127 ひゃっほい、デートだ! ……え、これデート?
はい、そう言うわけでデートです。嘘です。
いや、嘘じゃないんだけど、ちょっとね……そもそもデートなんて言ってはいるものの、実際の所、唯のリハビリだしね。
毒対策だのなんだのも重要ではあるとは思うんだけど、部屋から出られないと言う今の状態と比べればそんなものは俄然、優先度が低いわけですよ。
とは言え、激しい鬱状態の所為で部屋から出られないこの状況を早く何とかしないといけない訳で……そんな状況なのでデートでござい、なんておどけて無理矢理にでも勢いで外出しようとした訳ですがー
……初日は廊下にでて少し歩いた所でダウン。廊下の向こうの角から執事さんが歩いてきたのが見えたら足が動かなくなりました。私の豆腐メンタルめ。
2日目は階段まで行けたけど、階段下りた先に人がいるのを見て部屋へリターン。3日目で漸く玄関ホールまで辿り着いたのだぜ……! もう帰っていい? 駄目?
とまあ、そんなこんなで屋敷の外まで出るのに4日も掛かっちゃったりした訳であります。外に出たら、後は何とかノリと勢いでなんとか……とも行きませんでしたが。門の外を歩いてる人が居て、そこでダウン。自分の事ながら、もう少し頑張りましょう。いや、頑張ってる方なの? よく分からない……。
と言う訳で5日目にして漸く門の外まで出られましたとさ。
その後はリリーさんに手をつないでもらった状態でえっちらおっちらと店が並んでる区画を目指して移動。
頑張って何とか通りの近くまで辿り着いたものの、そこで脚が竦んじゃって……動けなくなって立ち止まって居る所に、離れて様子を見ていたアリサさんが寄って来て私の空いてる方の手を握って、一緒に来てくれるなんて言ってくれて、そこで漸く肩の力が抜けたというかなんと言うか……やっと脚が動くようになりまして?
「リリーには悪いけど、デートの邪魔しちゃってごめんねー?」
「私は別に気にして無いけど? 寧ろレンさんの方はどうなんですか?」
「私としては、やっぱり心細かったみたいで……手を握ってもらえて脚も動くようになりましたし、一緒に来てくれるなら心強いですし、ありがたいです」
「じゃあ2人がイチャイチャ出来ないように邪魔させてもらうよー」
「なんですかそれ?」
「……別に私は気にしてません!」
ほっぺた膨らませてそっぽ向いちゃって……リリーさん、滅茶苦茶気にしてるよね? ……ああ、でもこのリリーさんの不貞腐れた顔、懐かしい……可愛い。
さて、何はともあれ人が居る所まで出てくることが出来た訳でして、そうなれば早速遊んで歩いてみましょうか! ってなわけでウィンドウショッピングでござる。或いは冷やかしとも言う。
別に何か欲しいものが有るわけでもなし、元々の目的はリハビリだしね……まあ、問題がないわけではないんだけど。
いや、ほら……女の子の買い物の長い事って言ったら、もうね……?
今は自分も女の子だし、多分平気だろうなんて甘い考えでした。うん、全然無理。でもおじさん大人だから怒るとかしないけどね。
あっという間に1時間経過し、イライラを通り越して最早悟りに至る境地でございます。菩薩の気持ちになるですよ!
とは言え、アレコレ見て回ってアレがいいだのこれが似合うんじゃないかだのと騒ぐのは中々に楽しかったりもした。
まあ、流石に最初のうちは視線が怖かったりもしたんだけど、驚くぐらいの早さで気にならなくなって、寧ろびっくり。精神耐性スキルすげえ! ……と、思ってたんだけどね?
いや、なんかこれ……劇的にPTSDが改善してるって言うよりも、急速に心の痛みに鈍くなって行ってるだけのような気がするんだけど……?
なんだかこのままこのスキルに頼り続けると、人間性が失われていくような嫌な予感が……あれ、もしかしなくてもこれって地雷スキルだったりする?
……やめよう、これ以上深く考えるのはドツボに嵌る気がする。気付いてはいけない事に気付いてしまった気がしなくは無いけど、この件に関してはもう触れないでおこう。取り敢えず今は役に立った訳だし。
と、そんなちょっとアレな事に気付いてしまったり、それから目を背けてみたりしつつも冷やかしは続いていく訳で。
でも、うーん……この辺のアクセサリーとかリリーさんに似合いそうな気もするんだけど、ちょっとデザイン気に入らないなあ。寧ろあれだ、帰ってから自作した方が早い気がしてきた。それだと護身も兼ねて色々付与付けるのもありだし。
よし、そうしよう。今日のお礼とかそう言う感じで。
結局何も買わないで冷やかし続け、合間合間で軽食の類を買い食いしたりしているうちにお昼の頃合。多少は買い食いしてたけど、流石にお腹一杯には程遠いので、広場っぽい所の屋台で適当に色々買い込んで3人並んで座ってお昼ご飯という事になった。
なったんだけど、なんと言うか……なんで売ってるのがホットドッグ?
「なんだか、ハルーラで流行ってるのを見た商人が真似しだしたらしいですよ。他の街でも普通に売ってました」
マジか。
でもまあ簡単だし、直ぐ真似できるからなあ。仕方ないと言うか何と言うか。と言うか、別段こんなの真似されても私が困る事は特に無い。商売する訳でも無し。
とは言っても見回してみた感じだとソースの類は売ってる店によって違うっぽい? 挟んでるウインナーを変える以外だとそこで変化付ける位しか出来ないから、納得と言えば納得ではある。
ちなみに今私が食べてるヤツに掛かってるソースは、なんか……バーベキューソースっぽいような、なんか違うような……合わない訳じゃないけど、コレジャナイ感がすごい。いや、食えなくは無いんだけど。
腹ごしらえが済んだ後は少し移動して劇場で観劇。これがまたかなりお高かったりするんだけど、リリーさん達の奢りだったりする。
いや、自分の分位は普通に出せるんだけど。と、自分で出そうとしたらごり押しで奢られた。畜生め、このお礼は必ずするからな! 覚えてろよ!
と、そんなやり取りの後に開演。演目のタイトルはなんだったかド忘れしたけど、内容としてはこの国の建国に関わる類の内容だった。
元々この国は竜殺しの英雄が建てた国って触れ込みなんだけど、その辺りについての詳しい内容と言うか詳細というか……いや、これはこれで多分色々と脚色されてはいるんだろうけど。
……数百年前。元々この辺りには小国が幾つか有ったらしいんだけど、ここから東の方に有る山脈に黒竜が住み着いて暴れて回り、その幾つかの国が滅んだりとかしてしまったそうな。
生き残った人々が困り果てていた所に、後の初代国王となる戦士と、その旅の仲間の勇者が現れたらしい。
……普通逆じゃない? 勇者とお供の戦士、とか言わない? なんで勇者が仲間で戦士がメインなの? ……いや、気にしたら駄目なんだろう、多分。
何はともあれ、2人は人々を救う為に黒竜に挑んで、返り討ちにあったそうな。
生き残った人々も含めて色々と話し合った所、ここから北の湖には神様が居るとか言う言い伝えがあって、二人はそこに行って神様に助力を願う事にしたらしい。
道中で幾つかの苦難を乗り越え、無事に湖に辿り着いた2人はそこで実際に風の神様に会い、直々に聖なる武器を授かり、それを使って無事黒竜を倒したんだそうな。
黒竜を打ち倒した後、戦士は人々に請われて王になり、勇者はまた人々を救う為の旅に戻ったとさ。めでたしめでたし。
うーん、色々突っ込みたい。駄目? 駄目かー。とは言え王族にも関わる話だし、批判染みた事言うのは不味いよね、確かに。
でもまあ分かった事が幾つかあったりもする。
王都の北の湖が王家の聖地扱いになってるのはこの建国由来の為で、国教が風の神なのも同様。順当といえば順当なので、納得でもある。
国王と勇者は風の神様からそれぞれ聖槍と聖剣を授かったらしい。槍は後に初代王の名を冠し『竜槍ゲオルギウス』、聖剣は『アスカロン』と呼ばれるようになった。
初代王は戦友であった勇者の剣の名を王都の名前にして、友に敬意を表したとか何とか。あと、初代王の名前はそのまま王家の家名になったっぽい。割と適当だな、王家。
ちなみに槍の方は国宝として王家所蔵になってるらしいね。あと、倒された黒竜の鱗とかの素材使って真っ黒い甲冑が造られたとかなんとか。そっちも国宝扱いみたい。
……うん? 槍と黒い鎧? なんか、どこかで見たような……? んー……思い出せないなら大した事じゃないだろうし、どうでも良いや。
そんな事よりも個人的に気になったのは勇者と聖剣の行方。特に聖剣の方。今もどこかに有るらしいんだけど……聖剣の実物見てみたい。【聖剣作成】スキル全然伸びてないから、何かの参考になるかもしれないし。
とまあそんな感じで、この国の建国に関するお話でしたとさ。
え? 自分の住んでる国の事なのに知らなかったのかって? いやいや、一国民がそんな昔の事知ってる訳無いじゃん。日本人全員が日本書紀とか古事記とか、内容全部知ってるとでも? 外国人に説明できる? 無理でしょ? つまりはそう言う事だよ。
観劇の後は晩御飯まで又してもぶらぶらと冷やかしツアー再開。いや、他にする事無いし。食料品を買い込む? いやいや、折角のおデートなんだからそう言うのはちょっと……装備品も同様の理由で却下。そもそも私は自作してる。
とは言え我々3人は一応冒険者家業で生計を立ててる身なので話題がなくなってくるとどうしてもそっちの内容に偏ってしまったのは仕方ないとは思う。でもまあ、そのお陰で私はリリーさんたちとパーティーを組んで一緒に活動する、と言う方向で話が纏まったりもした。
あー、うん。誘われましてね? リリーさん達も私を誘う予定で帰って来たと言うのも有ったらしいので、折角なのでご好意に甘える事にしました。
つい先日襲われたりしたわけで、今後もソロ活動するのは怖かったから、渡りに船だったとも言う。ぶっちゃけどう切り出そうか迷ってたから、正直助かった。
その後は結局、予約の時間まで暇をつぶす事が困難になってきたので早目にレストランへ移動。いや、ウィンドウショッピングだけで何時間も時間潰すのは幾らなんでも無理。無理無理。
予約の時間よりも早く店に行ってしまったとは言えそこは流石に一流のお高いお店だけあって、席が空くまではお茶を頂けたりとサービスがしっかりしていた。
時間になって個室で食事となってからも色々とおしゃべりしつつ舌鼓。流石は王都の一流店、うまうま。
とは言え、以前行った領都の店と比べてそう極端に差が有るとい言う訳でもなく、こう言うとちょっと角が立つ気はするけど、色々手を入れる余地は有る感じ。と言うか余地しかない。まあ私は色々とアレだからそう感じるだけなんだろうけど。
食事が終わった後はお泊り。ではなく、リリーさんの家に帰宅。流石に未成年でホテルにお泊りしてむにゃむにゃ等と言う事は無かったのであった。残念無念。
え? あんな目に遭ったのに何言ってるのかって? いや、あんな目に遭ったからこそ可愛い女の子で癒されたいんだよ。分かれよ。
と言いつつも今日も間借りしてる客間でリリーさんと一緒に寝るんだけどね。ちなみに今日はアリサさんも一緒。両手に花でござる。
あ、あと寝る前に2人からプレゼントも貰った。
「ヘアピン、ですか?」
「はい。レンさんが料理してる時、時々前髪を邪魔そうにしてる時があったので……前髪を伸ばしてるのは顔を隠したいからだろうなー、とは思ったんですが、今後は私達も一緒に行動する訳ですから、そこまで警戒しなくても大丈夫かなーと」
なるほど、リリーさん可愛い。照れ照れでそういう事言う所があざとい。そして可愛い。これは本気で私を落としに掛かってると見て間違いない。
と言う冗談はさておき、頂いたヘアピンは予備込みと言う事で合計6本。デザインはシンプルで模様とかも何もなく、魔鋼をベースに表面に銀メッキ、かな? そして良く良く見てみるとこのヘアピン、どうやら【魔力回復促進】の付与が付いてる模様。LV1だけど。
「これ、【魔力回復促進】の付与付きですね」
「わかるんですか!? ちょっと見ただけなのに!?」
「リリー、ほら、レンさんだから……【鑑定】とか持っててもおかしくないよー」
相変わらず酷い言われようである。
「ええ、まあ。【鑑定】は持ってますので、色々とお役には立てるかと思います」
ちなみにこの付与自体は知り合いの伝手を頼って施してもらったらしい。なんでもリリーさんの親戚の叔母さんがそっち関係に伝手が有るとかなんとか? うーん、錬金術師紹介して欲しい……【錬金術】スキル覚えたい。
あー、あと2人にお礼しないと。何か実用性の高い装備品辺りでも……アクセサリー系の方がいいかな? んー、でもアリサさんは前に魔剣欲しがってたよなあ……その辺りも選択肢に入れておこうか。ともあれ、時間を見てなにか造ろう。
布団に入ってそんな事を考えつつも、なかなか寝付けなかったのでどうせなので色々と考えてみる事にした。落ち込んでた時はそれ所じゃなかったけど、今は大分頭も冷えたので考える事が沢山あって困っちゃうね。実はリハビリデートの最中にも色々と考え事もしてたりしたんだけど。
そんな感じで取り敢えず大雑把にこれまでの反省と対策とこれからの方針について色々と決めた。細かい所は明日詰める感じ? うーん、反省点が多すぎて、別の意味でへこむわ……