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142 ゴブリンレギオン攻略戦 後編


 助けたネルさんのお仲間達がある程度動けるようになったところで駆除作業再開だ。

 ちなみに一緒に助け出した村娘っぽい子と少年は近くの村に住んでいる子達だった。子供達だけで遊んでいる所を襲われて、逃げ遅れた子達と数人が攫われたらしい。一緒に攫われた他の子達はおそらく別の部屋の方に居るんだろう。……でももう1つの捕虜部屋の方、既に死んでる人も居るんだよな……大丈夫かな……?

 この子達の護りにはネルさんのお仲間の女性2人が付く事になり、駆除作業に参加するのは男性1人だけだ。

 そんな訳で槍を貸して首をさくさく刎ねる作業に混ざって貰ったんだけど……。


「……なんというか、完全に作業だな、これは」


「そうなのよね……借りた武器の切れ味が凄すぎて、トドメを刺してるっていう実感も薄いし」


「相当深い眠りに落ちてるんだろうな、全く起きる気配も無い……だというのに俺達にはその影響が全くなく、一方的に狩れる……まあ、俺達が眠らないのはこのスカーフのお陰なんだろうが」


 そこでちらりとこっち見るのやめてくださいね。私、一応命の恩人なんですから、恩を仇で返すような真似はしないでくださいねー?


「ラッド、駄目だからね?」


「分かってる、恩を仇で返すような真似はしない……寧ろお前の方が微妙じゃないか? 興味が湧くと割と止まらないだろう?」


「それは自分でも分かってるわよ。でもだからこそ絶対馬鹿な真似は出来ないわ……目先の欲に駆られてこれだけの実力者達と縁が結べた幸運を捨てるような馬鹿になるつもりは無いわよ」


「その通りだ……という訳で、聞いていたと思うがその辺りはちゃんとするから心配しないでくれ」


 おおう、盗み聞きしてたのばれてーら。

 まあ普通にばれるか、一緒に行動してるわけだし。


「しかしこの剣、凄まじいな……これだけ首を刎ねても全然切れ味が落ちない」


「こっちの槍もよ……」


 お褒めに預かり恐悦至極!

 うん、割と普通に凄い武器だと思うよ、我ながら。私の価値観大分ずれてるけど。ちなみに私の作った武器を貸し出してるのにもちゃんとした理由もある。主に効率的な問題で。

 いや、これまで虐殺したゴブリン達もそれなりに武器持ってたから、それを使ってというか使い捨てしながら次々にトドメを刺していけば良いと思うじゃん? でもそれだと、色々効率が悪いんだよ。

 そもそもゴブリンに武器の手入れなんてまともに出来る訳ないので、切れ味とか最悪なのね。で、そんな切れ味の悪い武器でトドメを刺すとなるとギコギコやらないと切れない訳。そんな事をやってると当然すぐ疲れる。それにそんな悠長にやってたら痛みでゴブリンが起きてしまう可能性も出てくる。

 そこで私謹製の【村雨】付き魔剣と魔槍の出番である。

 これらを使えばゴブリンが痛みを感じる間もなくサクサクと首を狩れる。しかもそれだけ簡単に切れるならやる側の疲労も軽いし、ゴブリンが目を覚ます暇もなく殺せる。首を刎ねれば連中が声を上げる事も出来ない。血が噴き出る? それだけは諦めて貰うしかないのが唯一の欠点かな。

 ちなみにネルさんが使ってた剣をラッドさんが、新しく出した槍をネルさんが使ってたりする。

 ラッドさんは剣士で、ネルさんも本来棒術の使い手なので槍も扱えるんだとか。


「正直少し……いや、かなり欲しい。金が払えれば或いは、だったか? しかしその金がなぁ……今回捕まって武器も奪われたし、戻ってから新たに買い揃えるとなると、貯めてた金がかなり減るよな……」


「むしろ殆ど無くなるんじゃない?」


「だよなあ……」


 うーん、少し考えれば分かる事だけど、クエスト失敗からの立て直しはお金掛かるからね。

 ……魔物に捕まって奪われた装備等に関しては、助け出した他の冒険者等に所有権が移るのだ。今回の件で言えばこの攻略が終わった後、ゴブリン達に奪われていた彼らの所持品の所有権は私達の物となる。勿論彼らにはそれらの返還要求をするなり買取するなり交渉する権利もある。でもそれに応じるかどうかはこちら次第。返さずに売って資金にするも良し、彼らに買い取らせるも良し。

 ちなみに今回の場合駆除作業に手を貸してくれているけど、それはあちらから無償で、と言う条件で申し出て来た事を受けた形なので、仮に交渉になった際には考慮の対象にはならない。まあ、その辺もこちら側の裁量次第ではあるんだけど。そもそも作業用に武器まで貸してるので、差し引きはゼロだろう。

 でも実はもうその辺りの事はリリーさん達ともこっそりと話し合っていて、彼らの装備を取り戻せた場合は全部返してあげるつもりでいたりする。

 私の能力や持ち物などについて口外しないようには言ってあるし、何度も念を押したけど、念には念を入れて更に恩を押しつけよう、と言う作戦だ。彼らも義理堅い性格のようだし、効果はかなり高いだろう。

 正直な所、私達は装備品には困ってないし、資金にも余裕がある。であればここで義理堅そうな冒険者達に恩を押し付けて縁を繋いでおくのは悪い手ではない。忘れがちになるけど私達はまだ駆け出しに近い新人なのである。悪目立ちしていい事なんて何も無い。

 既に遅い? ああ、うん……でもソロで悪目立ちしてた最初の頃と違って、今はパーティーを組んでるから、前提が違うんだよ。何気にリリーさんとアリサさんは新人の中ではそれなりの実力者として知られているらしいんだよね。

 ネルさんが言うには、王都で冒険者を始めてからあっという間にDランクになったとかなんとか……? ハルーラでウェイトレスやってた時期は名前を聞かなくなってたので活動拠点を別の場所に移動したのかと思われていたらしい。

 更にネルさんに詳しく聞いたところによると、王都で割と2人の名前を聞いた事があったらしく、その実力が想像や噂よりもずっと上だったのだろう、と思ったそうだ。

 ネルさんも追っ手から助けられた時のアリサさんの変態機動を見ていたので、『軍団(レギオン)』を攻略するなんて話になった時は力押しでゴリゴリ行くのかと思っていたみたい。

 ただ実際に目にしてその実力は本物だろうとも思っていたので、ゴブリンスレイヤーズの名声も2人の実力があっての物だろう、と。

 ……ゴブリンスレイヤーズが名声? 悪名じゃないの?

 ところがどっこい、いざ蓋をあけてみればもう1人のメンバーのやる事なす事想像の斜め上を行く事ばかり。ポンと貸してきた武器はとんでもない性能の魔剣だし、大容量のマジックバッグも複数持ってるしと、驚く事ばかり。しかもそれらをやっているのはリリーさん達よりも年下の小さい女の子。小さいは余計だ!

 ゴブリンスレイヤーズとは一体……? となってるのが現状らしい。さもありなん。

 そうして私に送られてくる事となった熱い視線。魔剣もマジックバッグも冒険者を続けていくなら便利だもんね、でも売らないよ。

 はてさてともかく、そんな訳で彼らの装備は返してあげる予定なのである。調子に乗られても困るので『軍団(レギオン)』攻略が終わるまでは黙ってるけど。


 そんな問答をしながらも攻略は進んで行き、2つ目の捕虜部屋に辿り着いた。

 中の確認はリリーさんとネルさんとお仲間のラッドさんにお願いした。アリサさんは通路の先へ先行偵察に行った。まあざくざく切りまくってるんだろうけど。


「……酷いな」


「来るのが遅かったわね……」


 そう、こちらの捕虜部屋に囚われていた人達は既に3名亡くなられているのだ。そしてゴブリンに囚われるという事は食料にされるという事でもある。つまり、犠牲者達は既に食い散らかされていて、酷い状態になっていた。

 ここは廃坑の大分奥の方でロードの部屋にも近い。既に亡くなられた人達はロードのご馳走にでもなってしまったのだろう……。


「まだ、顔が分かるのが幸いね……何とか住んでいた所へ帰してあげたいわね……」


 そうだね……せめて暮らしていた所へ帰して、きちんと埋葬はしてあげたい。

 全員が同じ想いだったらしく、犠牲者は丁重に外に運んだ。遺体を包む為の布は私が提供した。布は【ストレージ】に大量に余ってるし、問題無い。

 生き残っていた少年2名はやや錯乱していたけれど、外に出て介抱して暫くすると落ち着いた様だった。この2人は先に助け出した2人と同じ村に住んでいた顔見知りだった。被害者3人の内、2人も同じ村の人との事だったけど、もう1人は分からないらしい。でもゴブリンに奪われた遺留品等から何か分かるかもしれないので、この方については一旦保留する事になった。

 そこまで終わる頃にはもう大分時間が経っており、既に日が落ち始めていた。


「もう大分暗いな……どうする、このまま続けるか?」


「そうですね……レンさん、どうしましょう?」


 いや、私に聞かれても……。リーダーはリリーさんでしょ? というかアリサさんには聞かないの? あ、聞くだけ無駄ですか。

 ネルさん達は? あ、こちらに従うんですか、そうですか……。


「……では、一旦休憩というか、食事にしましょうか」


 捕虜になっていた人達も全て助け出したのでここで一旦一区切り。一度補給を済ませて仕切りなおしするほうがいいだろう。みんな疲れも溜まってるだろうし。


「……大丈夫なのか? ゴブリン共が起きて来たりはしないのか?」


「大丈夫です」


「大丈夫なのか……」


 うん、大丈夫大丈夫。睡眠ガスの流し込みは続けているし、念の為ガスの濃度も上げてる。ついでに捕虜の手当てをしてる時にノルン達が見回りにも行って来てくれたので周囲にも敵は居ない。

 土魔法で竈などを作ったりしてさくっと野営の準備をして、料理開始。消化も良くて栄養も摂れて腹持ちもいいもの、という事で適当に具沢山のスープを作る。野菜もりもり、オーク肉も適当に入れて味噌で味を調える。あとはパンとかあればいいんだけど、あんまりあれこれ提供しすぎるのも良くないとの事でリリーさんに止められた。私が快適さを諦められずに結果として目立つのは仕方ないけど、人前では加減をしろ、と言う事らしい。マジサーセン。

 でもリリーさん私の外付けチート判断回路になりつつあるよね。とてもありがたい。


「レンさん、なにか変な事考えてません?」


「ソンナコトナイデスヨー?」


 最近ちょっとリリーさんが厳しい気がする……。

 腹七分目くらいで食事を済ませ、温かい麦茶を飲んで一息ついたところで栄養補給完了。一部たらふく食べていた人達が居たけど私は気にしない。この後の作業で影響が出ないなら問題は無いのである。影響が出たら? そりゃあ……相応の覚悟をしてもらうだけですよ?


 食事が済んだ後は少し休憩をしてから駆除作業を再開、2つ目の捕虜部屋のあった分岐よりも先へと進んでいく。途中幾つかの横道にある部屋でも駆除作業をしつつ、とうとう一番奥の大部屋へと辿り着いた。ここまでの道中様子を見ていたけど、食事休憩を取った事によるメンバーの気の緩みなどは無いようだ。


「ここで最後ですか……やっとここまで来ましたね」


「長かったー……もうゴブリンは飽きたよー……」


「ただただトドメを刺すだけの作業がここまで辛いとは……」


「もう一踏ん張りだから、頑張りましょう!」


 以上が私以外のメンバーのコメントである。命が懸からない分、破格だと思うけど?


「さて、愚痴もいいですがここで最後です。しっかりやりましょう」


「そうですね……それでレンさん、レンさんの事ですから、真っ正直に突入してロード達を相手にするわけではないんですよね?」


「当然ですよ」


「えっ!? そうなの!? わたしてっきり普通に突入して戦うのかと……」


「俺もそう思ってた……」


「ここまでこんな風にしてきたのに、そんな訳無いじゃないですか」


 何を馬鹿な事を! ここまで被害ゼロなのに、ここで無駄な怪我をするつもりは無い。そっと扉横の壁に手を当てて部屋の中を【解析】。


「ゴブリンロード、正確にはウォーロードが1、ジェネラル1、魔法スキル持ち(スペルキャスター)が2、ホブが2、普通のゴブリンが10、ですね」


「ただのロードじゃなくてウォーロードだったのか……それならこの規模も納得だが、俺達だけでウォーロードを相手に勝てるのか……? ……いや、それはそれとして、そこまで詳細な情報が取れるスキル……」


「相変わらず凄い能力ね……本当になんのスキルなんだろう? 私も覚えられないかしら……」


 ネルさん達2人がブツブツ言ってるけどそんな事は無視だ。重大な問題が発生している。


「……ロードが起きてます。と言うか寝たふりをしてます」


「そんな……」


「まずいねー……突入したら取り巻きを起こされて乱戦、密室で数的にはこっちが不利。装備の質では圧倒的に勝ってるけど、微妙に微妙ー?」


「普通に怪我しますね……。ですのでちょっと考えました」


「嫌な予感がします」


「リリーさん、うるさいです。2人に怪我をされる方が私は嫌です」


「ごめんなさい」


 ちょっと嬉しそうなのは何でかな? 仲間を心配するのは当然でしょ? それとも別の感情がなにか……? こう、百合的な……? いや、深く考えるのはやめよう、チキンの私には悪い結果にしかならなさそうだ。最近のリリーさん、距離感が近くて時々ちょっと怖いから……。もうちょっと待って、今の私にはまだ色々覚悟が無いから。

 ってそうじゃねーよ、真面目な話してる最中だろ、今は!


「……えー、それでですね、まず私が中の連中を全部動けなくしますので、次にリリーさんが部屋の中に全力でファイアボールを撃ち込んでください。魔法を撃ち込むのと同時に私がその入り口に結界を張って爆風が通路にこない様にします。爆風が収まったらアリサさんが突入、ウォーロードの首を刎ねます。多分ファイアボールだけではロードは死なないと思いますので。あ、リリーさん、念の為炎熱対策でアリサさんに風魔法を付与してください」


「了解です」


「やっとまともな出番だー!」


 ノルン達は念の為待機だ。アリサさんがしくじった場合に追撃をかけてトドメを刺して貰う。


「動けなくするなんてできるのか? と言うか俺達はやる事が無いんだが」


「申し訳ありませんが相手が相手だけに連携を重視させてもらいます。慣れない人が居ると連携が乱れますので」


「……なるほど、そういう理由なら了解だ。だが場合によっては参戦させてもらう」


「分かりました。……では始めましょう」


 リリーさんがアリサさんに【魔法剣】を使って風魔法を付与して準備完了。

 鞄経由で【ストレージ】から一振りの剣をにゅるりと取り出す。バスタードソードサイズのそれは改良に改良を重ねサイズダウンに成功した氷の魔剣『ヨツンヴァイン』である。

 命名に失敗してしまった私にとっては黒歴史の権化の様な剣だが、その性能は折り紙つきだ、使わない手は無い。何よりこういう状況で魔法代わりの手段として作っておいた魔剣シリーズの1つなのだから! 因みに【村雨】武器シリーズもこの『魔法代わりの手段』分類の仲間である。道具は手段、はっきりわかんだね。

 取り出した『ヨツンヴァイン』を両手で逆手持ちにして地面に突き立て、大量の魔力を叩き込む勢いで込めていく。


「なにあの剣……この借りてる剣なんて比べ物にならない位の魔力を感じる……!?」


 またネルさんの呟きが聞こえるけどスルーし、がんがん魔力を捻じ込んでいく。

 やがて刀身全てに魔力が満ちたところで、剣に秘められたその力を解放する……!


「縛り上げろ、『ヨツンヴァイン』……! ……【アイスバインド】!」


 ウェポンスキル発動と同時に剣の突き立てられた所から地面を氷が走っていく。それはそのまま扉の下を潜り室内へ。やがてそう時を置かずに部屋の中から幾つかの音が聞こえてくる。


「ギィ!? ギギャ! ギャー!?」


 バリバリと、氷の蔦による拘束を解こうと暴れているのだろう音とゴブリンの声が響く。【アイスバインド】は足掻けば足掻くほど全身にきつく絡み付いて拘束するウェポンスキルだ。拘束を解こうと抵抗しなければそのまま身動きが取れなくなるし、抵抗を続ければその間はそれ以外の行動が取れなくなる。


「リリーさん、今です!」


「はい! 全力で行きます、『ファイアボール』!」


 私が剣に魔力を込めている時に同じ様に魔法を準備していたリリーさんが魔法を解き放つ。私が彼女の為に作った魔法の指輪の効果によって威力が底上げされたそれは、凄まじい高熱と共に扉をぶち破って部屋の中へと撃ち込まれた。

 圧縮された火球が完全に部屋の中へと消えた瞬間に【結界魔法】を使って入り口に蓋をする。一瞬だけ不安になったのでついでに部屋の周辺の壁へも結界魔法で壁を作る。リリーさんのファイアボールの威力で壁が崩れても大丈夫なように、補強だ。

 次の瞬間、轟音が響き渡り、ぱらぱらと天井から土が落ちてきた。


「グギャァァァアァアアアァァアァア!」


 ゴブリンの絶叫。


「きゃっ!?」


「うお、大丈夫かこれ!?」


「アリサさん!」


「はーい!」


 ネルさんたちが驚いているがそんなのは無視で、次の指示。私の声と同時にアリサさんが弾丸の様な速度で部屋の中目掛けて突っ込んでいく。アリサさんがぶつからない様にタイミングを見計らって結界を解除。無事、突入は成功。だが次の瞬間三度ゴブリンの叫び声が上がった。


「グギィィィイィィイ!」


「あっ! てやー!」


「グボッ! グ……グブ……! ブボ……」


 が、声はしたもののすぐに聞こえなくなった。 

 ……初撃を防がれたか避けられたかして、更に速度を上げた追撃で首を刎ねた、かな?


「とったどー!」


 うーん、このゆるふわ感。なんだかなあ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とったどー!
[一言] 異世界でinmみたのこれが初だよ……
[一言] ヨツンヴァイン出てくるたびに吹き出すから堪忍して・・・ しかし、アリサさんのゆるふわ感にほんわかする。 なんというか、癖になる味みたいな? とったどー!
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