114 嫌な予感ほど良く当たりませんか?
翌日。
今日の午前中は魔物避けの灯篭……【結界魔法】も組み込んでるし『結界塔』で良いか、それの追加作成。
今も家の石垣の四隅と家の周辺四方の合計八つ設置してるけど、もっと広範囲に設置する事も有るかも知れないので、念の為に準備しておくのだ。何事も備えは大事!
ちなみに形状が灯篭なだけあって、実際に灯りを灯す事も可能だったりする。今は使ってないけどね、森の中に灯りとか目立つし。
そんなこんなであれこれやってるうちにお昼も過ぎて、マリクル達がやってきた。今日のメンバーはマリクル、リコ、クロ。ちなみにノルンの迎えは無し。なにやらクロがひょいひょい先導したとか何とか……獣人しゅごい。
それはさておき、んー……前回のメンバーは武器が充実してたけど、今回のメンバーはちょっと微妙? と思ってたら、なんと来る途中で角兎を二羽獲って来たらしい。
一羽はリコの無属性の『矢』の魔法で、もう一羽はクロが一人で追い回して仕留めたとか何とか。
なんでも、今孤児院に帰省してるメンバーの中にはDランクで討伐依頼をこなしてる男子も居るとかで、ケインやマリクル達男子やトリエラ達と模擬試合で実戦稽古してくれてるらしい。
そして驚く事にその中でもクロはなんと無敗。最初は手加減していたDランクのお兄さんも途中からは本気になって戦ったにも拘らず、それでもクロが勝ってしまったのだとか……恐るべし、猫獣人。
ちなみにその戦闘スタイルはアサシンスタイルだったらしい。高速で死角に回って手足や急所を攻撃し、大きな隙を作った後に首筋にダガーを突き立てたのだとか。あらやだこの子、怖い。
とは言えクロの戦闘スタイルは獣人の身体能力を生かしたものだし、武器もダガーなのでケイン達に教えるにも戦闘スタイルが違いすぎて役に立たない。結局ケイン達にはDランクのお兄さんお姉さん方が稽古をつける事になったらしい。
なお、そんなお兄さん方と互角以上に渡り合ったのがマリクル。盾を巧みに使いこなし、勝率は五割近かったのだとか。頑張ってるね、マリクル。
体の小さいリューは地道に基礎訓練。とは言え、速さを生かして手数で押す戦い方を選んだとかで、短期戦なら割と良い勝負になるらしい。ただし、長期戦になるとスタミナ不足が目立つのだとか。
ケインはお古のショートソードを貰ったとかで、大喜びしてたらしい。そしてやはりと言うか何と言うか、才能があるみたいでメキメキ強くなってるそうな。まだ数日しか経ってないというのに、ソレは素直に凄いと思う。
ボーマンは……一撃の威力は凄いそうです。ただし、他がてんで駄目。
女子だとトリエラが槍を使う事にしたらしい。Dランクのお姉さんがショートスピアを貸してくれた上で色々教えてくれてるとかで、こちらもメキメキ上達してるのだとか。
実際、トリエラは後衛で女子への指揮担当なので、近距離武器のショートソードよりも中距離武器のショートスピアの方が相性は良い。それに兎狩りの時にも一番角槍を使いこなしてたのはトリエラだったらしく、どうやら元々槍に適性があったっぽい?
アルルはひとり、石を投げていたそうです。仕方ないよね……
そしてリコもボッチで魔法の訓練。『矢』の魔法を使ってひたすら的を撃ってたらしい。
ちなみに『矢』の魔法と言っても、別に『なんとかアロー』と決まってるわけではない。『なんとかボルト』でもいいし、『なんとかミサイル』でもいい。
基本的に魔法名は術者の気の向くままに付けてもなんら問題なく発動する。つまり、とても厨二心溢れる名前をつけても大丈夫と言う、実にゆるふわな設定なのである。
なお、リコは普通に『マジックアロー』と名付けたそうです。無難だね。
「ケインは剣を貰ったって言ってましたけど、他の皆は? マリクルは何か貰わなかったんですか?」
「いや、ケインだけだ。他の連中もそんなに余裕があるわけじゃない。予備の武器だって本来は備えとして用意しておくものだろ?」
「そうですね……」
今回持ってきてもらった情報は特に目立って変わった所はなかった。オニールまで同行した隊商の人達が翌日には王都に帰って行った、と言う位? ちなみに私達が良くして貰った隊商のリーダーさんは私の事を言って回ったりはしなかったらしい。
商人さんの帰り際に偶々会ったトリエラが聞いた所によると、複雑な事情がありそうだったので何か余計な事を言って私の不利になる様な事が無い様にしてくれた、という事だった。
他の同道してた隊商の人達は私の事を詳しく知ってる訳ではないので、別に何も変な事もせずに一緒に帰って行ったと言う事だった。ちょっと安心かな?
後は……街に残ってる予備戦力の冒険者達は、冬の主を倒した際に支配下に置かれていた魔物達が暴走した場合の後詰めも兼ねてる、と言う話だとか。
今回の冬の主がどれだけの魔物を従えてるのかは分からないけど、主を倒すとその影響下から解放された魔物が暴走して近くの集落を襲うと言う事が稀に有る。
実際に冬の主と戦う主力とは別に、その取り巻きの魔物達を相手する為の後方部隊も前線拠点に移動しているらしいんだけど、もしも今回の主が想定よりも多くの魔物を従えていた場合はオニールの近くまで魔物が溢れる可能性もある。
街の予備戦力はそう言った場合に対処する為の備えだとかで……最悪の場合、街に居る13歳未満の冒険者にも動員がかかる場合もある、と言う事らしく、帰省した他のメンバーがケイン達を鍛えてるのは非常時に備えて、と言う面もあるらしい。
んー、なんだか変なフラグが立ったような……ベクターさん、頑張って何とかしてください、マジで。
とまあ、そんな話を聞いた後は特に話題も無く、結局はトリエラ達の訓練や装備の話になってしまった。
今回ケインが剣を貰った事で、武器がないのはあとはボーマンとマリクルだけ。マリクルは一応ダガーは持ってるけど、それを主武装として使うのは聊か心許無い。アルル? アルルはアーチャー志望だから、当面は石を投げて【狙撃】スキル覚える方が先だよ。
とは言え、トリエラも槍使いを目指すようだし……んー、マリクル達にも一つ、装備を用意してもいいかもしれない。但しボーマンとケインは除く。ボーマンはあれだ……なにか、棍棒でも使えばいいんじゃないかな? 腕力あるし、技術要らないし。あれ? 意外と有りじゃない?
マリクルにそんな事を伝えると、「確かに有りだな……」と呟いていたので、帰ったら作るのかもしれない。
それはさて置き、先ずはクロにオーク革の防具を拵えてみた。
武器は前にあげたダガーがあるけど、予備にもう二本追加。但し、戦闘用のしっかりとしたダガーだ。そこに更にスリングも有る。
話に聞いた戦闘スタイルや種族特性を考えると、スカウト兼レンジャー、時々アサシンと言う方向がいいんじゃないかな?
アサシン……あの商人をコロコロ出来たら……いやいや、それは最終手段。犯罪者になって国外逃亡とか、考えうる中で最悪のパターンだし。と言うかスキルが足りない。念の為に今から色々鍛えておこうかな……
次、リコ。
と言ってもこの子は魔導師として進むつもりなので、変に装備をいじる所はない。防具は前にあげた隠れ身のマントが有るし、そこに更に革の胸当てとかも着けると流石に重い。と言う事で革の小手や脛当てを追加する程度にしておく。
また、魔力が切れても遠距離攻撃が出来るようにリコにもスリングを渡す。リコがダガーを使うような状況は既にパーティー全滅の危機なので、そうならない様に皆で頑張ってもらうしかない。
最後はマリクル。
まずはお約束のオーク革の防具。とは言え部分部分に金属プレートを縫い付けて防御力を強化してある。
武器は最高品質の片手剣を用意した。但し、付与はなにも無い。この辺りはリューの剣と同じ仕様だ。ふと思ったけどこれ、普通に買おうとしたら小金貨何十枚になるんだろ……? 或いは金貨数枚? ……いや、考えるのはやめよう。
次に盾。と言っても余り大きな盾を持たせても重くて使いこなせないと思うので、鋼と木と革を組み合わせて作ったラウンドシールド。一応前面部は全て金属製なのでそう簡単には壊れないと思う。成長したら自分で総金属製のラージシールドでも買って持ち替えるといいよ。ちなみにこれにも付与は無い。
前の革の盾は……リューとケインに下げ渡す方向で。
……無駄にするよりは活用するほうがいい。
「なあ、本当にいいのか?」
「死なれると悲しいですから」
「死って……それは、まあ……でもそうだな、その内なんとかして金は払う」
「出世払いでもいいですよ」
「頑張るよ」
「私も頑張って払うよ!」
「……レンちゃ、私も頑張る」
うむ、がんばりたまへ。
あ、ふらりと出かけて帰ってきたら装備が更新されてるとか、孤児院に帰って来てる他の面々からどう言う事なのかと詰め寄られるのは必至だと思うので、何か言い訳も考えておかないと駄目かな。
んー、王都で良くしてもらってる商人さんが商売のついでに会いに来てくれて、色々と心配して装備を貸してくれた、と言うのはどうだろう? トリエラの対人コミュ能力を考えるとありえない話じゃない……うん、これで行こう。
その旨をマリクルに伝えると頷いて同意してくれた。後でトリエラにも伝えておくそうだ。
さて、言い訳はこれで良いとして……リューの装備は前に渡してあるし、後はトリエラの槍か。
これは流石に本人が来ないと作れないかな? いや、ショートスピアとロングスピア、両方造って先に用意しておくと言うのも手かな。ああ、ついでに防具も更新しておかないとだね。
等と悪巧みしているうちに晩御飯の時間。うん、当然今日の三人も強制お泊りだからね。
前回のトリエラ達の話を聞いていたらしく、三人もシチューを食べたいという事だったので今晩もクリームシチューを作った。三人共お代わり連発だったので好評の模様。むふー!
食後はお風呂に入って就寝。この辺りの流れは前回のトリエラ達と一緒だ。部屋割りはリューが使ってた部屋にマリクルを放り込んで、後は二人に選ばせた……んだけど、リコとクロは相部屋で寝る事を選択した。一人寝は寂しいらしい……
ちなみに客間は全てツインベッドなので、その辺りは問題ない。邪魔な時は1つは【ストレージ】に仕舞うだけの話。
翌朝、予想通りに三人共昼前まで起きてこなかった。
昼食が終わって皆が帰った後はまた自由時間である。何しようかね? ……まあ、色々作ったりしてみた。夜は少し早めに日課をして、早めに寝た。
とまあ、以後、そんな感じで過ごす事となった。
自由時間中にやった事の中で特筆する事と言えば、変装の研究。
ほら、実際に何か非常事態とかになったら街の近くまで行かないといけないかもしれないでしょ? と言うか、最悪の場合は街に入らないといけない訳で。
フードやマフラーでガチガチにガードを固めてるとは言え、不安が無いとは言えない。かと言って髪を切るのも癪だし、なら色を変えてやろうじゃないか、と思ったのですよ。
ほら、ベクターさんもやってるみたいだし? それなら私だってやって出来ない事はない筈!
で、色々試してみた結果、【偽装】スキル単体では無理だった。どうやら光の属性魔法を併用する事で色を変えていたらしい。
と言う事で試しに色々な髪色に変えて遊んでみたりもした。遊びながら色々試してみたけど、一番のお気に入りはやっぱり銀髪ですかね? 転生物の主人公だと良くある色だし、自分でも中々似合ってる気がする。
ついでに瞳の色も変えてみたんだけど、何故なのかは良く分からないけどこっちは変更している間はずっとそれなりのMPを消費し続けた。私のMP量からすれば微々たる物だけどね。
でもこっちの色変更は長時間維持するのは面倒かもしれない……髪の方は一回変更した後は特に消費も無く維持できるんだけど、なんだろうね、コレ?
ちなみに毛髪の色変更は自分以外にも使えたので、ノルン達と一緒に遊んでみたりもしてみた。中々楽しかった! 金色とか、もの凄く目が痛くて思わず笑ってしまった。
他には炸裂弾を追加で造ったり、色々な消耗品を補充したり? 存分に日課が出来ない事を除けば、中々に充実した日々を過ごせた。
そしてこの森に引き篭もり始めてから十日ほど過ぎたある日の午後、それは唐突に起きた。
その日は朝から変な違和感を感じていた。それに森も妙に静かだった。
そんな妙な違和感に首をかしげながら過ごし、お昼ご飯も終わってノルン達のご飯皿を片付けようとした時、不意にノルンが頭を上げて一点を見詰めた。
「……ノルン?」
微動だにせずに中空のただ一点を……いや、一つの方角を見つめるその様子は明らかに異常事態が発生してる事を知らせていた。
ノルンに問い質すと、どうやら最悪の事態が発生したようだった。オニールの街が魔物の群れに襲われているらしい。
【探知】しかもって居ない私と違い、ノルンは探知系の上位スキルを幾つも覚えている。その為にこの異常事態に気付いた様だった。
こうなってしまったら、いざと言う時の為にも後詰めとして街の近くまで移動しておいた方がいい。急ぎ自宅を収納し、結界塔も回収すると急いで森の外を目指して移動を開始した。
運動が苦手なんて言って碌に鍛えもしなかったのは失敗だった。スキルの補正があるとは言え素の能力は低い為、体力不足で直ぐに息があがる。AGIは高い筈なのに、上手く動かない足が酷くもどかしい。
漸く森を抜けて街の方を見てみると、こちらに向いながら狼型の魔獣の群れと争っている集団が見える……トリエラ達だ! 慌てて駆け出し、ノルン達に救助に行って貰う。
私がトリエラ達の下に着く頃にはノルンとベルによる蹂躙は既に終わっていた。
皆は肩で息をしていたけど、特に怪我などはしていない様子。とは言え、面子が足りない。ここには女子しか居ない。
首を傾げた私に、私が造った槍を杖代わりにして息を整えながらトリエラが声を掛けて来る。
「よかった、レン……ここまで出て来たって事は、何か有ったって分かったって事だよね?」
「他の皆はどうしました?」
頷き、返事を返してトリエラから事情を聞く。
どうやら私の予想通り、魔物の暴走が起きたらしい。慌てて街に情報を持って帰って来た斥候によれば、想定を遥かに上回る数の配下が居たようだ。
前線に出ていた戦力も頑張ってはいたようだけど、主の元には副官とも言うべき強力な魔物が居たとかで、そいつが群れの一部を率いて街の方へと移動して来ているらしい。
前線戦力も急いでこちらに戻ろうとしているようだけど、前線に残った残存する魔物を駆逐するのにはまだまだ時間が掛かる見込みらしい。
結果、結局は街の予備戦力だけではなく13歳未満の冒険者も動員する事になり、前線戦力が戻るまで時間稼ぎの防衛戦が始まっているとの事だった。
そんな状況下で、トリエラ達は私の強力な従魔達……ノルン達の戦闘力でなんとか出来ないかと思い、ここ迄知らせに来ようとしたのだ。
でもその移動中に魔物達に襲われてしまい、戦力の差に全滅を覚悟した所でタイミング良く私達が駆けつけた、と言う事だった。
「拙いですね……急ぎましょう」
「あ、でも……大丈夫なの!?」
「対策は色々してあります」
そう、対策は用意した。そしてこの状況下でみんなを見捨てる事は出来ない。皆を助ける事は決定事項だ。なら、その後の事はもうなるようにしかならない。
「ノルン、乗せて! 急いで走って!」
ノルンに飛び乗り、急ぎ街を目指す。トリエラ達には悪いけど、先に行かせて貰う。
「先に行きます、トリエラ達は後から来てください! ノルン、ベル、行くよ!」







































