砂糖みたいな愛を頂戴
口いっぱいにケーキを頬張って、甘ったるそうな生クリームを口端に付けている彼女は可愛い。
可愛いけれど見ているだけでお腹いっぱい。
胸焼けまでしてくる。
「美味い?」
「ん……」
ほぼ無意識に返事をしているのは分かるので、そりゃあ良かった、と独り言のように呟く。
買ってきたケーキの種類は忘れてしまったが、もう既に半分以上が彼女の胃の中に収まっている。
普通に手掴みで食べる彼女に対し、行儀が悪いなんて注意する気にもなれないくらい、幸せそうに頬張っていた。
そんなに甘いもの、好きだったっけ。
生クリームだらけの手を舐める彼女は、俺を見て不思議そうに瞬きの回数を増やす。
ぱちぱち、ぱちぱち、睫毛が影を落としたり引っ込めたり。
「なぁ、美味い?」
「美味い」
「そんなに甘いもの好きだっけ?」
「むしろ苦手だった」
ぺろぺろ、赤い舌で自分の手を舐める彼女に質問をすれば、今度は上の空な返事じゃなく、まともな返事が返ってくる。
予想していなかった答えに俺は目を剥いて、彼女は新しいケーキに手を伸ばす。
今度はやけに飾りの多いチョコレートケーキ。
女の子らしからぬ大口を開けてがぶり。
それすらも可愛いと思うのは、彼氏の欲目か。
リスみたいに頬を膨らませながら、咀嚼する彼女は飲み込んでから言葉を発する。
食べ方の割には変にちゃんとしているところがある。
「何かねぇ、最近凄い甘いの食べたくなるの」
ニコニコと年齢の割には幼い笑顔を浮かべる彼女は、もう一口、とケーキを齧り付く。
幸せそうに食べているのはいいことだが、食べたくなるってことは既に食べていることだと思う。
糖尿病にでもなるんじゃないか。
ケーキの箱を覗けば残り三つくらいになっていた。
もうそろそろ止めておけば?なんて声を掛けることもせずに、眺め続ける俺も俺だろうな。
晩御飯食べれんのかな、くらいは考えてる。
口元にチョコレートをべったり付けた彼女を見ながら、テーブルの上に置いてあった箱ティッシュに手を伸ばす。
数枚抜き取って、もぐもぐし続ける彼女の口元をそれで拭ってやる。
むー、なんて唸り声が聞こえるが、そんな子供みたいに口を汚されれば流石に気になる。
生クリームなら指で取ってやれるが、チョコレートは別だろう。
「ありがとう」
へらりと言うかへにゃりと言うか、とにかく表情筋が切れたような締りのない笑顔を向けられる。
本当に可愛い、そう思うと同時に、数日前に点けっ放しにしていたテレビから聞こえた、ノイズ混じりの声を思い出す。
何かの豆知識とかそういう番組だった。
愛情が足りないとか、そういうのを補うために甘いものを摂取しようとする。
甘いものが好きだから愛情が足りないんじゃなくて、愛情が足りないから甘いものを好む。
そんな話をしていた。
つまるところ、甘いものは心を落ち着けてくれる愛情の代償というわけだ。
口元が綺麗になった彼女は、俺が何を考えているのかなんて知らずに、むしろ俺のことはそっちのけでケーキを掴んでいる。
それ全部食べるんだな、やっぱり。
嬉しそうに目尻を下げてケーキを頬張る彼女を、本当に心の底から愛しいと思う。
彼氏だし。
そもそも、それくらい好きじゃなきゃ付き合わないし。
馬鹿みたいな量のケーキを、男一人でファンシーなケーキ屋にまで行って買わないし。
「……愛してるよ」
色とりどりの果物が乗ったフルーツタルトを咀嚼する彼女は、大きな目を見開いてこちらを振り向く。
薄い柔らかそうな唇に触れたいけれど、つい、とこちらにそれを向けてくれたが、ケーキよりも甘くて砂糖でも吐くんじゃねぇかな、俺。