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イカシコロス  作者: 小雨
第一章 逸脱した彼の話
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路地裏の狂気

問.目の前に血を流して倒れている人がいたらどうするか。


助ける or 助けない


実際にその場に居合わせた時にどのような行動を取るかは別として、示された状況以外の事を考慮しないのであれば、この二択で助けないを選択する人はそれほどいないだろう。

もちろん僕も、一般的とも思える前者を選択するわけで。


葉と別れてから程なく、血痕を見つけた。小さなものだったが、見間違えようがない。

生々しい赤い染みは、点々と路地裏へ続いていた。

もしかしたら…発生中の事件の事が頭をよぎる。僕はゴクリと唾を飲み込むと、注意深く血の跡を追った。路地裏は特有のごちゃごちゃとした雰囲気を放っていて、非常に狭い。その上換気扇などが道を塞いでいる事もあり、乗り越えたりくぐったりせねばならなかった。


「…!大丈夫ですか!」

血痕の主はすぐに見つかった。

女の人が壁に寄りかかるようにして荒い息をついている。

生々しい傷跡が肩口から走っており、血だまりができていた。素人目にも重症であることは明らかだった。

「す、すぐに救急車呼びますからっ…!」

僕が慌てて携帯電話を取り出そうとすると、女性がその手を掴んできた。

瀕死とは思えぬ、すごい力だった。

改めて彼女を見ると、無数の傷が至るところに刻まれている。

「…助け…」

女性がか細い声を発した。

「わ、わかってますから、手を離して…」

「わたし、じゃ…ない……ぁいつを……」

傷だらけの彼女の目線は、細い路地のさらに先を見ている。

弱々しくかふっ、と血を吐き、彼女は動かなくなってしまった。

「ど、どうする…どうすれば…」

もしかしたらまだ他にも襲われた人がいるのかもしれない。この様子だと、人を呼んでいる暇はない。彼女をそっと壁にもたれかからせると、僕は足早に路地裏を進んだ。


角を曲がるとすぐに、二つの人影が飛び込んできた。

「おい、あんたたち何やってんだ!?」

僕の出した声に、大きい方の影が振り向くと、何の躊躇いもなく、僕に向かって走ってきた。

大きな刃物を手にしている。間違いない、こいつが連続殺人事件の犯人だろう。

犯行に使われているのはナイフだと言っていたから何となくバタフライナイフのようなものを想像していたが、とんでもない。

男が手にしているそれは、普通の生活を送っていてはまずお目にかかることのないであろうほどの大きさをしていた。軍用ナイフというやつだろうか。明らかに用途を殺傷目的とするものだった。

僕は反射的に、壁に立て掛けてあった鉄パイプのようなものを手にとった。

いくら大きなナイフとはいえ、さすがにリーチはこちらに分がある。

先に当てさえすれば、なんとかすることができるかもしれない。。

躊躇することはできない。僕は思いっきり鉄パイプを振り下ろした。

柔らかい物を殴る、鈍い衝撃が手応えとして伝わってきた。

が。

次の瞬間、僕の腕に激痛が走った。

「ぁっ、うわああああああ!!!」

痛い。熱い。痛い!痛い痛い!!

僕の右肩にナイフが突き刺さっていた。男はそのままナイフを強引に押し、僕を道路に押し倒した。

動けない。なんだこの力の強さ!?同じ人間なのに、これほどの力の差はありえない。ましてや、相手の体格たるや僕とそれほど変わらないのに!

男は僕に馬乗りになり、僕の体をメッタ刺しにせんと刃を振り下ろしてきた。

「ぐっ、ああああああああ!」

動くことができない。それほどのチカラで押さえつけられていた。

何度となく僕の肉を刃が引き裂く感覚が襲ってきた。

幾度刺されたかわからないくらいだったが、急所は外されているようだった。僕がまだ生きている事が、その証拠だろう。つまり相手は、楽しんでいるのだ。

僕は、僕の命を断たんとしている男を見上げた。20代後半といったところか。もちろん見た事もない相手だった。

「う…わ…」

男の目を見たとき、僕は目線を外すことができなくなってしまった。

男の黒目が、真っ赤に染まっている。その表情は恍惚を湛えていた。

怖い。怖い。こいつ、普通じゃない。逸脱した側の存在。

「がぶっ」

呻き声のような音が聞こえ、体の上に乗っていた重さが消えるのを感じた。

「世話の焼ける…救世主だ…」

先ほど倒れていた女性だ。まだ意識があったのだ。しかし、すぐに崩れ落ちてしまった。

「できることなら…逃げてくれ…すまな…かった……」

女性の目から命の灯火が消える。

今度こそ女性は息絶えたようだった。

タッタッタと、駆け寄ってくる足音を感じた。

もう一つの人影。血が目に入ってしまってよく見えないが、シルエットから察するに小柄な女の子のようだった。

ほんの少しの間だけ息絶えてしまった女性を見ていたが、すぐに僕の方に走って来た。

「に…にげ…」

僕は最早動けそうになく、僕は絞り出すように声を発した。しかし彼女は逃げる素振りを見せなかった。

彼女が僕のとなりにかがみ込むのがわかった。

だめだ……せめて………

唇に何やら柔らかな感触を感じたところで、僕の意識は途切れた。

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