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124 そう かんけいないね


 翌朝、アルフォンスさんと一緒に帰って来たアルノー親方に呼び出されて、昨日の件について色々説明される事となった。

 端的に言うと、今回刀を持ち出したりしたのは全て私への注意を逸らす為だったらしい。


 私がこの工房に逗留するようになってからと言うもの、最初のうちは出入りの商人などには私の事を『若いが腕のいい鍛冶師』と言っていたらしい。

 所が私みたいな子供の腕がいいなどと言っても誰も信じなかったそうだ。親方曰く『実際に作業をしている所を見なければ誰も信じない』との事。ありがたいのかそうでもないのか……いや、目立ちたくない私としてはありがたいのかな?

 その後、私が刀を打てる事を秘密にして欲しいと言って来た時に、これはもっとしっかりと存在を隠すか誤魔化すかした方がいいのではないか、と親方は考えたらしい。

 この時には既に工房の全員に私の鍛冶の腕は口外法度と厳命していたそうだ。その上で、出入りの商人が私の鍛冶の腕を信じなかった事もあり、親方達が触発されたと言う『逗留中の鍛冶師』は別に居て、その上、気難しい職人であると言う事にして滅多に顔を出す事が無い、と言う話に摩り替えたらしい。

 私の時とは違ってこちらの話はすんなりと受け入れられたとの事。むぅ。

 とは言え、これにより周辺の工房からの私への認識は特に説明もしていないのに『新しく雇った住み込みの女中見習い』と言う事に変化していたそうだ。収穫祭の時に他の工房の子が誘ってきたのはこの所為っぽい。

 その後も順調に私への認識は変わっていき、収穫祭が終わる頃には完全に女中さん見習いと言う認識になっていたようだ。女将さんに色々レシピを開示していたりした事でそこから更にレシピが流れ、私は地味に周辺の奥様方からも人気が有ったそうな……


 所がどっこい、ベクターさんの魔剣作成依頼によって親方の私への認識が一気に上方修正される事となった。この辺りの話をしている時、まさか自分よりも遥かに上の技術を持つ鍛冶師だったとは思いもしなかった、と親方に苦笑された。『いえ、ここで修行した事でレベルが上がった結果です』とは言ってみたものの、まったく信じては貰えなかったけど。むむぅ。

 とは言え私の事が露呈すれば色々と不味い事になるのは間違いない。そう思った親方は私から情報を漏らさないようにとの条件を出されたベクターさんと相談し、色々と対策を講じる事にした。

 結果、私がベクターさんへ打った魔剣は親方の伝手で手に入れたものである、と言う話は親方とベクターさんが話し合って決めた事なのだとか。

 尚、本当に親方には魔剣や稀少な武具の類を手に入れる伝手が有り、この話は特に問題なく鍛冶ギルドに受け入れられたと言う事だった。実際、収穫祭の前にこの伝手を使って、親方は新たに二本の刀を手に入れていたらしい。

 技術解析をするにも一本では比較も出来ないから、と言う事だそうだ。それについては、出費もそれなりに嵩んだが無駄ではなかった、との言。鍛冶馬鹿の親方らしい話だ。

 所がベクターさんの魔剣があまりに破格の性能だった所為か、なにやら探っている連中が居るような痕跡が有ったらしい。

 ベクターさんが私に護衛をつけているとは言え、それだけでは不安が残った親方ここでまた一計を案じる事にした。ちなみに護衛の件はベクターさんに直接聞いていたそうだ。とは言え私はベクターさんから護衛の話を聞かされてなかったので、ここで初めて知った、と言う態度を取っておいた。自力で気付いたからね、私。

 そんな訳で親方は、人が集まる場所で何か盛り上がる話題を出して目立ち、私ではなく自分の方へ注意を集めようと思ったらしい。折りしも年末が近い時期である事もあって、年明け早々の品評会でそれをやる事にしたそうだ。


 実際、品評会も元々は新人や若手だけの場ではなく、親方連中が自分の腕を披露する場でもあったらしい。ただ、ほぼ毎回殴り合いの喧嘩になる為、暗黙の了解で親方達は自作の武具を持ち寄らないようになっていったらしいんだけど……なにしてんの親方達。

 ともあれそう言った事情のお陰で、アルノー親方が新作を披露したいと言えばギルド幹部達からは諸手を挙げて歓迎されたらしい。近隣諸国でも名の売れた親方の新作ともなると皆の注目の的だそうで……すごいね、親方。


 そんなこんなで色々と準備をし、親方が品評会に持って行ったのは参考にしたと言う三本の刀と、実際に打ち上げた数本の刀剣類。

 刀の内二本はさっき言ったように自身の伝手で手に入れたもので、これはこの国の隣国にある有名な迷宮都市のダンジョンから産出したものと言う事だった。

 なんでも迷宮都市に居を構えている弟弟子が居るそうで、その伝手を使う事で魔法の武具類も入手は可能だとか。輸入品を買う以外にも蓬莱刀は極々稀にダンジョンから入手出来ると言うのは初耳だったので正直驚いた。

 なんでも迷宮都市には自力で『剣術:刀』スキルを習得した冒険者が数人居ると言う話で、ダンジョンから産出した刀はその人達が買い占めてしまう為に中々外には流出しないのだとか……その人達、スキル習得するまで一体何本の刀を無駄にしたのやら。使った金額を想像するだけでも恐ろしい。

 さて、刀の話はその位で次は実際に親方が完成させた新作の剣の話をしよう。


 親方が新たに打ち上げた剣は曲刀だった。曲刀はシャムシールとかタルワールとかファルシオンとか呼ばれる刀剣類の事で、モノによって刀より反りが大きかったりもする。

 親方が打った曲刀は刀身が肉厚で強度を重視したもの。刀の様に薄く鍛える事が出来なかった為、苦肉の策だったらしい。刀の刀身の反りを見て何かに応用できないか、と考えたのが始まりだったみたい?

 親方は余り納得が行っていない様だけど、実際に品評会に持って行った曲刀は全て実戦で扱えるレベルに仕上がっているらしく、その場で幾つも商談が持ちかけられたとの事。曲刀は刀身を長くして重量も上げれば馬上剣としても優秀と伝えた所、親方は目を輝かせていたのでこの後試作するのかもしれない。

 と言うか、試作開始から僅か数ヶ月で実戦に耐えるレベルの曲刀が打てる様になる辺り、親方も大概だよね。


 ……とまあ、親方の刀自慢は自慢どころか実際はまったく別の意図で行っていた事だったと言うね……

 私に事前に話を通しておかなかったのは、後半私が付きっ切りになって指導していた事でエドの調子がとても良く、邪魔をしたくなかったからだったとか。実際、『高品質』の剣も打ち上がったのでなんとも言えない。

 エドの剣が打ちあがった後は品評会への根回しで色々忙しく、時間が取れなかったそうで……いや、別に結果オーライなので大丈夫ッス。

 私が賄賂として譲った刀を勝手に披露した事に付いては謝罪されたけど、あれは親方に譲ったものだし、私としては私が刀を打てる事を口外しなければ何も問題無しです。


 とは言え、昨夜エドから聞いた話が本当に話の一部でしかなかった事も原因なんだけど、親方は単純に刀自慢をしに行っただけだと勘違いしてました! 心の底からごめんなさい!

 いや、だって親方って鍛冶馬鹿じゃん? 唯の自慢だったとしてもおかしく無いじゃん? 勘違いしても仕方ないよね? ……いえ、本気で悪いとは思ってます。ホントにごめんなさい。


 尚、想像上の謎の鍛冶師は年明け早々に出て行った、と言う事にしてあるとの事。エドが言う先生もこの謎の鍛冶師と言う事になってるらしいので、エドの方は工房の外で私の事を先生呼びしないように気をつけているらしい。

 まあこっちに関しては私が滅多に外出しない事も有って、そこまで問題はなさそう? エドも出来るだけ工房の外では話しかけないようにします、と言っていた。ホントに気をつけたまえよ、チミィ?


 ちなみに監督業へのお礼は、件の親方の伝手である迷宮都市在住の弟弟子への紹介状だった。もしそちらの方へ行く事があった時に何か困った事があれば頼るように、との事。ありがたやー!

 しかもこれまでの私へのお礼と言う事で、これまで私が払ってきた鍛冶場の使用料を全額返されてしまった。その上、これからも好きなだけ居ていいとかなんとか……鋼材は自費だけど、燃料費は気にしないでいいらしい。マジか。マジかー!


 あれ? 私もう親方に足向けて寝られなくない……?



 さて、親方のお陰で色々不安も払拭されたし監督業も終わったし、と言う事で私としては本腰を入れて鍛冶修行へ取り組みたい所存であります!

 と言う訳でまずはステータス確認から。長らくLV8で停滞している鍛冶スキルを見てげんなりするのだ。そしてその憤りを鍛冶作業でぶつけるのである。と言うかもういい加減レベル上がって欲しい……

 って、あれ? LV9になってる? 何で? ……あ、もしかしてエドへの指導? いや、或いは指導したエドが結果を出したからとか? んー、何となくだけどその辺が正解っぽい……ああ、でもこれでまた一つ壁を突破出来たよ! 後はまた一心不乱に剣を打つだけでいいよね! そうだと言ってよばーにぃ!


 あ、それはそれとして2月に12歳になりました。はっぴーばーすでぃとぅーみぃ。

 と言う訳でこっそり自室でカレーを食べてケーキも食べました。うまうま。ちなみにケーキはレアチーズケーキ。いや、スポンジケーキってどう考えても作ったら拙い気配がプンプンとね……?

 え? トリエラ達に祝って貰わなかったのかって? いや、孤児院に居た時から一々誕生日とか祝って貰った事って無いし?

 ……あれだよ、毎月最初の日にその月が誕生日の子を集めて全員纏めておめでとーって言って終わり。それだけ。それもこれも貧乏が悪いんだよ。

 そうそう、ぼっちバースデイの後、背を測ったら1センチ伸びて、とうとう140cmになってました!

 こんなに嬉しい事は無い……分かってくれるよね? 厚底靴は、いつでも作れるから……

 え? チビの気持ちなんて分からない? ブチ殺すぞ?


 などとやさぐれていたらトリエラ達が押しかけてきて連行されました。お祝いしてくれるそうですよ。マジか。

 うん、まあ……嬉しくないと言えば嘘で、めっちゃ嬉しかったです、はい。調子に乗ってチーズケーキを振る舞いましたわよ! 自分の誕生日パーティー開いて貰って自分でケーキ用意するとかちょっと微妙な気もしたけど、それはそれ、これはこれ! 楽しい一時でした!

 まあプレゼントとかは無かったんだけど、アルル達女子が精一杯ご馳走作ってくれたりしてね……ちょっと涙ぐんでしまったり。ちなみに再会してから今迄に私が皆に色々してきた事へのお礼も兼ねてるらしい。

 男子メンバーはお祝いの言葉を言った後は端の方で大人しくしてたよ。とは言えご馳走食べられるしケーキもあるしで、全員終始笑顔だった。

 あ、当然だけどお酒は無しだったからね、子供だし。と言うか孤児院に帰った時に野郎共がやらかしてるから、女子から禁止令が出てたみたい。

 ケインとボーマンは不満そうだったけど、マリクルは反省してるらしく大人しくしてたし、リューに至っては酒はイカンと言う考えになってるらしい。リューの成長がマッハでヤバイ。

 と言うかマリクルも酒好きなのか……イイネ! 後何年かしたらお酒を差し入れてあげても面白いかもしれない。一緒に飲もうぜ! ケインとボーマンは知らん。自分で買え。


 誕生日が過ぎた後はまたも鍛冶修行。やる事無いし、と言うか、さっさと上げて別の事したいし。この冬でLV10になれたら色々助かるんだけど、時間的にちょっと微妙かなあ……?

 そう言えば去年の今頃は森に引き篭もってたっけ……あの頃は何してたっけ? んー……たしか、剣を造ろうとしていたような? って、今も同じ事してるわ。まるで成長して無い……!

 いやいや、背も伸びたしおっぱいも大きくなったし、成長してるしてる。大丈夫、まだ焦るような時間じゃない。

 後は何してたっけ? ……ああ、ほぼ毎日の様に日課してたっけ。あの頃はやる事あんまり無くて暇だったからなあ……そう言えば最近してないなあ、日課。

 え? 日課なんだから毎日やっててもおかしくない? 寧ろ最近やってない方がおかしい? あ、うん。そーっすね。

 あー…………うん、春になったらまたちょっと遠出しよう、そうしよう。


 その頃になればもしかすると鍛冶スキルがカンストしてるかもしれないし、そうなれば王都から出て何処か別の街に行くのもいいかな? ああ、ハルーラに顔出しするのも有りかも? 久しぶりにリリーさんやアリサさんの顔も見たいし、ユイやシン達にも会いたいな。

 んー、その為にもやはり、先ずは鍛冶スキルLV10を目指さねば。


 と言う訳で、それからは今迄以上に集中して剣を打ちまくり、三月になって雪が解ける頃には遂に鍛冶スキルのレベルが10になりましたとさ。



 ついに ねんがんの かじスキルれべる10に なったぞ!



 いや、その後も散々打った剣を素材に魔剣も量産したからそっちのレベルもちょっと上がったりしたけどね。

 ともあれ、これでやっと剣以外の事も出来る様になるよ……流石に疲れた。


 取り敢えずはこれで一段落着いたし、ちょっと遠出して久しぶりの気分転換ですかね? ドゥフフ!


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[気になる点] 巨乳のスキルレベルどうやってあげるんだ? スキルである以上鍛え方があるはずなのに全く分からん
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