おいしいカレーの作り方
秋山平次…奈月のパートナー。
藤間奈月…平次のパートナー。
葉…クラスメイト。
物事は最適化され、伝播・普及される。
どろりとした茶色の液体をかき混ぜながら、僕は思う。
たとえば、このカレーを作るにしてもそうだ。
誰にでも作れるように最適化され、効率化され、世に広まっている。
レシピであったり、ルーであったり。さまざまな形で、普及している。
多くの物事は手順化されているのに対し、僕は納得できないことがある。
なぜ、人格は最適化されないのだろうか?
世の中には多くの人格を持った人間が存在ている。
僕がもっと小さかった頃、世界はもっとシステマチックに成り立っていると思っていた。
幼い僕の目から見た大人の世界は、理路整然としており、いうなれば、ちゃんとしているように見えた。
だから早く大人になりたいと思っていたし、同級生の子供たちが随分子供っぽく思えたものだった。
どうでもいいことで笑ったり、なんの脈絡もなく叩かれたり。
全部が同じだったら。と、思う。個性なんてなくて、全部が同じだったら楽なのに、と。
「おー、すげえじゃん。お前料理できんだな」
「あ、うん。まあこのくらいは」
飯盒の準備を終えた葉達が戻ってくると、僕の混ぜていたカレーなべを見て言った。
実際、特別に凝らない限り、カレーライスというのはそんなに難しいメニューではない。
炒めて、煮込んで、盛るだけだ。の筈なのだが、葉にしてみれば炒めるという工程が新鮮だったようだ。
「へ?だって、どうせ煮るんだろ?炒めなくても大丈夫じゃないのか?」
大丈夫かと言われると大丈夫なのだが、ひと手間加えることによっておいしくなるのである。
ただ、どういう仕組みでおいしくなるのかと言われると、うまく説明することができなかった。
「まあいいや。なあ、もう煮込むだけだろ?一緒にキャッチボールでもやってようぜ」
「いや、まだだめだよ。ちゃんとかき混ぜてないと、焦げちゃう」
「へ?カレーって焦げるの?」
葉にしてみれば、汁物とも思えるカレーが焦げるという現象が新鮮だったようだ。
"平ちゃん!"
「え?」
カレーの番を理由にキャッチボールを断った僕の頭の中に、声が響いた。
思わず声に出してしまったが、これは僕の頭の中にしか聞こえてない声だ。月からのテレパシーだった。
"あいつだ、この前の"
月の声は、緊張感を帯びている。
「あいつって…えと、誰だっけ?」
"平ちゃんが殺されかけた、あいつだよ!"




