103 収穫祭 二日目
さって、収穫祭二日目ですよ?
今日も昨日と同じ感じの時間で待ち合わせして合流。そのまま大通りに繰り出して、と言う流れなんだけど二日連続はあんまり芸がないよなあと思わなくも無いかなあ。
ちなみに今日は音楽コンテストとかもあるので色々と見て回る予定。でも美人コンテストなんかはフラグの匂いがぷんぷんするので絶対回避せねばなるまい。
二日目の催し物は色々あるので、当然会場もあっちこっちにあったりする。そして、会場の周辺は大道芸とかの出し物なんかも多い。会場の中に入れない人も多いから、そう言う人達狙いだろうな、と推測してみたりする。
で、さらにそれらを見物しながら食べられるような食べ物の出店も多くて、お陰で道路が狭くて混沌としてるわけで……
はい、ぶつかって食べ物の汁で服が汚れました。
ああいや、私じゃなくてトリエラなんだけどね。
このままにしておくのも可哀想なので、会場の一角にあるお手洗いスペースに移動して着替えさせようとしたんだけど……うん、なんか凄い混みよう。
ここのお手洗いの洗面スペースには鏡があるんだけど、中に居る人達は挙ってそれを利用して化粧してたり個室スペース使って着替えてたり……どうやら美人コンテストの出場者達らしい。
施設内の準備室が使えるようになるのは本戦かららしく、予選の段階では使わせてもらえないとか何とか?
と言うか、私達は隣の芸人コンテストの会場の方に行こうとしてた筈なんだけど? どうやら人混みに流されてこっちの方に来ちゃった模様。最悪だわ。
「レン、もういいよ。こんなに混んでると私達邪魔になっちゃうし」
「駄目です、女の子はちゃんと綺麗にしておかないと」
「そうだよトリエラー」
流石に上着の前面べったりに肉汁が掛かってる状態で歩き回らせるのは私が許せない。とは言えこうも混んでると着替えるにも空きスペースがないし……私の【洗浄】で綺麗にする事も考えて提案してみたんだけど、目立つから駄目と二人に却下された。
「……どうやら、私達も出場者と思われて邪魔されてるみたいですね」
「え? なんでそうなるの?」
周りに居る女性達が私達を見る視線がめちゃくちゃキツイから、どうやらそう言う事なのではないかなー、と予想してみたんだけど……多分当たり。
いや、別に私一人の所為じゃないんだよ、多分トリエラ達も原因なんだと思う。
ほら、トリエラ達の家の改修したじゃない? その時お風呂つけたでしょ? 更に身奇麗にする為に糠の利用法も教えたし? そのお陰で二人とも髪と肌の色艶とか、凄いんだよね。
そもそも、平民でもお風呂に毎日入れるなんてのは富裕層が殆どで、平均的な平民ならお湯を沸かして盥に張って身体を拭う程度。冒険者ともなればそれなりに稼ぎがないと難しかったりする訳で。
そんな訳なので、周囲の女性陣とトリエラ達の髪とか肌とかを見比べると、やっぱり周りの人達はくすんでると言うかなんと言うか……
そりゃこの状況で私達は参加者じゃないですとか言っても説得力ないよね。ははは……はぁ。
仕方がないので私とリコで腕を組んで無理矢理スペースを作って、何とかトリエラを着替えさせる事には成功。次はそこから無事に外に脱出するのに四苦八苦と言う……いや、ライバルを減らそうって事なんだろうけど、正直怖いです。
結局コンテストの運営委員っぽい人が乱入してきてその状況からは解放されたんだけど、そこでまた次のトラブルが。
私達に目を付けた運営の人がしつこく出場を勧めて来ると言うね……特に私に。いやいや、出ないって!
そして意外な伏兵の登場。はい、リコです。
「もったいないよー、折角なんだし、レンちゃん出ようよー」
「こらリコ! レンも嫌がってるんだから無理言わない!」
「でもレンちゃんなら優勝間違いなしだよ! トリエラもそう思うでしょ!?」
私の性格を理解してるトリエラが諌めようとしてるんだけど、あまり効果が無いと言うか……更にはそんなリコの言葉を聞いた運営の人も一緒になって出場を勧めて来るし、ちょっとイライラして来た。
うーん……いくらリコのお願いでも流石にこれは聞けないんだよね。私は目立ちたくないし、面倒臭いし。それに忘れがちになるけど、カエル顔の商人の件とかあるし。
それに今回のリコのこれは完全に唯の我侭。珍しい事だから聞いてあげたい気持ちは無くもない。でも幾ら可愛がってる妹分とは言え、これは流石にね……
諦めて叱るために口を開こうとしたら、
「あれ? お前等そこでなにやってんだ?」
「え、リュー? アンタこそこんなところで何してんのよ?」
「オレはボーマン達と美人コンテストでも見ようかって来て、はぐれた。んで、お前等は何してんだ? なんか揉めてたみたいだけど……」
なんでかタイミング良くリューが通りかかって、話に交じってきた。なんと言うか、こう言う時って知り合いの遭遇率が妙に高い時あるけど、もしかして今日はそのパターンだったりする?
私はタイミングがずれて何か言う空気じゃなくなってしまったので仕方なく黙ってたんだけど、その間も話は進んでいった。
リューもトリエラから話を聞いたんだけど……事情を知ったリューがなんとリコに説教を始めると言う事態に。いやいや、この状況どうなってるの?
「おい、チビ! お前、幾らなんでも我侭言いすぎだろうが! レンの迷惑考えろ!」
「なんでリューにそんなこと言われなきゃいけないのよ! リューには関係ないでしょ!」
「お前なあ……いくら可愛がられてるからって我侭言い過ぎるのは駄目だろ? レンが色々してくれてるからって、ソレは違うだろ?」
「むうー! 色々してもらってるのは私だけじゃないし! トリエラだって色々してもらってるのに、何で私だけ言われないといけないの!?」
「トリエラは毎回遠慮してるし、お前と違って我侭は言ってないってマリクルに聞いたぞ? レンに可愛がられてるからって調子にのんな。レンが嫌がってるんだから我侭はやめろ」
「うるさい! 大体リューだってレンちゃんに迷惑かけてたじゃない!」
「おー、そうだよ! それであんなことになったからな! 反省はしてるし、もう二度とあんなことするつもりはねーよ! それでお前はなんだよ? 我侭言って嫌われて、オレ達みたいになりてーのか? それなら止めねーぞ?」
「それは……」
「お前、オレと違って今までちゃんとしてきたじゃねーか。ちょっと頭冷やせ、レンが面倒見がいいからって勘違いしない様にしろよ? 怒らせるとこえーぞ?」
「……………………ごめん」
「言う相手が違うだろ」
「レンちゃん、ごめん」
……え、リューが凄い成長しててびっくりなんだけど。これ、本当にリュー? マジで?
あ、取り敢えずリコに返事しないと……あー、でもちょっとは痛い目見せないと駄目かな。流石に甘やかしすぎた実感はある。そういう意味では私自身のミスでもあるんだけど……取り敢えずリコへは言葉はかけないで頭を撫でるだけにして、リューにはお礼言っておこうかな。
「リュー、ありがとうございます。代わりに叱ってくれて助かりました。怒るのってあまり好きではないので……」
怒るのって疲れるからね……
まあ、リコも孤児院にいた時と違って今は自分が一番年下だからね……孤児院に居た頃はずっと我慢してきたし、今は私があれこれやらかしちゃってるからちょっとタガが外れちゃったんだろうと思う。
「気にしないでいーよ、別に。パーティーの問題でもあるだろ、こういうのって」
うーん、本当にリューの成長が著しい。頑張ってるなー
取り敢えずは一件落着? とは言え私が出るつもりはまったく無いけど、折角だしトリエラ達が出てると言うのはどうだろう?
「そんなわけだから、コイツが出るのは無しって事で!」
「残念ですね……」
リューが運営の人に色々言ってるけど、んー……
「私は出ませんけど、トリエラ達は出てみればどうですか? 何事も経験と言うことで」
「え、私達? 無理無理!」
「……私は止めとく。トリエラは出てみたら?」
「無理! 一人でとか、無理!」
「……なら、リューがトリエラと一緒に出てみません?」
「はぁ!? オレ、男だぞ!?」
「大丈夫、私が何とかしますよ」
うん、リューって実は結構顔立ち整ってるんだよね……うん、化粧とかすればいけるいける!
「いや、流石に無理だろー……」
「じゃあ、さっき代わりに叱ってくれた事のお礼も兼ねて、出場してくれたら片手剣を進呈しましょう、どうです?」
「う……片手剣って……」
「ちゃんと実戦向けのやつです」
「……トリエラの奴よりも刀身長い?」
「リューの体格を考えると、あれ位のほうがいいとは思いますけど……希望通りの仕様で打ちますよ?」
「う~…………あー、もう! わーったよ、出るよ!」
計画通り!
話を聞いていた運営の人も何故か乗り気で、特別に更衣室を使っていいとか言い出す始末。
多分この人、面白ければ何でも良い人だ。私を出場させようとしてたのもコンテストの場を荒らしたかっただけっぽいな……いやあ、でもこれで面白くなるね?
「オレもう外歩けない……」
「リュー、元気だしなよ。これで剣も手に入るんだしさ?」
数時間後、途轍もなく落ち込んだリューがトリエラに慰められてたりする。
いやあ、予想以上の結果に驚きだね!
うん、結果だけ言おうか。リューはなんと10歳以下の部で優勝しました。ぶっちぎりの得票数で私ちょっと引いちゃったよ。
私がリューの女装をプロデュースしたんだけど、流石に化粧の経験とかは余りね……だから【偽装】と【隠蔽】を使いつつ、【マルチタスク】で全ての角度からそれらしく見える様に計算して化粧を施してみたんだよ。その結果、とんでもない美少女が誕生したわけですよ。
元々肌はトリエラ達と同じ糠石鹸使ってるからツヤテカだし、カツラを被せたらもう別人。骨格もまだ出来上がってないし、これが女装と見破れる人はそうそう居ないんじゃないかな?
そしていざコンテストが始まってみれば、凄い注目の視線! ちなみにトリエラはリューの付き添いと言うことにして出場は控えた。
まだ声変わりはしてないとは言え流石に声を出したらばれるかもしれないと思ったリューは声を上げず小さく縮こまってもじもじしてやり過ごそうとしてたんだけど、それが内気で人見知りする深窓の美少女にでも見えたのか、絶賛の嵐。
そしてあれよあれよと言う間にリューは優勝してしまったのだ。いやあ、本当に面白い結果になったね。
そんな感じで予想以上の結果に一人ニヤニヤしてたら、向こうの方から凄い勢いでボーマンが走ってきた。省エネ人間が走るとか、珍しい。一体何事?
「トリエラ、さっきの子、誰だ!? 何処行った!?」
「え、ちょっと何? どうしたの?」
「教えてくれ、あの子はどこの子だ! どこに行けば会える!?」
あっれー? もしかしてこれ、面倒なことになった?
……話を聞いてみると案の定面倒な事になってた。どうやらボーマン、女装したリューに一目惚れしたらしい。
客席からコンテストを見てたらしいんだけど、その可憐さにどうのこうのと……ごめん、ちょっと気持ち悪い。日頃とのギャップで凄い不気味。
そんなボーマンが謎の美少女を讃える言葉を聴いて顔を青くしてるリュー。真っ青で今にも倒れそう……大丈夫、ばれやしないよ。……多分。
結局トリエラは偶々知り合っただけで、名前は知らない。人見知りを直したいと言っていたので少し協力しただけ、と言う苦しい言い訳で誤魔化した。それを聞いたボーマンは謎の美少女を探しに走り去っていった。
「……オレ、同じ部屋で寝るんだけど、大丈夫か……? 身の危険を感じるんだけど……」
「大丈夫、分かりませんよ。それでも気になるなら衝立でも用意して部屋の中を間仕切りするとかはどうです?」
「そうする……」
「なにか起きた時は剣で刺しちゃえばいいですよ」
「あ、剣……」
「んー……今、用聞きするよりは収穫祭が終わってからの方がいいですか?」
「うん、落ち着いてからで頼むよ。ありがとな、レン」
「いえいえ、なんだかリューを大変な状況にしてしまったようですし、その分約束はちゃんと守ります」
「悪い、その話はもう言わないでくれ……」
「あ、はい」
うーん、ちょっと悪い事をしてしまったかもしれない……青い顔をしながらリューはふらふらと家に帰って行った。なんかごめん……
その後は気を取り直してトリエラ達と食い歩きツアーをしたり音楽コンテストに行ってみたりして過ごした。
音楽コンテスト、なんというか普通と言えば普通……?
前世の楽曲とか披露したら色々面白いことになりそうかなーとか思わなくは無かったけど、流石にそんな悪目立ちするようなことはするつもりは毛頭無い。
とまあそんな感じにトラブルの様なこともあったけど、二日目はまずまずの一日だった。