105 収穫祭 四日目・五日目
あー、収穫祭四日目です。
と言っても今日は特に出かける予定も無いんだけど。今日の予定は時間のかかるコンソメスープの仕込みとリューの剣の仕上げ? コンソメは兎に角時間掛かるので今日は丸一日潰れる覚悟。量も欲しいので大量の寸胴鍋でまとめて一気に作るつもり。頑張ろう……
中庭を使わせてもらって延々とアク取りだのなんだのやってるうちにあっという間に昼。うん、もうなんと言うか……疲れてきた。並行して他にも色々作ったりしてたんだけど、やはりコンソメは面倒臭い。でも色んな料理にも使えるし、仕方ない。
昼食後も延々コンソメ。合間を見てリューの剣を組み立てて、後はリューが来るのを待ちながらコンソメ。飽きてきた……もう、魔法で一発でいいんじゃなかろうか? でもここ迄来たら殆ど意地で最後までやりたい……うぐぅ。
朝の6時頃から始めて凡そ10時間、夕方5時頃にリューがやって来たので鍋を全部【ストレージ】に仕舞って調理器具諸々も片付けて、一先ず終了。
ここまでやってもまだコンソメじゃなくてブイヨンだったりする。やはり明日も続きをやらないと駄目か……泣けてきた。冷ますのは魔法で何とかしよう……
「なんかものすっげーいい匂いするけど、またなんか作ってたのか?」
「ええ、まあ……まだ出来上がってませんけど」
「そうなのか? 何時からやってたんだ?」
「朝、起きて直ぐ位からですね」
「……そんなに時間かかってるのにまだ出来上がらないのか。料理ってヤベーな」
「美味しいものを作るのには手間も時間も掛かるんですよ」
と言いつつ、結局魔法で手抜きすることにした私である。
それはさておき、さっさとリューの剣の微調整でもしましょうか。と言う訳で実際に何度か振らせてみて、柄に巻く革紐だのなんだのを調整。サブウェポンの短身ショートソードも調整。うん、まあ、こんな所?
「なあ、なんで二本?」
「今のうちから身体に合わない剣を使うのもあまり良くないので、身体を壊さないようにサービスです」
「いいのか?」
「厚意は素直に受け取って置いてください。珍しい私の気まぐれですよ?」
「えーっと……ありがとう?」
「どういたしまして」
リューは首をかしげながら『珍しいか?』なんて言ってるけど、聞こえない。長剣の方は背中に背負うようにして、短身剣の方は腰に下げるようにする。
背負ってるほうの鞘は鯉口のあたりを固定してる紐を解くと割れて開くようになっているので、抜剣する時に変な動きをしたりしなくて済むようにしてみた。納刀の時は何とか頑張って頂戴な?
「なんかすげー『剣士』って感じになった気がする……」
「見た目だけなら剣士ですね」
「おう、見た目だけだけどな! あとはオレ次第かー! がんばらねーと!」
おー、頑張れ頑張れ。既にいい時間だったので剣を受け取ったリューは走って帰っていった。
後日聞いた話によると、家に帰ったリューの身に着けた二本の剣を見たケインは凄い泣きそうな顔になっていたそうな。前日帰って来た時に身に着けていた革鎧を見た時も何か言いたげだったらしいけど、結局何も言ってこなかったらしい。
まあ普通にまともな神経してたら何も言えないよね。その程度には分別があったらしい。
リューが帰った後、晩御飯の時に中庭で何を作ってたのか聞かれたので『バカみたいに手間の掛かるスープ』と答えておいた。まだ完成してないとも伝えた所、流石に食べたいとか言い出す人は居なかったので一安心。いや、言い出されても困るんだけど。
食事の後はお風呂に入ってちょっと早めに就寝して、収穫祭四日目は終了。
でもって収穫祭五日目。
今日も出掛ける予定は無し。面倒臭い。武術大会は少し気にならないでもないけど、あんまり興味が湧かない。というか今はコンソメ作りの方が大事。
午前中一杯使ってなんとかコンソメスープが出来上がり、早速味見でもしようかな、と思ってたら何故かトリエラ達が迎えに来た。
一緒に武術大会の本戦を見に行かないか、って事らしい。うーん。
「昨日一昨日って引きこもってたんでしょ? 折角の収穫祭なんだし、最終日も引きこもってるのは勿体無いって!」
「言いたいことはわかりますが……」
「大丈夫大丈夫! ワンちゃんも一緒なんでしょ? それに私達全員居るし、何かあってもちゃんと守るから!」
ワンちゃんって……あ、地味にベルが落ち込んでる。
ちなみに迎えに来たのは女子全員だったりする。結局全員の強い推しに負けて一緒に武術大会観戦に行くことになった。面倒臭いなあ……
大急ぎで会場まで移動し、気合と根性でなんとか最前列に割り込み、席を確保。ちなみに男子メンバーは別行動らしく、別の場所で観戦してるとか。私に気を使ってくれたっぽい? うん、それは有り難いんだけど、それはそうとして私まだお昼ご飯食べてないんだよね。
鞄は持って来たので【ストレージ】から食べ物を取り出すのは問題ない。とは言えここで丼物とか出すのは……んー、取り敢えずおにぎりとか、場所取らないで食べられるものにしよう。
周囲がワーワーと盛り上がりながら試合を観戦してる中、一人黙々とご飯を食べる。醤油焼おにぎり、芋餅、チャーシュー串、半熟煮卵。うまうま。
マグカップにさっき出来上がったばかりのコンソメスープを注いでちびちび飲んでると、周囲が静かになってることに気付いた。なんぞ?
周りを見てみると観客の皆さん、私を注視しておられる。
「レン……さっきから匂いがやばいから」
そんなこと言われても……お腹空いたんだから仕方ないじゃない?
とは言え周囲の視線が余りにも痛いので、已む無く折角のコンソメスープを一気に飲み干して試合観戦に集中することにした。じっくり味わいたかったのに……勿体無い。
「あ、あれって初日の剣術大会でケインに勝った人じゃない?」
口寂しくてプレッツェルをぽりぽり食べてたらトリエラが変なこと言い出したので、顔を上げて競技スペースを見てみると本当にニールが居た。初日も出て今日も出るとか元気有り余ってるね、別にどうでもいいけど。
対戦相手は……あれ? あれってニールの仲間の、えーっと……ベックさんだっけ? 常識人で苦労人の人の。折角の大会で仲間と当たるとか……ついてない人達だねえ?
試合が始まってみると、実に一方的な展開だった。ベックさん強すぎ。なにあれ、ちょっと洒落にならないんだけど。
でもよくよく見てると二人の太刀筋とか立ち回りはかなり似てる気がする。もしかしてニールの剣術の師匠ってベックさんなのかな?
同じパーティーだし、普通に考えると農民上がりのニールが正当な剣術を習うコネとか持ってるはずも無い。もしかすると同門で同じ師匠に習った可能性も無くも無いけど、ベックさんの完成度と言うか実力はニールとは隔絶してる様にも見える。
んー……ケインとニールは意気投合してたっぽいし、その縁でケインだけじゃなくてリューとかも一緒に教えてもらったりとかは……ちょっと難しいかな。
「勝者、ベクター!」
なんて色々考えてたら決着がついたみたい? やっぱり実力差がありすぎじゃないですかね……って言うかベクター? ベックじゃないの? どう言う事?
ちょっと気になったので【鑑定】でこっそりステータスを覗いてみる……うん、ベックになってる。でも、あー……なんだか違和感あるなあ? 何でだろう? んー、【鑑定】じゃなくて【解析】使ってみる? えいやー!
お、本当にベクターってなってる、って…………は? あ、え? いや、これって……嘘……え、マジ? うわ、やばい!? これ厄ネタだ!?
何でこんな所にこんな人が……と言うか、そもそもなんで冒険者なんてやってるの!? ってそうじゃない! 私は何も見なかった! 私は何も気付いてないし知らない! うん、知らない知らない! 私は何も見なかった、イイネ?
その後、ガクブルしながら試合観戦を続けたんだけど、優勝はベック……いや、ベクター氏でした。うん、決勝戦すら一方的でした。余りにも強すぎて意味分からん。
武術大会が終わった後は特に目立ったイベントもないので早々に工房に帰って休むことにした。あんなこと知っちゃったら落ち着いて食い歩きも出来ないってーの!
そんな感じで私の収穫祭は混乱の内に終了した。
いや、王族って……






































