135 こんにちはゴブリンさん、そして死ねェ!!
ある晴れた昼下がり、絶好のピクニック日和でございます。
となれば当然野外でお弁当となるのは当然の流れ。今日のお弁当は肉巻きおにぎりとポテトサラダ。汁物は無しで水のみ。これは已む無し。
いや、焼おにぎりばっかりも流石に飽きてきたし、肉も食べたいよね、と考えた結果がこれでして。ポテトサラダはリリーさんの苦手を克服させない事には他の芋を使ったレシピが使えないので、こちらも已む無し。
リリーさんも若干震えながらだけど普通に食べてるので、味そのものが無理という訳では無いんだよね、単に苦手意識と言うだけで。
アリサさんは凄くいい笑顔で食べてます。にっこにこだよ!
ちなみに弁当箱には竹を使ってみた。縦に割って、中におにぎりを詰める感じ。で、割ったもう片方をあわせて紐で縛る。水筒も竹で作ってみた。どっちも数回使ったら破棄しないといけないけどね。
いやあ、それにしても今日は本当にいい天気だこと……ご飯が美味しいね!
え? ゴブリン退治はどうした? いや、ちゃんと午前中は殺戮の限りを尽くしましたよ? ゴブリン許すまじ、慈悲は無い!
魔導甲冑も返り血で真っ赤に染まる位にはブチブチと潰して回りました。お陰様で力加減にも大分慣れた。その成果がこちら、ゴブリンの魔石50個となります。今日はまだ1個も粉々にしていないのであります! 褒めてもいいんだよ?
あ、魔導甲冑の返り血はちゃんと水魔法で洗い流した後に『洗浄』もかけたので問題なし。ゴブリンの死体も全部【ストレージ】に収納済み。というかこのゴブリンの死体、何か使い道無いかなあ? うーん、肥料ぐらいしか思いつかない……まあいいや、取り敢えず保留という事で。
「今日のお弁当も美味しいー! 最初見たときは肉の固まりかと思ったけど、私これ好きー!」
「うう、確かにこのおにぎりは美味しいけど、ポテトサラダ……美味しいけど、美味しいんだけどぉ~……」
アリサさんは好き嫌いが無いから色々食べさせ甲斐があるねえ。リリーさんは複雑そうだけど、芋嫌いを克服してもらわないと色々と作れないものが有る旨は伝えてあるので、ちゃんと頑張って食べてる。その調子で頑張れリリーさん! 私は早くコロッケが食べたい!
あ、リリーさんの芋嫌いはやっぱり一度中った事があるからだったみたい。だが私は容赦はしない!
「あ、そうだ。レンさん、剣の名前決まったよー」
「やっと決めたんですか?」
「うん!」
おー、やっと決まったのか。何日もずっと悩んでたからねえ……いや、私が面倒で命名権をアリサさんに押し付けたのが原因なんだけど。
「それで、なんと言う名前にしたんですか?」
「あの剣を使うと飛ぶように走りまわれるから、『フェザー』って名前にしたー!」
ほうほう。つまりアレはアリサさんが羽ばたく為の翼という事か。うん、いいんじゃない?
「いいと思います」
「じゃあこれで決まりー! これからもよろしく、『フェザー』!」
自分で名前をつけたんだから愛着も湧くというものだよねえ。ここまで喜んで貰えれば作った甲斐もあるというものだよ、生産者冥利に尽きるなあ。
さて、ご飯も食べ終わったし、そろそろ午後の行動を決めないと。
「午前はかなり調子よくゴブリン退治できましたよね」
「そうですね、お陰で大分慣れましたし……午後はどうしましょう?」
「私は何でもいいよー」
うん、アリサさんは黙ってようね。しかし、ホントにどうしようか……?
「うーん……」
「そんなに難しく悩む事無いんじゃない? 午前で想定よりもレンさんが慣れたんだから、思い切って午後は巣に突撃でも問題ないと思うよー?」
「それも確かにありといえばありなんだけどね……」
んー、確かにそれもありなんだよね。問題は狭い巣の中でちゃんと立ち回れるか、だから。
「取り敢えず、行くだけ行ってみます?」
「そうですね……では、行くだけ行ってみて、無理そうなら引き返すと言う事で」
「よーし、それじゃれっつごー!」
それじゃあゴブリン皆殺しツアーにしゅっぱーつ!
……という訳で40分程歩いた所でそれっぽい洞穴を発見。まあそれっぽいとは言ってみたものの、実際にはマジもののゴブリンの巣だったりする。私とノルンの【気配探知】の反応でも確認できてるし、ノルンとベルの鼻でも間違いなし。
「見つけましたけど、どうします?」
草叢に潜んでひそひそと内緒話。
「……どのくらい深いのか分かればいいんですけど」
「それに、攫われた人が居るかどうかも分からないしねー?」
うん、一番の問題はそれだ。ゴブリンは時折人を攫うのだ。とは言っても、異種交配で繁殖なんていうエグイ話ではなく、食料として生きたまま飼われるんだよ。いや、それはそれで別の意味でエグい話なんだけど。
……魔物と人種の異種交配というのは、基本的には無かったりする。基本的には、というのは、ごく稀に異種交配可能な特殊能力を持つ変異種が現れる事があるから。本当に滅多に居ないらしいんだけど。後は、元からそう言う種族の魔物の場合。なんでも、なんか触手っぽいヤツらしい。
かんわきゅーだい!
んー、せめて人がいるかどうかが分かれば次に打つ手も決まってくるんだけど……ノルン、分からない? 私の【気配探知】はLV2だけど、ノルンはLV7だから何とかならないかな? ……え? 何となくいないような気はするけど、臭すぎて無理? 集中できないって? うん、なんかごめん。
とはいえこのまま草叢でうだうだと話し込んでいても埒が明かない。それにちょっと思いついた事があるから試してみよう。
「ちょっと様子を見てきます」
「大丈夫ですか?」
「ノルンもいますし、何かあったときは援護お願いします」
という事でノルン、一緒に付いて来て! 警戒よろしく!
周囲の様子を窺いながら草叢から出て、こそこそと巣穴へと近づいていく……ちなみに今の私は生身。幾らなんでも魔導甲冑は目立つので、流石に今だけは降りているのだ。
そそくさと巣穴に接近すると、穴の横の岩肌に背中をつけてソロソロと巣穴を覗き込む……うわ、臭っ! めっちゃ臭っ! これは確かにノルンも集中できないとかいう訳だわ……
っと、そんな事よりもさっさとやる事やらないと。
岩肌を這うように巣穴の中に指先を入れて、壁に触れて……【解析】。
……わぁお。まさか本当に出来るとは。
ああ、うん。なんていうかね……今私がやったのは『ゴブリンの巣穴』の解析なんだよね。ちょっとした思い付きだったんだけど、本当に出来るとは思わなかった。
【解析】って普通にチートスキルじゃないの、これ? お陰様でこの『ゴブリンの巣穴』の構造から内部にいるゴブリンの数に至るまで、丸分かり。反則にも程が有る。まあ便利だから今後も活用するんだけど。
うん、別の意味でちょっと頭痛い気分だけど、取り敢えず知りたい事は全部分かった。一旦2人のところに戻ろう。
「どうでした?」
「臭かったです」
「……そうですか。それで、どうします?」
「思いついた手が一つあるので、それを試してみようかと。うまく行けば戦闘は避けられます」
思いついたというか、今朝から色々考えてたというか。
「それはいいんですが……攫われた人が居た場合でも大丈夫な方法なんですか?」
「あ、それは大丈夫です。中はゴブリンだけです。ついでに巣穴の構造も全部分かりました」
「……はい?」
「えーと、ちょっとそういう感じの便利なスキルを持ってた、という事で」
「あー、元々持ってたスキルの使い方の応用を思いついて、試してみたらうまく行ったとか、そう言う感じー?」
「それです!」
アリサさん鋭いな!
「たまにあるよねー、そういう事ー」
「……良く分からないけど、分かりました。ではレンさんの作戦というのを試してみましょう。説明してもらえますか?」
そんな頭痛そうな顔しないでよ! 私だってただの思い付きだったんだから!
「見てもらった方が早いと思いますので、まずはやってみませんか?」
「……危険は無いんですね?」
「次は鎧に乗るので大丈夫です」
「わかりました。では行きましょう」
……さて、今度は魔導甲冑に乗って行動開始。でかい図体で巣穴に近づいていく……リリーさんは盾の影に、アリサさんは右腕にしがみ付いての移動だ。斧槍は邪魔なので【ストレージ】に収納してある。
巣穴に辿り着いたら、入り口の下から2/3程までを土魔法で壁を作って埋める。これは主に逃げられないようにする為。そして次に、水魔法で中に水を流し込む。とはいっても窒息させるのが目的ではない。幾ら魔力豊富な私でもこの巣穴の中を全て水で満たそうと思ったら、少々MPが心もとない。
巣穴の中からギャアギャアとゴブリン達の鳴き声が聞こえてくる。どうやらいきなり水が流れ込んできた事に驚いて慌てているらしい。
……さて、大体私の膝の高さ、ゴブリンの腰の高さくらいまで水を流し込んだところで、次はその水に対して氷魔法を使って凍結させていく。こうする方が何も無いところから直に氷を生み出すよりもMPの消費が抑えられるのだ。
バキバキと音を立てながら大量の水が凍っていく。
「ギー!?」
「グギャー!」
おお、鳴き声が叫び声に変わった。フハハハハ! 死ぬがよい!
氷魔法を使い続ける事30分、多分巣穴の中の水は全部凍ったと思うけど、まだ氷魔法の使用は止めない。巣穴の中の全てのゴブリンが冷気で凍死するまで、しばらく魔法の行使を続ける。全力で使うのではなく、ダラダラと低出力で。
そうしているうちに【気配探知】のゴブリンの反応が減っていき、やがて氷魔法を使い始めてから小一時間程が経過した。
「……鳴き声が止みましたね。そろそろ大丈夫でしょうか?」
「……レンさん、ちょっとえげつなくないですか?」
「と言うか普通にドン引きだよー……」
え!? 馬鹿正直に巣穴に突入するより楽で良くない!?
何はともあれ、入り口を塞いでいた土壁を消して巣穴に突入開始する事にする。
あー、これはちょっとミスったな。足元が分厚い氷で覆われてる分、天井までの高さが狭くなって魔導甲冑で入るのはちょっとぎりぎりっぽい。まあ無理矢理入るんだけど。
2人を腕に抱えて、魔導甲冑に乗ったまま巣穴の中を進んでいく……ああ、甲冑の重さで足元の氷がバリバリ割れていくわ。これなら思ったよりも平気かな?
巣穴を奥へと進んでいく途中、ゴブリンの死体を発見する度に【ストレージ】へと仕舞っていく。どれもこれも下半身が氷に埋まってるんだけど、そこは【ストレージ】様様。別に掘り起こす必要も無く収納できる。らくちんらくちん!
「どれもこれも断末魔の表情が……」
「私、こんな死に方だけはしたくなーい」
変なポーズで固まっているゴブリンを指差しながらアリサさんが嫌そうな顔で呟く。いや、本当になんだこの意味不明な格好。こんな死に方、私だっていやだわ。
「幾らなんでも一方的過ぎて……」
「楽だけど、ちょっとねえー?」
「楽ならいいじゃないですか」
「それはそうなんですが……っと、今ので25匹目ですか?」
「そのくらいですね。あ、この先が広間になってます。そこに親玉のホブゴブリンと取り巻きが5匹、の筈です」
「……さっきからドンピシャだから疑う余地も無いけどー、レンさんの便利さが留まる事を知らなーい」
「私、もう色々と考えるのをやめようと思うんだけど」
「私はもうやめてるー」
私の評価が駄々下がりしていく! ええやないか! 楽な方がええやないか!
「……あれ?」
「……まだ生きてますね、ホブゴブリン」
「あー」
流石に上位種だけあって生命力が強いのか。それに普通のゴブリンよりも大分大型だし。とはいえ大型といっても私と同じ位の大きさだから膝から下は氷に埋まってるので、倒すのは楽だろう。既に大分弱ってるみたいだし、声を上げる事もなく震えながら呻き声を漏らしてるだけだし。
ならば今トドメをくれてやる! って、アリサさん速っ! 一撃で首ちょんぱー!
「とったどー!」
ここまで見せ場が無かったのが面白くなかったのか、ノリノリだね。いや、いいんだけどね。
えーと、他の取り巻きは流石に全部死んでるか。じゃあ全部収納して撤収ー!
「ところでこの場合、事後報告でも巣穴攻略の報酬って貰えるんですか?」
「大丈夫ですよ。ただ、巣や集落の攻略は報告後に確認調査をして、それが終わってからになるので、報酬の支払いには若干時間が掛かりますね」
「ギルドカードに振り込んでもらう事も出来るから、わざわざ受け取りに行く必要もないんだけどねー」
なるほど、色々あるんだなー。
「……でも、この凍りついた巣穴を見られるのは、どうなんでしょうね……」
……それは考えてなかった。失敗失敗、テヘッ☆
尚、死体回収と確認を兼ねた巣穴突入中のあまりの寒さの為、この方法は2人には不評極まりなかったとだけは言っておく。魔導甲冑の中は冷暖房完備だから気付かなかったわー。
うーん、なら次はもうちょっと別の方法を考えてみるかな?







































