141 ゴブリンレギオン攻略戦 中編
「ぐさー! ぐさー!」
「アリサ、うるさい」
「もう飽きたよぉぉぉぉぉ」
「黙ってトドメ刺して!」
「飽きたあぁぁぁぁぁぁあああ!」
「ねえ貴女達、ゴブリン共が絶対に起きないって訳じゃないんだから、静かにね? ……助けてもらってる立場の私がいう事じゃないと思うけど」
「ほら、怒られちゃったでしょ!? アリサの馬鹿!」
いやー、賑やかデスネ?
そんな訳で廃坑に突入した訳ですが、1時間も過ぎるとアリサさんがぐだぐだし始めました。まだ分岐2つしか終わってないんだけど……。これ、終わるまであと何時間掛かるんだろうねえ?
あ、因みにだけどゴブリン達が起きないように入り口にはゴーレムを配置して、睡眠ガス流し込むお仕事をやって貰ってたりするので、多少騒いでも雑魚ゴブリンが起きる事は無いと思われます。多分。
同調状態だとゴーレム経由で多少はスキルが使えたりするんだよね、実は。なので睡眠ポーションの気化は問題無く出来るのだ。
「それにしてもこの剣、本当に凄いわね……これだけ首を切っても全然切れ味が落ちないとか、本気で欲しくなるわ。……お金ないけど」
わはー。割と適当にサクッと作った魔剣だけど、性能とかはちゃんと考えて作ったからね。まあ、売らないけど。
「ほらアリサ、十字路だよ。左右どっちに行くの?」
「レンさーん、どっちがどっちー?」
「左右どっちに行っても大部屋です。それぞれざっと20~30匹位ずつですね」
「じゃー、私右行くー。ベルちゃんも行こー!」
「なら私は左に行きますね。ネルさんは私と一緒に来て貰っていいですか?」
「私は構わないけど……この子はどうするの?」
「レンさんはノルンさんとここで待機です。警戒お願いしますね」
「了解です」
うーん、先に進んでしまいたい。いや、進まないけどさあ。ほら、筍採りの件で怒られたし……流石に学習したよ。
あー、でも全く何もしないのもなんか嫌だし、ここに『結界塔』を置いておこうか。でもって灯りをつける。
うん、明るくなった。ついでに結界も発動しておけば奥からゴブリンが逃げる事も無くなるかな。
一応ここまでの通路にも一定距離ごとに魔法のランタンを壁に括りながら進んできたので、後ろを振り返っても道が照らされてたりする。
こんな事もあろうかと! 量産しておいたのさ! 魔法のランタンを!
……みんなまだ戻ってこないな。んー、捕虜を助けたら首狩り作業を手伝って貰った方が時間短縮になるかな? 良し、【村雨】付きの魔槍でも作っておこう。短槍の方が取り回し利くかな、廃坑内だし。
魔槍が2本完成した所で皆が戻ってきた。いいタイミングだ。
「ただいまー、ホブが2匹とジェネラルがいたー!」
「こっちはシャーマンっぽいのが何匹かいました」
「ただいま……って明るい! なにこれ!? あ、これって灯りが点くのね?」
「おかえりなさい。ちゃんと点きますよ」
あー、リリーさん達は何度か見てるから慣れちゃってるけど、ネルさんは初めて見るのか。というかちょっと離れて戻ってきたらいきなり明るくなってて、しかもいつの間にかこんな大き目の物が増えてたら驚くのも当然といえば当然か。
「……随分と沢山入るマジックバッグなのね」
「そうですね」
「しかもそれが更に3つ……一体どこで手に入れて……ごめん、なんでもないわ」
詮索しないでくれるのはありがたい。まあこの状況で変に詮索して私達に見捨てられるのは困るんだろう。
あ、マジックバッグが更に3つって言うのは、リリーさん、アリサさん、ネルさんに持たせた私の自作のマジックバッグね。
ほら、ゴブリンの死体回収係、私とノルンだけだときついから、前々から準備しておいたのを貸したんだよ。私は【ストレージ】があるからいいけど、2人はね……。
リリーさん達にはこのまま貸しっぱなしでもいいかなーとも思わなくも無いけど、どうするかなあ? 因みにベルには【アイテムボックス】付与済み。というか、ベルを相手に実験して【アイテムボックス】量産できる事が判明したので……。
まあ【ストレージ】と【アイテムボックス】では色々使い勝手が違うんだけどね。
【ストレージ】と【アイテムボックス】の性能の違いは基本的な所だと容量の差と時間経過の有無。
【ストレージ】は容量無制限、収納物の時間経過無し。更に収納物1個辺りのサイズにも制限が無い。
【アイテムボックス】は容量はスキルレベルによって増加、時間経過もレベルが上がる事で遅くなって行く。但しマスターレベルの10になっても完全に時間経過しなくなるという事はないし、収納物一個辺りのサイズにも制限がある。
更に【アイテムボックス】は収納時に対象物に触れていないといけない。【ストレージ】の場合は目視して収納する事をイメージすると収納が可能。距離は慣れによって若干伸びる。私の場合は大体50mまでは遠距離収納が可能。自分の所有物なら頑張れば200m位まではいける。
……ちなみに【ストレージ】も【アイテムボックス】も、他人の持ち物は入れられない。ただ、所有権の判定がどうなってるのかは謎である。
んー、まだ他にもなにか性能差がありそうな気がするんだけど、比較実験する時間が無いんだよなあ。
などと考えながらも攻略は進んでいく。
通路にランタンを掛けながら坑道を進み、途中の分岐や十字路では先ほどと同じ様に私が残って他の4人がそれぞれ分かれた先の掃討に行って、と繰り返す。
合間合間の待機時間で予備の魔槍や魔剣をちまちま作ったりして時間を潰しつつ、ゴブリンの虐殺は順調に進む。
「事前に内部構造が分かるって凄い便利ね。一体どんなスキルなのかしら……?」
ぐあー、ネルさんがまたしても私の能力に興味を持ってしまっている! ぶっとい釘は何度も刺したけど、大丈夫かな……? 命の恩人だし、仲間の命も助けて貰える訳だし、べらべら吹聴して歩いたりはしないとは思いたい。
「ネルさん、くれぐれもー、だよー?」
「……わかってるわ。恩人だもの」
おお、アリサさんがイイ笑顔で脅してる。ぐっじょぶ!
「あ、ここを右に行った先に捕虜が居ますね。5人……でしょうか」
「5人!? ならそこに私の仲間達が居る筈よ! 急ぎましょう!」
「あわてなーい! 慎重にー!」
「っと、そうね。慎重に……」
んー、何気にアリサさんがネルさんに牽制しまくったり注意しまくったりしててとてもいい仕事をしておられる。いつも思考放棄してるイメージが強いんだけど、こういう細かい所では凄い気が利くんだよね、アリサさん。そんなところが好き。でもできれば平時ももうちょっと頭を使ってください。
道中、眠りこけてるゴブリン達の首を刺しながら道なりに進んでいくと、行き止まりに扉が見えた。扉の左右で眠っているゴブリン2匹にトドメを刺しつつネルさんに視線を向ける。
「ッ! この扉、見覚えがあるわ……! 間違いない、ここよ!」
やっぱり当たりか。
「中にゴブリンは居ませんが、警戒は怠らずに」
「分かってるわよ……!」
ネルさんがゆっくりと扉を開ける。罠を警戒してるのだろう。とはいっても罠、無いけどね。
【解析】で罠の有無も分かるんだよねー。マジでチートだわ、これ。もし今後ダンジョンに行く事があっても攻略はヌルゲーになりそう……。
「……みんな、無事!? 助けに来たわ!」
いや、捕虜もみんな寝てるから、起こさないと駄目だよ。全員で手分けして捕虜になっていた人達を起こしていく。
あー、でもこれ、外に連れて行く時にまた寝ちゃうかな? 大丈夫? 無理?
そんな事を考えながら介抱してると1人が目を覚ました。
「……ネル、か? 助けに……? 随分早かったな……」
「ええ、運良くこの人達に助けられて……」
「詳しい話は後にして、一旦外に出ましょう」
「そうね! 肩を貸すわ、立てる?」
「すまん……」
目を覚ました男性1人にはネルさんが肩を貸して連れて行くとして、後の眠ったままの4人は……。
「私とリリーで1人ずつ連れて行くよー」
アリサさんがそういいながらネルさんの仲間と思しき女性を担ぐ。リリーさんもそれに倣って肩を貸して立ち上がらせる。どうやらそっちの2人も朦朧としながらも意識が戻ったらしい。
ふむー、じゃあ後は女性1人と男の子1人か。服装を見るに村人か何かかな? こっちはノルンとベルにお願いすればいいかな。私は……まあ、非力なので……。
捕虜達をつれて一度外に出ると、そこでちゃんと介抱する事になった。見回りに出ていたゴブリン達が戻ってきてないか、ノルンとベルが周辺に巡回に駆けて行った。
……いつも気が利くよね、あの子達。ホントありがたい。好き。
さて、土魔法で軽く陣地形成。簡易小屋を作り、中に簡易寝台も作ってそこに寝かせて、水を飲ませて携帯食料をゆっくり食べさせる。
衛生状態も良くないので『洗浄』をかけようとした所で、ネルさんが先に『洗浄』を全員に使った。
へー、『洗浄』使えるんだ……。ネルさん何気に凄い優秀だな。
しかも効果が高い。しっかり汚れが取れている。垢と、服の汚れと、汚物と。さては、私と同じで色々と研究した人だな?
私も前に色々研究したんだよね。その結果、『何を対象の汚れとして指定するのか』をきちんと定める事で、しっかりと汚れを落とせるようになると判明したのだ。
その辺りをしっかり指定しないで適当に使ってると、良く言われる『洗浄は誤魔化し位にしかならない』って効果しか得られないっぽい。他にも効果範囲なんかは想像力次第の所もある。あとはつぎ込むMPの量とかだね。
私は他にも応用は色々思いついたので【マルチタスク】に割り振っていくつかの効果を常時使用してたりする。具体的には『体表面を常時清潔に保っているので垢も付かないし、汗をかいてもすぐ綺麗になる』『膀胱内と直腸内に常に使っているので排便の必要が無い』『産毛の処理』とか、他にも色々。マジで便利なんだよ。
でもって最近気付いたんだけど、これで毒も無効化できそうな気がするんだよね……。基礎魔法である【生活魔法】の1つなのに汎用性高すぎてちょっと笑えない。
そんな事を考えていたらリリーさんとアリサさんがちょっと驚いた様子で呟いていた。
「レンさんに近い効果……」
「なにか、なにかコツがあるんだよー、多分……」
あー、まあ、珍しいしね。効果が高い『洗浄』の使い手って。
そうこうするうちに手当てなどの諸々が一段落付き、ようやく話が出来る状態になった。
「すまない、助かった……」
「みんな無事で良かった……!」
そこからは状況確認と情報共有タイム。と言っても私は見てるだけで基本はネルさんが話して聞かせてリリーさんが補足する形だ。いや、私達の徒党のクランマスターってリリーさんだからね、実は。
ほら、私は最年少だし、アリサさんは思考放棄しがちだし、消去法でリリーさんがマスターになったのだ。ぶっちゃけ面倒臭いから無理矢理押し付けたとも言う。
真面目な話、私のやらかしを止める上の立場の人が欲しかったというのもある。筍採りの一件の時の説教もクランマスターとしての責任と義務でもあったりしたのだ。
いやあ、真面目な顔で頑張ってるリリーさん可愛いなあ。ほっこりする。え? 真面目にやれ? 私はいつだって真面目ですよ?
「なるほど、彼女達が噂のゴブリンス……」
「あ゛?」
「……」
「……」
「……」
「……」
……うっかり地が出てしまった。失敗失敗。
「コホン。それはあくまで勝手につけられた渾名なので、やめてください」
「重ね重ね、すまない……」
「気をつけてくれれば大丈夫です。ええ、気をつけてくれれば」
「……了解した。それで、俺達もレギオン攻略と言うか、掃討というか、トドメを刺すだけの作業と言うか……それを手伝わせてくれないか? 俺達の取り分とかは別にいらないから、どうか頼む」
「それは構いませんが……いいんですか?」
「ああ、このままじゃ収まりが付かない」
「なるほど……レンさん、どうします?」
「私は別に構いませんけど……武器も無いのにどうするんですか?」
「あ」
「あ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……貸しましょうか?」
「……頼めるだろうか」
なんか締まらないなあ。まあ念の為貸し出し用の魔槍作ってたし、別にいいけどね……。