129 結局寄り道する寄り道大好き人間、それは私です
御機嫌よう! レンでございます。
なんやかんやで王都を出て10日程経過したわけですが、ぶっちゃけ未だに次の街に着いてません。
現在途中の適当な野営地に数日滞在中だったりします。たしか王都からムバロに向けて4日くらいの場所だったかな? 実はそんなに離れた所でも無かったりする。
いや、別に急ぎの旅でもないし、ゆっくり行こうぜ! って事になったんだよ。王都に来る時と違って、他の商人の荷馬車とか同じ位の速度でだらだらと移動する事にしたんだよ。移動速度自体は冬にオニールに行った時に隊商と同行した経験が有るし、何となく掴んでるので、問題ない。
で、こんな半端な所で何をしてるのかと言うと、ちょっと色々と準備と言うか何と言うか……まあ、私も含めて色々と修行というか何と言うか?
当初の予定では途中の村に泊まりながら適当に依頼受けたりしつつ、と言う話だったんだけど、王都近郊の村だと結構商人の出入も多いし、地味に冒険者も多かったりするんだよ。
色々準備だ何だするにしてもあんまり人目に付くのもちょっとね、と言ったところ、それなら適当な野営地に暫く滞在してみる? と言う突飛な案がアリサさんからでましてね……そしてやや非常識な私が賛成した事で多数決により可決され、実行に移す事になった訳であります。
とは言っても大きな街道の野営地で何日も過ごしてれば目立つので、実際には野営地その物を利用するのではなく、野営地の近くの森のちょっと奥まった辺りを整地してそこを利用する事にした。
具体的には、樹を収納して回ってちょっとした広さの空き地を作って、そこに馬車に隣接する形で土魔法を使って簡易的な家の様なものを作ってみた。
まあ、あくまで簡易的なものなのでそこまで本格的なものではないんだけど。寝室は馬車の簡易寝台をそのまま利用。ゴーレム馬も本来は必要は無いけど一応厩っぽいものを作ってそこに繋いでおいた。人に見られた時の言い訳用とも言う。
間取りとしては寝室代わりの馬車から間に廊下を挟んで居間。廊下の左端にはトイレ。トイレ前の横に厩への出入り口。居間には食事用にテーブルと椅子、部屋の端には休憩用にベンチを設置。更に居間からは台所とお風呂へ行ける、と言う感じ。あと、居間から直接外に出る構造なので玄関ドアも一応付いてたりする。
自宅を出せば手っ取り早いんだけど、流石にあの大きさの家がいきなり現れたら目立つどころか騒ぎになる可能性もあるので、こういう形に落ち着いた。
え? それでも目立つ? いや、それもそうなんだけど……とはいえ、私の色々な準備をする為に村とかで家を借りて、となると場合によってはもっと悪目立ちするから、ある程度は仕方ないと言うか諦めたと言うか……これでも穏便な方法を選んだつもりでは有るんだけどね、仕方ないね。
で、色々な準備とは言ったけど、やってる事はパーティー連携の習熟と装備の新調だったりする。
まずパーティーの連携。実はこれが一番の問題だったりするんだけど……リリーさん達と私とノルン達との戦闘能力差が、なんというか……正直、隔絶してまして。
まずリリーさんとアリサさん。この二人の連携は申し分ない。
アリサさんは速さが身上の手数で勝負するタイプだけど、剣術のレベルも高いので一撃が極端に軽いと言う事も無く、オークの脂肪もなんのそので簡単に首を刎ねる位に強い。
リリーさんはその後ろで結界魔法で自分の安全を確保しつつ、攻撃魔法や補助魔法で援護。その上二人とも慎重なタイプなようで、基本的に安全マージンを大きめにとってる様子。無理はしない方針らしい。素晴らしい。
で、私とノルン達。
私は完全に後衛タイプ。前衛にノルンとベルを置いて、その後ろで距離を取って遠距離攻撃をするのが私の基本スタイル。応用として、巨人と戦った時の様にノルンに騎乗しての機動戦闘も可能だけど、こちらはあくまでも奥の手と言うか、非常時に取る戦法だ。立ち回りが大変なのであんまりやりたくないと言うのが本音だったりする。
まあ、私とリリーさん達の戦闘スタイルは基本的には同じ訳なんだけど、殲滅力が段違いなんだよね。
一度適当な魔物を相手にそれぞれの戦闘を見せ合ってみたんだけど……正直、このまま一緒に行動すると連携どころか私とノルンだけで殲滅できてしまって、リリーさん達の経験にならないと言う結論になりまして。
最終的には前衛にアリサとベル。後衛にリリー。更に後ろにバックアップとして私と、私の護衛にノルン。と、こんな形を目指す事にして、ひとまず私抜きでリリーさん達とノルン・ベルとで連携の訓練をしよう、と言う事になったんだよ。
訓練で私を外す理由? それは私の自衛能力の低さが原因。それを補う為のノルンによる護衛なんだけど、訓練の最中に危険な目に遭っても困る、という事で私はお留守番だったりする。
訓練中のフォローにノルンが立ち回らないといけないので、その間の私の守りが疎かになってしまう可能性が有るから、と言うのが建前で、実際はノルンが私が危ない目に遭うのを嫌がったからだったりする。
私が襲われた事件以降、ノルンの過保護が加速しましてね……ノルンの称号の『レンの保護者』ってなんなんだ。嬉しいやらありがたいやらでちょっと複雑。
とは言え、他にも幾つか理由はあったりするんだけど……まず、パーティーを組んだとは言っても、実際にはパーティーではなく徒党を組んだ、と言うのが正しい。
徒党と言うのは複数のパーティーが寄り集まった大規模なパーティー、と言ったらいいのかな?
一般的な冒険者のパーティーと言うのは平均して4~6人位で組むのが普通で、多くても8人位まで。
とは言え人数が多い方が得意分野も分かれるし、色々な状況に対応できるようになると言う利点もある。ただ、10人を超える人数がまとめて動くと立ち回りが複雑化してくる為、依頼に応じて編成を組み分けたり、苦手な分野の依頼の時は休んだりと、運用が変わって来る。
まあ、6~8人程度のパーティーでも同じ様に依頼に応じて分かれて活動したりする場合も有るんだけど、大人数の場合は単一パーティーよりも徒党として登録した方が利点が大きくなる、らしい。
難しい特殊な依頼とか大規模討伐とか、そう言う仕事の斡旋とか指名依頼とか、ギルド側が色々管理しやすい、と言うのも理由みたい? この辺りの事情はギルド幹部候補の姉を持つリリーさんからの情報。
で、その幹部候補の姉である所のサレナさんからリリーさんが聞いたという裏技が、徒党登録によりランク差や年齢差を誤魔化す方法だったりする。
今回の私とリリーさん達の場合、ランク差はそこまで問題にならないんだけど、パーティーを組んだ場合には私の年齢が13歳未満の為に討伐系の依頼が受けられなくなってしまう。
ところが、3人で一つのパーティーではなく、私をソロ、リリーさん達をペアとして総数の3人の徒党として登録すると、リリーさん達は討伐依頼を受けられるようになるのだ。
そしてこうする事により、一緒に行動していても別パーティーであるという詭弁が成り立つのだとか。なんてインチキ!
同一パーティーにランク差があったり、年齢制限に引っかかって依頼に制限が掛かる場合、稀にこういう方法を取るパーティーが有るらしい。
とは言え、ギルド側も馬鹿ではないので、悪用されない為に年齢差やランク差が大きい少人数徒党の登録は査定が厳しいとかなんとか……
え? 登録できたのかって? 普通に登録できましたが、何か?
いや、私ギルドへの貢献度高いしね? ギルド内での評価がかなり高いらしくて、特に何も問題有りませんでしたよ。仕事は真面目にやっておくものだねえ……
で、なんだっけ? あー、別行動する理由だっけ?
今説明したように便宜上は別パーティーって言うのも有るんだけど、次の理由は装備の更新ね。或いはプレゼントのお礼とも言う。
リリーさん達の装備と私の装備のレベルに差が有りすぎるというのもあるんだけど、私のリハビリに付き合ってもらったときにヘアピン貰ったじゃない? そのお礼も兼ねて、私が二人の装備を作ろうかなー、と。
と言う訳で作成したのがこちら。
まずリリーさんの指輪。
【全属性強化LV5】【魔力消費軽減LV5 】【魔力回復促進LV5 】【魔力操作LV5 】【魔法効果増幅LV3 】が付与されております。リリーさんって自前で杖持ってるし、それ気に入ってるみたいだから邪魔にならないように装飾品にしてみたのだ。名前は……んー、安直に『増幅の指輪』とか『マジックリング』とか?
次に『ミスリルローブ』。私の服と同じでミスリル生地の服。と言うか、服の上に羽織る魔法の法衣ね。
こっちの付与は【全属性LV5】【防御強化LV5】【耐久強化LV5】【重量軽減LV5】。私の装備よりも若干付与のレベルは落とした。自重したんだよ。
で、アリサさんの剣。
ミスリル製の片手剣で、付与は【風属性LV5】【無属性LV5】【攻撃強化LV5】【耐久強化LV5】【筋力強化LV5】【敏捷強化LV5】【ウェポンスキル:加速】。
アリサさんの長所を伸ばしつつ、短所も補う形の構成にしてみた。【筋力強化】と【攻撃強化】で一撃の軽さを補いつつ、【敏捷強化】と【風属性】で速度の底上げ。単一属性剣だと汎用性に欠けるので【無属性】を追加。
更にウェポンスキルの【加速】は『あらゆる行動を加速』させると言う技。『移動速度』を加速したり、『攻撃の威力』を加速したり、『思考速度』を加速したり。解釈次第で割りと何でも強化出来ると言う、ちょっと色々おかしいチート技だったりする。まあ、その分使いこなすのは大変だろうけど、そこはアリサさん頑張れ! という事で一つ。
え? 剣の名前? 名前は……考えるの面倒なので、アリサさんにお任せで!
最後に小手。と言うか、小手の様な何か?
アリサさん、臨機応変に動けるように両手が空いてるほうが良いとの事で、完全に手が塞がる盾よりは小手の方が良い、との注文だったのだ。
なんでもアリサさんの家の流派は利き手とは逆の手の装備次第で色々立ち回りを変えられるらしく、小手なら殴るし短剣なら受け流したり接近時に鎧の隙間を刺したり、盾なら当然受け流しにバッシュに、と色々と扱えるらしい。
その上アリサさんは二刀流スキルも持ってるので、元々使ってた剣もそのまま並行して使うのだ。そうなると装備が増えてしまう。とは言えこれ以上装備重量が増えるのも困るという事で、盾よりも小手がいい、と良い笑顔でおっしゃられたのであった。
元々戦場で練り上げた超実戦派の流派らしいので、なんと言うか……怖いわ。
ともあれ、そういった注文だったので左腕用のミスリル製の小手を作成。上腕部まで覆う形で、前腕部はやや大きめの装甲をつけて、簡易的に小盾の様に扱う事も出来る様にしてみた。付与は無難に【無属性LV5】【攻撃強化LV5】【防御強化LV5】【耐久強化LV5】で、右手は今の所不要との事で、必要になったら追加で作成する事になった。
と言うか【攻撃強化】が付いた小手って……いやいや、考えようによっては面白いかも? ふむー?
おまけで元々使ってた細身の剣も【無属性LV3】を付与しておいた。元々魔鋼製だったのでこっちは直ぐ終わった。
ただまあ、これらの装備を渡した時のリリーさんが遠い目になってしまっていたけど、特に問題は無い筈。
だってアリサさんは『これで私もとうとう魔剣士だよー!』って喜んでたしね! リリーさんも喜べばいいと思うよ!
そんな感じで二人の装備を更新した事もあって、それらの装備の習熟にも実戦訓練は必須なんだよ。
で、これらの装備の作成に時間がかかった、と言う建前で一週間程部屋に引き篭もってた訳です。実際の作成は全部あわせて2日で終わってたけどね。
残りの時間は何をしてたのか? そりゃ日課に決まってるでしょ、言わせんなよ恥ずかしい。いや、あんな事があったから忌避感でもあったら困るなあ、と言う確認の意味もあったんだけど。
うん、まあ……特に問題は無かったよ、多分? もしかすると気付かなかっただけで何か不都合があったのかもしれないけど、気付いた範囲では特には何も無かった。
とは言え別にそっちの確認だけが理由と言う訳でもなく、私が物作りに没頭すると引き篭もる癖が有るよ、と言うブラフと言いますか?
いや、今後はソロじゃなくてパーティーでの活動になるから、日課の時間取り辛くなるからね。これは今後の為にも仕方ないんだよ。
え? 自宅出してないのにできるのか? そこはまあ、色々とね?
今回は物作りをする為の作業小屋を別途建てて、そこにダミーで寝泊りできるようにベッドも設置しましてね? で、作業小屋から地下通路を掘って、大分深い所に広い空間を作って、そこに自宅を出して対応しました。作業中に声を掛けられても集中してるから返事は出来ない場合もある、と予防線も張って置いたので万全ですよ。ふはは!
あ、ちなみに食事当番は持ち回りになりました。一応全員【料理】スキル持ちだったのもあって、そうなった。私一人に負担掛けるのもパーティーとしては問題が有る、との事でリリーさんからの提案だったんだけどね。実際、殆どの大荷物は私の【ストレージ】で運んでる訳だし、メンバー全員の役割分担を考えると、私の負担分がかなり大きいと言うのは事実だからなあ。
ただ、アリサさんはちょっと不満げだった。アリサさんは【料理】スキルLV2だから、3人の中では一番低いので比べられるのが嫌みたい? ちなみにリリーさんはLV4、料理屋を開けるレベルだったりする。私はLV10なので、寧ろ目立たない為にはひっそりと生きていく必要があったりする訳ですが! レシピの問題も有るし、色々悩ましい……
とまあそんな訳で、私が多少引き篭もっても食事に関してはあんまり問題ないのである。
尚、引き篭もってる間に訓練で手に入った食材とかのナマモノ系の戦果はノルンの【アイテムボックス】に一時保管しておいて、私が部屋から出てきたらこっちの【ストレージ】の方に移す、と言う感じ。それに、日持ちしなさそうなのは氷魔法で凍らせてから仕舞っておけば、ノルンの【アイテムボックス】でも長期保存できたりする。
とは言っても今引き篭もってるこの辺りに出る魔物はゴブリンやコボルトが殆どで、オークは偶に出る程度なのでそんなに気にするほどでも無いんだけど。
何にしても訓練も積みつつ2人の装備も更新したし、次は私の装備かな?
んー、ゴーレムで鎧……ああしてこうして……あ、まずい。段々面白くなってきた。