136 時には失敗だってあるよ、にんげんだもの
ってなわけで翌日の昼下がり。今日も今日とてゴブリン虐殺ツアーの真っ最中であります。まあ、いまはお昼食べる為に適当に具合がいい場所探してる最中だったりするんだけど。
うーん、もう少し見晴らしいい場所が有ればいいんだけど、なかなかどうして……って、椿発見! しかもしっかりと実がなってる! 油ゲットだぜ! ってそうじゃないよ!? もう本当にさあ……この世界なんなの? 季節感何処行った! いい加減にしろ!
「あの、レンさん……どうかしました?」
「ああ、いえ……この木なんですけど」
物凄く疲れたような顔をしていたらしく、リリーさんが声を掛けてきたので説明する事にした。明らかに時期ハズレの植物が実をつけている事。この木に限らず過去にも何度か同じ様に季節はずれに実ってる植物を見た事。
「ああ、なるほど……それはここが魔力溜まりだからですよ」
「魔力溜まり?」
リリーさん曰く、森の奥や平野部などで不自然に植物が茂っている場所や、季節はずれの植物が実をつけていたりする場所は他の土地よりも魔力が濃い場所なのだという。
そして、そういった魔力溜まりといわれる場所では植物の成長が促進されたり、群生したりしているらしい。
また、そういった魔力溜まりの上に城などを建て、魔法陣などを用いてその場所の魔力を利用して結界を張ったり、という事も出来るらしい。世界各国の王都や領都といった主要都市の城なんかは大抵そういった場所に建ってるのだとか。なるほどなー。
うーん、思わぬところで長年の疑問が解決したぞ。と、リリーさんからの解説を聞きながらも椿の実の回収は忘れない。椿油って現代でも普通に高級品だからね!
ちなみに採取は魔導甲冑に乗ったまま行ってたりする。こういうときの為に作業用のサブアームを取り付けておいたんだから、活用しないとね。
「さっきからその木の実を回収してますけど、何かに使えるんですか?」
「この実から良質の油が取れるんですよ」
「……はい?」
「油が取れます」
「……………………………………え、本当に!?」
「本当に」
「えええええええええええええええええええ!!!!!?????」
マジよマジマジ。っていうかなんでそんなに驚くのさ。
……うん、植物油って、お貴族様の領地で少量生産されてる超高級品なんだってさ。しかもどの植物から取れるかは秘中の秘。いやあ、またしてもやらかしたか。
「えーっと……このことは内密に?」
「言える訳ないじゃないですかーーー!? こんな事しゃべってまわったら私、捕まっちゃいますよ!?」
ああ、うん……なんかごめん。
ちなみにこの捕まるというのは悪い事をして捕まるという意味ではなく、お貴族様に目をつけられて難癖つけて連れて行かれて取り込まれる、と言う意味だそうで。
うん、それはだめだ。今の私の身の上的にも許されざるよ。という事でこの件に関してはお口にチャックという事で全会一致しました。無理矢理イクナイ。
途中からリリーさん達も椿の実の回収を手伝ってくれたので、短時間で採取は完了。油作りは町に戻ってからでいいかな? まあ【創造魔法】を使えば一発だから、すぐ終わるけどね。
結局お昼ご飯は椿の実の採取をしながら食べる事に。
メニューが照り焼きチキンバーガーだったので食べながらでも採取できたのも原因ではあったかもしれないけど、時間を無駄にしない為にも食べながらでいいんじゃない? という話になったんだよね。
「折角のおいしいご飯ですけど、時間も大事ですからね」
「そうだねー、前に歩きながら食べるとかも良くやってたし、それに比べれば全然ゆっくり食べられるから問題ないんじゃないー?」
ううむ、2人とも逞しい。
あー、でもあれだな。とどのつまり、魔力溜まりだと植物が活性化して成長が促進するって事で、それは人の手で魔力を注いでやれば人工的に同じ事が出来るという事なのでは? ……ふむ、今度時間がある時に試してみよう。なんか面白そう。
さて、ご飯も食べて椿の実も採取完了! 午前は午前で野良ゴブリン結構倒したし、午後は昨日に続いてまた巣でも潰しに行きますかね?
2人も特に別意見があるという訳でもなかったので、ノルンの探知系スキルで近場のゴブリンの巣を探して移動開始。そして30分とかからずにゴブリンの巣とおぼしき洞窟を発見。
「さて、どうします?」
「昨日と同じ様に、まずは私が巣の構造を調べてきます」
「そうですね……その結果次第で次の行動を考えましょうか」
「……わたしはなんでもいいよー」
例の如く、巣の近くの草叢で作戦会議。そしてアリサさんもいつもの如くであった。そんなアリサさんがだんだん可愛く思えるようになってきた今日この頃だったりする。うーん、リリーさんとアリサさん、どっちを……いや、思い切って2人とも? って、今はそんな事考えてる場合じゃないわ。まずは巣の【解析】にいかないと。
という事で魔導甲冑から降りてこそこそ移動開始。ちなみに今回はノルンの護衛は無しで、私単独。
いやほら、いつまでも過保護にされててもね? 私も冒険者だし、少しずつ経験を積んでいかないと、という事で。でも一応、なにかあった時に備えてノルンはすぐにでも飛び出せるように身構えてたりする。なんて過保護! 私のお母さんか! ……うん、それも悪くないね。お母さんか……
って、そうじゃなくて! 今はゴブリンの巣を調べるのが先! まったく、我ながら本当に駄目駄目だわ……
気を取り直して洞窟の入り口に張り付いて【解析】。うん、おっけー。そしてこそこそと皆の所まで戻る。
「どうでした?」
「取り敢えず、捕まってる人は居ませんね。ゴブリンの数も昨日の巣よりも少ないです。ただし、リーダーが魔法スキル持ちです。更に配下にも魔法スキル持ちが2匹ほど居るようです」
「……厄介ですね」
「そうですね」
神妙な顔で呟くリリーさんに答える。たかがゴブリンと言っても魔法使いがいるとなると、正攻法なら厄介だよね。うん、正攻法ならね。
「はあ…………で、どうするんですか?」
リリーさんはゆっくりと一つ息を吐くと途端に力の抜けた微妙な表情になり、更に私に問いかけてきた。えー、その反応ちょっと傷つくんだけど? いや、今までの私の行動を振り返れば仕方ないとは思うけどさあ……
「……昨日の方法は寒いと不評だったので、今日はちょっと別の方法で行こうと思います」
「…………アレ以外にもあるんですね、えげつない方法が」
なんでえげつないって決め付けるかなあ? いや、実際今日の方法も結構えげつないと思うけど。
「私としてはもうちょっと身体を動かしたいなー」
「取り巻きの居る複数の魔法使い相手に正面からですか?」
「そう言われるとちょっと微妙かなー? でもこのメンバーなら普通になんとかなるでしょー?」
それはそうかもしれないけどね。でもね?
「私は2人が怪我をしたら嫌ですよ」
「……そう言われてしまうと」
「……我慢するよー」
うん、我慢してください。
さて、話も纏まった所で行動開始! 昨日と同じ様に武器をしまって2人を抱えて洞窟の入り口に近づく。ノルンの【探知】によると周囲に魔物は居ないとの事だけど、洞窟内からゴブリンが出てくるかもしれないので一応警戒して慎重に進む。
入り口に着いたらまたしても昨日と同じ様に入り口の下2/3を埋める。ここまでは昨日と同じ。でもここから先が違う。
昨日のゴブリンの巣になってた洞窟は人が掘ったものなのか、下がある程度氷で埋まってても魔導甲冑でも入れる位には高さがあって、更に水平方向へと掘られていた。でも今日の巣は魔導甲冑だとギリギリの高さで、昨日の方法で足元を凍らせたら間違いなく入るのは無理だ。しかも、奥に進むにしたがって下方向に緩やかに傾斜している。ただ、幸いにして横道はない。
という事で、今日は【マルチタスク】を利用しての二属性魔法の同時使用をします。具体的には、水魔法で水を作って洞窟内部に流し込みつつ、雷魔法でその水に高圧電流を流します。
あんまり大量の水を流し込むと、後々死体回収の為に洞窟に入った時に面倒な事になるので、水の量は程ほどにしつつも洞窟の床全面を湿らせるように上手く加減しながら魔法を行使。
「ギー!?」
「グギャアアアアアアア!!???」
「グギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!!!?」
おー、魔法を使って早々に絶叫が聞こえる。
「……レンさん、いくらなんでも流石にこれは」
「昨日よりもドン引きだよー……」
はっはっはっ! なんとでも言うがいいさ!
と、一方的な拷問染みたゴブリンの巣攻略作戦を30分程続け、巣から絶叫が聞こえなくなった頃に魔法の行使は終了。次は巣に突入して死体回収、となるんだけど……
「臭いです!」
「くっさーい!」
「臭すぎますね……」
うん、臭いんだよ。凄く。
唯でさえ臭いゴブリンの巣が、高圧電流で生きたまま焼け死んだゴブリンの死体の焦げた臭いが加わって、凄まじく臭い! この臭いの中、巣穴に突入なんて絶対したくない! どうしたって臭いが移るでしょ、これ! いや、私は魔導甲冑に乗ってるから臭いは平気だけど、私以外の全員がね? あ、ノルンがいつの間にか遠くに離れてる。すまぬ……! すまぬ……!
あああああ! やばい、この作戦は失敗だ! でもなあ……
「……絶対に入りたく無いですけど、入らない訳にはいかないですよね」
ですよねー。でもまあ、最悪でも私が1人で潜ればいいだけなんだけどね……自分の後始末だし、頑張るよ……
「リリー、アレだよアレ。アレを使えば何とかなるんじゃない?」
「アレ? アレってなに? 何かあったっけ?」
「風魔法の付与だよー。【魔法剣】で風属性を服に付与すれば身体の周囲に常に新しい空気が作られるでしょー? それならこの悪臭を遮断出来るんじゃないー?」
「あー! その手が! 偉い! アリサ偉い!」
なんと、そんな方法が!?
早速試してみたところ、アリサさんの予想通りに臭いを遮断する事に成功したのであった! 凄い! アリサさん凄い! マジで偉い!
……前々から思ってたけど、アリサさんって思考放棄してるようで、実は凄い頭使ってるよね? それとも天然? ……どっち?
アリサさんの機転で臭い対策もなんとかなり、ようやく洞窟に突入。いやあ、無残な黒焦げ死体があるわあるわ。そんな無残な死体をさくさくと【ストレージ】に回収していく。
えーと…………うん、魔石は無事だね。ちゃんと加減出来てたみたいで良かった良かった。
そのまま洞窟を進んでいくと途中で魔法スキル持ちの死体も発見。ただし、2匹目は瀕死だけど生きていた。
「えいやー」
アリサの攻撃! ぐさー! ゴブリンは死んだ!
「手ごたえなーい、つまんなーい」
「そこは我慢だよ、アリサ」
「それは分かってるけどー」
うん……なんか、ごめんね? この埋め合わせはなにか……美味しいご飯か、或いはいつか精神的に?
洞窟の一番奥はやはり広間になっていて、そこでもボスと思しき魔法スキル持ちが生きていた。まあ、虫の息だったけど。
「おりゃー」
首ちょんぱー! ゴブリンは死んだ!
「魔法スキル持ちだと魔法抵抗力も高いって事でしょうか?」
「そんな所だと思います。でもレンさんもかなり手加減したんですよね?」
「そうですね。魔石が割れても困りますから……」
「……加減してなかったら、普通に死んでたと思いますよ。幾ら魔法スキル持ちと言っても、そこはやっぱり所詮ゴブリンなので」
「そう言うものですか?」
「そう言うものです」
なるほどなー。
「でも、今回の作戦は失敗ですね」
「そうですね……レンさんには申し訳ないですけど、今後、閉所ではこの方法は遠慮してもらいたいです」
「了解です。でも、沼地とかでリザードマン相手とかならかなり有効なのでは?」
「ああ、それは有りかも知れませんね! ……って、やっぱり駄目です。その場合だとこっちの足場も同じ水場近くなので、私達も感電してダメージを受けます」
「ああ……じゃあ、なにか対策を考えておかないと駄目ですね」
「……あるんですか、対策」
「まあ、色々と?」
と、そんな感じに緊張感の欠片もない会話をしながら町へと戻ったのでありましたとさ。
翌日、調査の為に洞窟に入ったギルドの調査隊は、あまりの臭いにとても苦労したとかなんとか。
さもありなん。






































