133 筍を食べた後にゴブリンを叩き潰すだけの簡単なお仕事
とまあ、そんな訳で只今大絶賛ゴブリンとの戦闘中であります。
小休憩の後、魔導甲冑に乗り込み、警戒しながらのしのしと森の奥へ進んで行く事30分。早くもゴブリンの群れと遭遇し、そのまま戦闘に突入したのだ。
と言っても当初の予定通りというかなんというか、戦闘配置が最後衛の私は魔導甲冑に乗ってただ突っ立ってるだけだったりするわけですが。
うーん、楽というか暇というか……いや、一応戦場が見渡せる一番後ろにいる私は、場合によっては『石弾』で援護射撃というか、フォローする事にはなってるんだけどねえ? うん、私、要らなくね?
いやもう、なんというか……アリサさんが凄い。リリーさんの【強化魔法】でバフが掛かってるのもあるとは思うんだけど、とにかく速い。後ろから見てても、正直速すぎて何やってるのか分からない時が……一応【鷹の目】で視力強化してる筈なんだけどなあ。
というかそもそも、動きがおかしい。文字通りに飛ぶような勢いで縦横無尽に駆け巡って、ゴブリンの首を刎ねる刎ねる。面白いようにぽんぽん飛ぶゴブリンの生首。
そんな感じで遭遇から5分と掛からずに10匹のゴブリンがあっという間に殲滅完了してしまったのでしたとさ。
「……リリーさん、アリサさんってこんなに強かったんですか? 訓練の時はもう少し人間っぽい動きをしてたような気がするんですが」
「あー……それは、なんといいますか……」
うん、はっきりいって動きが人間離れしてる。約一年前はもっと普通に人間の延長上と言うか、年齢からするとかなりの使い手っぽい感じではあったけどそれでも歳相応というか……
「私がすごいんじゃなくてレンさんに貰った剣のお陰だよー?」
「私の剣ですか?」
「そうだよー? この剣のスキル、【加速】だっけー? あれ、凄いよー!」
あー、そう言えばなんだかかなりインチキ臭い効果のスキルつけたっけ。というか、アレを使いこなすとあんな感じに動けるようになるの? マジで? でもあれ、あんまり燃費がいいスキルではなかったと思うんだけど。
詳しく話を聞いてみると、どうにも動きの要所要所で体の一部に瞬間的にスキルを発動させる事によって燃費の悪さを軽減させているとの事。あの飛ぶような動きも空中で【加速】を使い姿勢制御してるとか何とか……ごめん、正直何を言ってるのか分からない。
「あの訓練期間があってよかったよー。お陰でここまで使えるようになったからねー……っと、あぶない」
と、話してる最中に目の前からアリサさんが消えた。文字通り消えた。そして私の斜め後ろで『ガキン』となにやら金属音。
振り返ってみると剣を振りぬいたアリサさんの姿が。若干の間を置いて少し離れた所に矢が落ちた、と思ったらベルが走り出して草叢に飛び込んでいった。
「向こうから増援だねー。ゴブリンの癖に隠密系スキル持ちかな、生意気ー。ベルちゃん任せにしたら悪いから、ちょっと行って来るよー」
え、奇襲された? ちょっとおしゃべりに夢中になりすぎてたか……反省反省。幾ら魔導甲冑に乗ってて防御が万全とは言え、その安心感から警戒心薄くなっちゃったら、これに乗ってない時に慣れでやらかしてしまうかもしれない。気をつけないと。
じゃなくて、なに今の!? 幾らなんでも速すぎない!?
しかし、うん。あの剣を作った私が言うのもなんだけど、まさかここまで反則じみた性能になるとは思わなかった。もしかしてやらかした……?
後から聞いた話によると、この時の矢を斬り払った時は、風斬り音が聞こえた瞬間に思考と動体視力を加速、それと同時に走り出す動作の初動から加速して、抜刀しながら一気に斬り払った、らしい。意味が分からない。いや、そういう感じの事が出来るよ、とは言っておいたけど……剣の性能がどうとかよりも、こんなに早く剣の能力をここまで使いこなしてるアリサさんが怖いわ。
「あれってリリーさんのバフが掛かった上での動きですか?」
「一応は。バフ抜きなら多分レンさんには見えたんじゃないかなーと思います、多分。【鷹の目】持ってますよね?」
「持ってますけど……今、LV8ですよ? それで見えないって、ちょっと意味分からないんですが」
そもそも、仮に視認できる速度だったとしてもゴブリン相手にはオーバーキルだよね?
「リリーさん、私達必要なくありません?」
「……」
無言でそっと目を逸らすリリーさん。返事をしてよリリー!
「終わったよー」
はやっ! もう終わったの!?
「5匹しかいなかったしねー。次行こうよ、次ー」
そういいながら剣を振って血を払うアリサさん。って言うか、その動きも辛うじて見える程度なんですが、どういうことなの?
アリサさん、怖っ。怒らせないようにしよう……
倒したゴブリンの処理をその場でするのは面倒なので、私の【ストレージ】に丸ごと死体を収納して、魔石だけ仕分け。
討伐系の依頼の討伐確認はギルドの窓口で魔石を提出し、専用の魔道具を通す事でするらしいので、魔石の回収は必須なのだ。そういった事情もあって魔石破壊で魔物を倒すのは推奨されない。使い道も沢山あるしね。
ちなみに確認が済んだ魔石は魔道具を通した時に特別な処理がされてるらしく、再提出した時にはチェック済みと分かるとの事。繰り返し提出するといった不正は出来ないらしい。なるほどなー
などと考え事をしてる間にも次のゴブリンに遭遇。今度は20匹ほどの群れ。この森、ちょっとゴブリンが多すぎやしませんかねえ……?
まあいいや、さっさと駆逐しちゃおう。
「うーん、もうアリサさん1人でいいんじゃないかな」
操縦席で独り言を言ってしまうくらいには暇。
援護射撃の必要性も無い位にアリサさん無双だし。いや、ベルもがんばってはいるけどね。アリサさんの後ろを守ってるのはベルだしね。
リリーさんは……偶に抜けてきたゴブリン相手に水魔法で攻撃したりしてるね。というかリリーさんの魔法も威力と精度が凄いなあ……あれ、もしかしてアレって私があげた指輪の効果だったりする? ……もしかしてこっちでもやらかしてる? ……もういいや、2人に怪我されるよりはいい。開き直ってしまおう、仲間の安全の方が大事だし。
なお、ノルンは暇を持て余してどこかに行ってしまった。いや、本当の所は、強力な魔物がいないか周辺警戒に行っただけだけどね。とはいえ町の南側のこの森の辺りは本当にゴブリンやコボルト位しかいないらしい。ちなみに東の方は狼や猪、鹿と言った動物系の魔獣やオークもいるとの事。
何でそんな事知ってるのかって? そりゃあ冒険者ギルドに周辺の魔物分布図と目撃情報が貼ってあるからだよ。職員に確認すれば過去の情報も教えてもらえるので、慣れてくるとそれらの情報から現在の生息地点や次の移動先の予想を立てたりも出来る様になるらしい。
ガン! コン!
お? なんだ?
考え事をしてたら金属を叩くような音が。機体を動かして視界を下げると、ゴブリンが1匹、棍棒で魔導甲冑の脚を殴りつけていた。
続いてそっちが殴るのとは別のタイミングで金属音。こちらは少し離れたところからの投石の模様。
ううむ、本気で警戒心が緩くなってる。しっかりしよう。なにはともあれゴブリン2匹か。よし、ここは私自らお相手しようではないか!
とは言うものの今現在いるこの場所は森の奥。魔導甲冑でも歩ける程度には拓けてるとは言え、周辺は木々が乱立してる為に長柄のハルバードを振り回すには少々手狭だ。
いやまあ、木を薙ぎ倒しながら振り回してもいいんだけど、勝手に伐採するのも気が引けるわけで。
となると次の攻撃手段は盾で殴りつけるシールドバッシュ。『石弾』? いやいや、折角だし、色々試してみたいじゃない?
などと考えてる間にもゴブリンの攻撃は続いている。いや、全然効いてないんだけどね……文字通りにかすり傷一つ付いてない。付与マシマシですからね! って、いい加減攻撃するか。
攻撃しようと機体を少し動かした所でゴブリンが警戒して少し後ろに下がった。うん、丁度いい間合いだわ。一歩踏み込み、勢い良く盾を叩きつける。
ドグシャアッ!!
……なにやらあんまり宜しくない破砕音がした気がする。いや、今は戦闘中だ、確認は後回し! もう1匹のゴブリンに向かって一気に詰め寄り、こちらはその勢いのままバッシュ。
ドゴン! バシャアッ!
非常に鈍い音と、何かが叩きつけられて潰れたような音が……確認してみると、樹に叩きつけられて爆ぜ潰れたナニカと、盾にこびり付いた謎の肉片。
あー……やりすぎた? と言うか、普通に攻撃力がオーバーキル過ぎる……
「レンさん、やりすぎー」
「うう……しばらくお肉食べられない……」
呆れたように言いながらアリサさんが近づいてきた。少し後ろにいるリリーさんはちょっと顔色が悪い。
うん、なんかごめん。
でもちょっと力加減の練習は必要かなー、と思いました。魔石粉々になっちゃったよ。これじゃあ討伐確認してもらえない。勿体無い……
ちなみにゴブリン1匹の討伐報酬は銅貨5~10枚だったりする。多いような少ないような。微妙な感じ。
その後は何とか拝み倒した結果、魔導甲冑の力加減の練習も兼ねて私も何度か近接戦闘に参加する事になった。いや、毎回オーバーキルなのも、ちょっとね……素材の品質とか落ちるし、食用にもなる系の魔物とかの場合も、色々問題が出ちゃうし?
尚、追加で20匹分も挽肉を製造する頃になると流石にリリーさんも慣れてしまったらしく、少し早目に切り上げて昼過ぎに帰路につく頃にはケロッとしていた。強い。
ちなみに昼食は携帯食料を齧って済ませた。流石に森の中で煮炊きするのは、ちょっと……いや、無理ではないんだけど、流石に挽肉を量産してる時にはね……
リリーさん達とパーティーを組んだ今でも、早目に切り上げて帰るのは変わらない。帰る頃に暗くなってたりすると、運が悪い場合には魔物に襲われたりすると言う事もありうる。と言う建前はあるけど、何より私が面倒臭い。
自宅を出せば森の奥でも快適に過ごせるとは言え、何時誰に見られるかは分からない。王都滞在時に襲われた一件以降、一応自重は心がける事にしたので警戒はしておいて損は無い。
町に帰って冒険者ギルドに討伐報告に行き、精算待ちをしている時。なんだか若干注目を浴びているような気が……?
あー、ゴブリン討伐とは言え、50匹分の魔石をまとめて持ち込めば、そうもなるか。実際はもう30匹ほど多く倒してたりするんだけど、そこは、はい。すみません、なかなか慣れなかったものでして……
さて、今日の仕事も終わった所で、次は商業ギルドへと向かいましょうか。ちょっと家でも借りようかと思いましてね?
いや、なんと言いますかね……美味しいご飯を食べられるところがあんまりないのがね……? 毎回あのちょっとお高めの店で食べるのも微妙だし、それなら自炊しようかと言う事になりまして。うん、毎回私が作るわけじゃないよ。ちゃんと持ち回り。
という訳で借りたのがこちらのボロ家でございます。いや、間取りとしては結構広いんだよ。部屋数もあるし。元々は裕福な人が住んでた家らしい。
ただまあ、住む人が居なくなって空き家になって、それから時間が過ぎていくうちに朽ちたとか何とか。家賃が高かった所為で誰も借りなかったんだってさ。
でも交渉の結果、一日銅貨5枚で借りる事が出来る事になりました! 内装の改造は自由と言うおまけ付! 連泊する限りは家賃の額は固定、途中での家賃の値上げも無し! 他にも諸々こちらに有利な条件で契約をして来た。つまり、私のやりたい放題という事なのである!
いやほら、トリエラ達の家の事があったじゃない? あの時に『この手は使える!』って思ったんだよね。それでそのうち同じ手を使ってやろうと思ってましてね……ゲヘヘ。
連泊云々や値上げ無しと言うのは、改装後にギルドの人に知られて値上げされたりされないようにする為。ちゃんと書面を交わしたので抜かりは無い。
さて、今晩からぐっすり休めるようにさくっと改装しちゃいましょうかね?