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イカシコロス  作者: 小雨
第一章 逸脱した彼の話
3/38

凶悪的な言の葉の配列

登場人物紹介

・平次…主人公。高校生。どちらかというと幸が薄い。

「知っている者もいるかと思うが、昨日7人目の被害者が出たそうだ。登下校時は気をつけるように。特に部活動等で遅くなる者は必ず複数人で下校するようにしろ」

7人もの犠牲が出ているにもかかわらず、少々淡白とも感じる注意勧告だけでHRを終えるのはどうかと思う。

しかしクラスメイト達はどこか浮き足立っているようにも見える。少なくとも、本気で心配し怯えている者はいないように思えた。

身近な非日常的スリル、でも決して自分に火の粉は降りかからないだろうという根拠のない安心感。そんな空気が教室を満たしていた。


7人目の被害者。それは文字通り、死者が七人を数えたことを指していた。

先月からこの街では、極めて猟奇的な連続殺人事件が発生している。

あまりの残虐性から被害者がどのような姿にされていたのかは緘口令が敷かれてしまったようで、被害者が三人を越えたあたりから詳細な情報は手に入りにくくなってしまった。

はっきりしていることは、犯行にはナイフが使われているということぐらいだった。


猟 奇 的 連 続 殺 人 事 件


なんと凶悪な文字の並びだろうか。

これに勝る活字の並びは、なかなか思いつかない。

何しろ並びだけではなく、その実態まで凶悪ときている。

僕は心の中がざわついた。






一家3人惨殺

中学生の長男だけが残される



センセーショナルな見出しが様々な紙面上で踊り狂っていた頃、僕はその話題の真っ只中にいた。

なぜなら、殺された3人は僕の家族であり、残された長男というのが僕だったからだ。


その日は前触れもなく、突然やってきた。

いつもどおりの日常。いつもどおりの生活。

いつものとおり部活から帰宅した僕の目に飛び込んできたのは、顔面が右半分なくなった母の姿だった。なくなっていたのは顔面だけではない。視線を下に移すに連れ、右半分、左半分、また右半分…と、交互にえぐり取られたようになっていた。

廊下から壁から、赤い世界が広がっている。

僕は声をあげることもできずに、その場にへたりこんでしまった。

震える足を引きずりながらリビングに進むと、ソファーに父が寝ていた。父の手と足は、それぞれ逆に差し込まれていた。

さっきから聞こえている訳のわからない雑音が自分の声だということにも気がつかず、僕は二階の妹の部屋へ向かった。妹とは歳が6年離れていて、お兄ちゃんお兄ちゃんと後ろをついてくる姿が可愛かった。

妹の部屋ははははははははあはh




一時は世の中の注目を一身に集めていた。犯人像から凶器まで、情報が何一つと言っていいほど特定されなかったのだ。ある人は単独犯だと主張し、またある人は複数犯だと主張した。わかっていることは、遺体から推測される犯行時刻ぐらいのものだった。しかしそれすらも捜査を混乱させることになってしまった。犯行時刻から逆算しても、時間内にこれだけのことをするのは、常人には不可能だというものだった。

得られる情報に対して導き出される答えが、どうにもちぐはぐだったのだ。


世間というものは熱しやすく冷めやすいものなのか、犯人が一向に捕まらずに事件の進展も見られないとなると、次第に関心事は芸能人の離婚だのお笑い芸人がなんだのといった方向へ移り変わっていった。

次々提供される情報の洪水。数ヵ月後には、あぁそんな事件あったねぇなんて言われるんだろうなと思った。

同情しない人間はそれほどいないだろうが、本気で悲しみ憤っている人間もそれほどいやしないのだ。だって、関係ないしね。対岸の火事だもの。



片田舎の小さな町で起こった事件。情報は瞬く間に広がった。

道ですれ違うだけの全く知らない人間でも、相手は僕の事を知っているようだった。

実際、様々な人間が僕に声をかけてきた。


過ぎたことだ。いつまでも立ち止まっていても仕方ない。前を向け。

塞ぎこんでいたって仕方ない。亡くなった方々も君のそんな姿は見たくないだろうよ。


そんなこと、わかっている。だけどそれを受け止めるのには時間がかかる。

偉そうに宣ってくる輩は言いようもなく腹が立ち、脊髄反射的に手が出ていた。

僕に友達がいなくなったのも、この時期を境にしてだ。

現実感の無い現実が毎日続いていった。


一人ぼっちになってしまった僕は遠縁の親戚に引き取られ、知る者のいない都内の高校へ進学する事になった。

親戚の家から通うのは困難な距離だったため一人暮らしをすることになったのだが、体よく遠ざけられたのだと感じた。



高校という新たなステージに移ってからも相変わらず僕は現実を生きられないままで、声を出すことさえ億劫だった。

シイタケが話しかけてくるまでは。

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