102 収穫祭 一日目
はいはい、おはようございまーす。と言う訳で収穫祭当日です。待望のトリエラ達とおデートでございます。
もう暫くしたら工房の裏通りで待ち合わせ。
最初は私が迎えに行くつもりだったんだけど、人が多すぎるからってことで止められました。ノルン達も居るから平気だって言ったんだけど、居るからこそ逆にトラブルの元にも成りかねないとか言われましてね……お陰でノルンはお留守番と言うことになりまして? 凄いいじけてるんだよ……すまぬ……すまぬ……
その代わりにベルがついて来る事になってるんだけど、ノルンが厳しく修行したお陰で一昨日までぐったりしてたり。すまぬ……
収穫祭期間中は工房も休みで職人さん達もお出かけらしい。というかもうみんな出かけてて、残ってるのは親方とおかみさんと私だけ。私はお迎えが来たら出かけるので、残るの二人だけ。たまには夫婦水入らずで、とかそういう感じらしい……なるほどなー
とかやってるうちにお迎えが来たので出ることにする。おはざーっす!
「お二人ともおはようございます」
「おはよ、レン」
「レンちゃん、おはよー!」
うむう、二人とも先日譲った服を着ておめかししておる。可愛いではないか。
「二人とも可愛いですよ」
「ありがとー! って言うか、レンちゃん今日もその格好なの? おめかししたんじゃないの?」
しては居るんだけどね……トラブルとか面倒臭いからね? と説明したものの、リコはどうしても納得がいかないご様子。仕方ないなあ……と言う訳で、マントは外して代わりにマフラーをぐるぐる巻いて口元を隠すことにした。
とは言え何かを食べる時は露出するわけですが! うーん、【隠蔽】と【偽装】を全開で使っておくしかないか……ついでにマフラーにも付与しとこう。
さて、準備も終わったので早速大通りに繰り出すことにする。
当然お手てつないで! 私が真ん中で二人に挟まれるわけだけど……トリエラ、どうして照れるの!? こっちまで恥ずかしくなるでしょ! それとも恋人つなぎにしてやろうか!
……さて、今日から収穫祭と言うことで大通りは屋台がいくつも立ち並んでるので、まずは食い歩きツアー。
とは言っても店の食べ物は基本的に歩き食いができるような串肉とかが多い。適当に買って二人にも分けつつ、当然ベルにもあげる。みんな沢山お食べ?
んー、揚げ物は見当たらないなあ。コロッケとか売れると思うけど、レシピがないのかしらん? あ、フライドポテト発見。でも毎度の事ながら油の色が凄いので私はスルー。でも二人は食べてた。
「……大丈夫ですか?」
「え? 別に普通だけど……少し食べてみる?」
「いえ、やめておきます」
以前、ハルーラに居た時に揚げ物でお腹壊したことがあるからね……収穫祭もまだ始まったばかりだし、危なそうな食べ物は回避しておく。
芋関係はフライドポテトか、炒め物を皿貸し出しで売ってるのが幾つか? 汁物とかは器が使い捨てで使える現代と違って、出しにくいよなあ……揚げ芋にしても、ハッシュドポテトにするとかマッシュドポテトを丸めて揚げるとか、色々やれそうなものだけど……まあ私には関係ないか。
ちなみに王都の収穫祭の日程は五日間。
初日の今日は剣術大会が開催される。参加者は平民のみ。とは言え実質冒険者が大半を占める。武器は剣のみで、武器は刃の潰された剣が貸し出される。
二日目は美人コンテストとか、芸事関連の催し物が行われる。
三日目は中休み。大きなイベントは無いものの、王族が神事だの祭事だので北の湖のほとりにある、風の神の神殿に出向いて色々やるらしい。その為、平民にとっては残り二日に備えてのエネルギー充填期間になる。
四日目は貴族向けのイベント。貴族階級による武芸系の大会が行われる。剣術、馬術、馬上槍、弓術、更には流鏑馬もあったりする。
五日目、最終日は何でもありの武術大会。武器は持ち込み、貴族も騎士も平民も冒険者も誰でも参加できる混沌としたお祭り騒ぎ。でも当然、この大会が一番盛り上がる。優勝者は騎士爵が授爵されるので、出世狙いの冒険者は気合が入ってたりする。私は爵位についての詳細はよくわからないけど、騎士爵ってそんなにいいもの? そうでもないんじゃないかと思うけどね……?
さて、そうなると今日は剣術大会だっけ? そろそろ試合始まってる頃かな?
「お腹も割と膨れてきたし、そろそろ剣術大会見に行ってみる?」
「それは構いませんけど、見て楽しいものですか?」
「んー、正直言うと私も微妙ではあるけど、実はケインとマリクルが出場するんだよね」
え、マジで?
「ほら、初日の剣術大会って武器は貸し出しでしょ?」
「ああ、なるほど……」
トリエラのパーティーは武器らしい武器は無いから、貸し出される初日の大会はありがたいわけだ。でもなあ……
「マリクルはともかく、ケインは正直どうでもいいんですが……」
「だよねー」
「でもまあ、マリクルのついでに見に行きましょうか。暇ですし」
「そうだね、暇だしね」
散々な言われようである。でも日頃の行いがアレなので当然の結果だ。
そんな感じでケインの悪口を言いながら会場に到着。全ての武術大会は第二区画にある闘技場で行われる。会場入り口付近のトーナメント表で二人の成績を確認……あ、二人とも初戦は勝ち上がってる? 中々やるではないか! でもまだまだ子供だし、流石に次で負けるんじゃないかなあ? でもまあ、応援はしてやるかね?
と言う訳で人ごみを掻き分けて何とか観客席までたどり着く。うん……全然前が見えねーや。私の足元に居るベルも非常に困ってる。
気合と根性でなんとか最前列まで辿り着くと、丁度目の前で試合が終わったところだった。
よくよく見てみればマリクル。しかも勝ったっぽい? でも肩で息をしてて流石に次は無理そうかなあ?
周囲の話を盗み聞いてみると、マリクルは剣だけではなく盾も借りて使っていて、歳の割にはしっかりと盾を使いこなして戦っていた模様。日々の兎狩りの成果がちゃんと出てるとか、普通に凄い。ご褒美に後で豚丼を食べさせてあげよう。
そんなことを考えてると次の試合が始まった。タイムリーなことにケインの試合だ。でも、なんか対戦相手が妙に見覚えがあるような……え? ニール? なんでニール!?
ストーカー!? いやいや、流石に私を追いかけて来たと言うわけではないはず……? そう思いたい。
そんな私の混乱を他所に試合は進んでいく。素人目に見てもニールは普通に強かった。そしてケインは素人丸出しの動きだった。でもところどころでハッとする様な反応を見せ、ニールに対抗してはいたんだけど、順当に敗北。
それなりに善戦したケインに対してトリエラ達は悔しがっていたんだけど、私は想像以上にニールが強かったことに驚いてた。今までのニールを見てた感じだと、もっと、こう……へっぽこい奴だと思ってたんだけどねえ?
農民上がりのはずなんだけど、ちゃんと剣術してたというか、体系立てた正統の剣術を使ってるように見えた。どこで習ったんだろう? ふむー?
とは言え、相手をするのが面倒な相手なので関わり合いにならないように気をつけておこう。うん。
……って、なんでケインとニールはお互いを称え合ってるんでしょうか? 意気投合してるようにも見えるんですが? おいおい、私の苦手な相手二人が仲良くつるむとか止めてくれませんかね? トリエラの家に遊びに行ったらばったり遭遇とか、マジ勘弁してよ!?
その後、次の試合でマリクルが敗北するのを見届けた後、会場を後にした。
微妙な顔をしてる私に気付いたトリエラとリコに、ニールの事を説明する羽目になったんだけど、勝手に家に人を招かないようにケインにきつく言っておく、と約束してくれたので、なんとかなるといいな……いや、遊びに行くときは事前に色々打ち合わせをする様にしよう、そうしよう。
剣術大会を冷やかした後はまた食い倒れツアー再開。でも途中で胃もたれで三人ともダウン。流石に肉が続くとつらい。
お腹が落ち着くまで広場にあるベンチに座って休憩。でも口寂しいので以前作ったプレッツェルとジュースを鞄から出す振りをして取り出して、ポリポリ。二人も欲しがったので二人にも食べさせた。
周囲の視線が集まって『あれは何処に売ってるんだ?』とか『声を掛けるついでに聞きに行く』とか聞こえて来た気がしたけどきっと気のせいですね。
ベルが威嚇してたので声を掛けてくるような人は居なかったけど、居心地が悪くなったのでちょっと早いけど予定変更して、今日は解散することに。
とは言っても私は二人に工房まで送ってもらったんだけどね。心配しすぎじゃない?
収穫祭もまだ初日だし、取り敢えず今日はこんなところかな? さあさあ、次は二日目だー!