世の中にはn種類の人間がいる
登場人物紹介
・平次…主人公。高校生。寝るときは部屋を真っ暗にするタイプ。
「気がついたかい、へーじ君」
ゆるーい感じの声で、僕の意識は覚醒へと誘われた。
「あ、…えーと…あれ?」
ゆっくりと目を開く。ぼんやりとした視界に、見慣れた天井が映し出された。
血まみれの女の人、大きなナイフを振りかざす赤い目をした男、そのナイフが幾度となく肉に差し込まれる感覚…
んぁ、夢…?
ズタズタにされたはずの制服は、はじめから何もなかったかのように復元されている。服からはなんだかいい匂いがした。
いやに現実感のある夢だったなぁと思ったが、まぁ、妥当なところだろう。
思えば学校を出たあたりから少しおかしかった。僕に話しかけてくるクラスメイトなんているわけないし、殺人事件なんてものにそうそう何度も巻き込まれていてはたまったものではない。
部屋の中は薄暗かった。今何時だろう?朝?夜?二度寝できる時間?
とりあえず起き上がって時計を見ようと体を起こそうと試みた。
ギシッ
…気がつかないフリをしていたけど、どうやらダメみたいだ。
縛られてる。僕の下半身はベッドに縛り付けられていて、上半身を起こすのが精一杯だった。
正面の椅子には、真っ黒な細長い男が椅子を逆向きにして背もたれを抱きかかえるようにして座り、こちらを見ていた。
真っ黒と言っても、肌が黒いわけではない。肌はむしろ、白いと言ったほうがいいくらいだった。男は全身黒い服に身を包んでいたのだ。肌の白さとのコントラストが、まるで男を現実から浮き上がらせているような印象を与えていた。
「まずはお疲れ様といったところかね。つっきー、へーじ君起きたよー」
ガチャリとドアが開き、女の子が入ってきた。
あぁ、もうなんだかよくわからない。このままもう一度寝てしまいたい。
「初めましてだね、へーじ君。私は黒。白って呼んでもいいよ、通じるから。こっちはね、つっきー」
つっきーと紹介された女の子は、特に何の反応も示さずに僕を見ていた。見た感じ、年は僕とおなじくらいだろうか。
「ちゃちゃーん、突然だけどへーじ君。【世の中には二種類の人間がいる】みたいな定義付けあるじゃない。ちょっとあれやってみてくれないかな?」
「はぁ。…え、僕がやるんです?」
「うんそう」
この手の問答は小説や漫画なんかで何度か見たことがあるけれど、大抵話を振ったほうが勝手に分類してた気がする。
二種類…僕は今までに聞いたことがある分類を思い出してみた。
こういうのって普通、相手が勝手に決め付けてくるものだと思ってたけど。
僕は少し考えた。考えてみたが、そうそう気の利いた答えが浮かんでくるわけでもなく、ましてやこの状況。そんな事考えるより他に、するべきことがあるはずだと思うんだが…
思考がうまくまとまらず、普段から願っている事が口をついて出てきた。
「…逸脱しているものとそうでないもの、でしょうか」
黒は僕の答えを噛み締めるようにして聞いていた。或いは聞いている振りかもしれないけど。
「ほう。ほうほう、ほう、ほう。少し漠然としている感はあるけれど、なかなかいいねぇ。でも申し訳ない、薄々察しているかもしれないけど、この手の問いには、大抵あらかじめ答えが用意されているんだ。では、答えを発表するよ。『この世界には二種類の人間がいる。それは…』」
イカスモノとコロスモノだよ
黒の声は、部屋の静寂に吸い込まれていった。