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イカシコロス  作者: 小雨
第一章 逸脱した彼の話
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月明かりの部屋で

登場人物紹介

平次…主人公。高校生。あんまりトークは得意ではない。

女の子…黒に「つっきー」と呼ばれていた女の子。

「あの黒って人、もう帰っちゃったぞ」

沈黙。

「君は帰らないの?」

沈黙。

「ええと…」

沈黙。

「…」

どうしよう。何も喋ってくれない。会話のキャッチボールどころか、僕の投げた言葉を少しも拾ってくれる様子がない。ただでさえ対人関係においてさほど引き出しの多くない僕は、初対面の異性にどう接したらいいのか早くもわからなくなってしまった。

月明かりが部屋の中を照らしている。僕は改めて女の子を見た。

身長は、僕より頭一つ分くらい小さいだろうか。肩ぐらいまで伸びた黒い髪。首に巻いた、やや季節外れとも思えるマフラー。そして、神秘的とも思える程に綺麗な顔をしていた。


なんだか無性に喉が乾き、僕は水道へと向かった。蛇口をひねる音と共に、勢いよく水が流れてくる。僕はコップに水を注ぐと、喉を鳴らして一気に飲み干した。

渇きが収まると、ようやく多少の余裕が出てきた。よし、一つ一つ解決していこう。

考えなければならない事は山ほどあるけど、差し当たって解決しなければならないのはあの女の子だろう。

なんでかわからないけど、まったく会話が成立していない。

それに、なんで帰らないんだろう。あの様子では、ここに留まっている意味なんてなさそうなものであるが…。

僕はふと、時計を見た。時計の針は、深夜三時を指している。

うわ…こんな時間か。僕はげんなりした。同時に、ひとつの考えに行き当たる。

もしかして、交通手段がないのか?そうか、きっとそうだ。電車やバスなどはとっくに動いていないだろう。つまり彼女は、「帰らない」のではなく、「帰れない」のだ。

これだ。やんわりと確認して、始発が動くくらいまではそっとしておいてあげよう。

「あのさ」

僕が振り向くと、女の子はすぐ後ろに立っていた。

僕の心拍数はちょっとだけ跳ね上がった。いちいち心臓に悪い子だ。

女の子は相変わらず無言で僕が飲んでいたコップを手に取ると、水を飲み始めた。

「あ、何も出さなくて悪い。ちょっと待って、今何か淹れるから…何がいい?」

コーヒーは切らしていたっけなぁ…なんて思いながら動き出そうとした僕の手を、女の子が握った。突然の事に、またも僕の心拍数は跳ね上がる。

女の子の手から、微かな温もりが伝わってくる。突然のことに、僕は一瞬固まってしまった。

"飲み物はいらない"

頭の中に直接声が聞こえた。

「なっ…」

"私は奈月。よろしく"

「」

"驚いているようだな平ちゃん。君と私は契約を結んだからな。このくらいの事は簡単だ"

「」

今度は僕がキャッチボールを止めてしまっていた。それにさりげなく平ちゃんとか呼んでるし。

「えぇと…、奈月さん。…よろしく」

僕は精一杯冷静になるように努めた。

"奈月さんなどと堅苦しい。私のことは月と呼んでくれ"

正直初対面の相手を呼び捨て且つあだ名で呼ぶことにはかなり抵抗がある。あるがしかし、本人に言われてしまっては無碍にするのも失礼な気がした。

"いきなり呼び捨てはやりづらいか?じゃあ月ちゃんでもつっきーでもなっちゃんでも、好きなように呼んでくれて構わないぞ"

「月、色々と聞きたい事はあるんだけど…あの黒って人また来るみたいだし、詳しい話はその時に聞くとするよ。月は終電逃しちゃった感じ?あと二時間ぐらいすれば始発も動き出すだろうから、それまで自由にしてくれていいよ。お腹空いてたら何かつくるし、気にならなかったらベッドで仮眠とってくれてもいいし」

月はキョトンとした顔で僕の顔を見ていた。あれ、間違えたか?

"黒は言わなかったのか?"

何をだ。僕はなんとなく嫌な予感がした。

"今日からここに同居させてもらう事になった。不束者だが、よろしく頼む"

何かが切れるような音が頭の中で聞こえた。どうやら処理できる量の限界値を超えてしまったらしい。さっきまで気絶していたくせに、猛烈な疲労感を感じていた。

「ごめん、一旦寝る」

僕は月の手を振りほどくと、布団に潜り込んで眠りの世界へ逃げ込んでいった。

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