イカスモノとコロスモノ
登場人物紹介
・平次…主人公。高校生。
・黒…服は黒いが肌は白い。
「逸脱したものっていう意味では、君の言ったことはまぁ当たっているといえなくもないね。ところでへーじ君、突然だけど一つ質問。人を殺せる人間って、どう思う?」
どう思うかと言われても。僕は心の温度が急激に下がっていくのを感じた。
日々、命は失われる。或いは病気で。或いは事故で。或いは天寿を全うして。
ある日を堺に、その存在が消えてしまう。
「どう思うか、ですか。残虐非道で冷酷無比。同族殺しなど、鬼畜の所業ですよ。人を殺した人間は、例え何をされたって文句は言えないでしょう」
「…ごめんね。君にこの質問をするのは、少し無神経だったかな。しかしあえて続けさせてもらうよ?君の今後にとって、とても大切なところだからね」
僕は血の気が引いていくのを感じた。
この男は僕のことを知っているのか。僕の身に、かつて降りかかったことを。
「さて、君は残虐非道で冷酷無比と言ったが、果たして本当にそうだろうか?究極的には、人は人を殺すんだよ。例えば戦争だ。我々人類の歴史は、そのまま争いの歴史と言ってもいいんじゃないかな?一度勃発すれば、多くの命が損なわれる。有史以来、この星で戦争が行われていなかった時代が果たしてあるのだろうか?」
黒は天井を仰ぎ見て続ける。その声は、僕の耳に無理やり言葉をねじ込んでくる。薄暗い部屋の中、方向感覚がぐにゃぐにゃになるような錯覚を覚えた。
「普通の人だって、戦場では殺してきた。仕方ないさ、それが普通だった。つまり人間は、慣れる生き物なんだよ。どんなに辛い状況でも、吐き気を催す行為でも、人は慣れてしまうんだ。はは、すごいね」
流れるように語る黒に、僕は段々と苛立った。
「それは詭弁ですよ。今この国では、少なくとも表向きは戦争なんか起こっちゃいない。戦場で人を殺すのとはわけが違う」
そんなことで命を奪う行為を正当化されてはたまらない。
「そうだね、それについては全面的に同意するよ。では、話を本筋に戻そうか。君はさっき、理不尽にも殺されかけた。君の命を奪おうとしたあれ、なんだかわかる?」
やはり。夢ではなかった。肉が割かれる感覚。圧倒的絶望感。迫り来る死の影を、僕は確かに感じていた。
「単刀直入に言ってもわからないと思うけど、単刀直入に言う。あれは、コロスモノだ」
ちなみに片仮名表記だよ、と黒は注釈を入れた。注釈を入れられたところで、黒の言わんとしてる事を理解することはできなかった。
「えと…ようするに、人殺しってことです?」
「ううん、『コロスモノ』。まぁ人殺しっちゃ人殺しだけど、ちょっとレイヤが違うね。君にはあれと戦って欲しいんだ。きみ、つっきーと契約したでしょ?あれで君は変わっちゃったんだよ。君はあの瞬間から、『イカスモノ』サイドの人間になったんだ」
ちなみに片仮名表記だよ、と黒は注釈を入れた。注釈を入れられたところで、黒の言わんとしてる事を理解することはできなかった。
頭いてぇ。
なんだってんだよ。