんな感じの事をつらつらと考えつつ、未だにちょっといじけてるリリーさんを宥めながら、大型魔獣の死体の処理という問題から現実逃避する私なのであったとさ。
失敗したなあ……魔導甲冑と一緒に仕舞っておけばよかったかもしれない……。
……いや、本当にどうしよう、コレ。