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イカシコロス  作者: 小雨
第一章 逸脱した彼の話
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ピグマリオン

登場人物紹介

平次…主人公。高校生。研修が終わった。

黒…平次の研修を実施した。

「ごめんねー、へーじ君の歓迎会なのにわざわざ抜けてもらっちゃって」

そう言う黒のセリフには、それほど感情がこもっていない事は明白だった。

あくまで形式的に、といったところだろうか。


柊さんが去って間もなく、もはや聞きなれてしまったゆるーい声が耳に飛び込んできた。

声の主は黒だ。

「ちょっといいかな?事務的な伝達事項にいくつか漏れがあったから、ちょっと私の部屋まで来てくれると嬉しいんだけど」

そう言うと黒は、僕の返事なんて待たずにバーを出て行った。



黒について入った部屋は、四方を書架に囲まれていた。部屋の中は紙とインクの独特な香りに包まれていた。

黒は、その膨大な本やファイルの中から幾つか手にとっては再び戻すという動作を繰り返していた。

「ところで、使う武器は決まったかい?」

そんな動作の合間を縫って、黒は話しかけてきた。

「はい………ハンマーでお願いします」

「あ、そう。結局それにしたんだ」

最初に言われてからずっと考えていたのだが、正直決めかねていた。

当初は刀剣の類を考えていたのだが、雪月花のメンバーと会ってからそれは候補から外れてしまった。柊さんは刀を使う。チーム内で様々なバリエーションがあったほうが対応できる範囲も拡がるだろう。

花先輩と釵丸の使用武器は聞いていなかったが、コンビの特性上被る可能性は少ないと思われる。後は自分の好きなように決めればいいと思うのだが…。

僕には剣術、槍術、射撃といった経験は無い。だったら月に言われたように、手軽に高威力の攻撃を行える武器の方がいいのではないかと考えたのだ。

「じゃあ鑢子博士に申請出しておくから。どんな武器がくるかは、まあお楽しみってところだね」

「わかりました………もう戻ってもいいです?」

「あともう一点…はい、これ」

そう言うと黒は、書架から一冊のファイルを取り出し、僕に手渡した。

「これは…」

僕はパラパラとページをめくった。

何気なく目を通していたのだが、ページをめくるに連れて陰惨な気分が加速して行く。

「それはコロスモノが行った悪行の数々が記載されているリストだよ」

あくまでわかっている範囲だけどね、と黒はつけくわえた。

N県の連続通り魔事件。K県の連続爆破事件。どこかで聞いたことがあるような事件から、全く知らないものまであった。

「社会への影響力を鑑みて、世に出していない事件もたくさんあるんだよ」

黒の補足が入る。

流し見るようにページを繰っていた手が、止まった。

ひとつの事件に釘付けになる。


N県Y市一家殺害

中学生の長男のみ生存


見出しの下に、事件の詳細が事細かに記されている。


これは、僕の、家族に起こった事件だ。

「君の家族を殺したのは、セカンドだ…最後の章を見てくれるかな」

黒に言われるがまま、僕はページをめくった。

「それは現在判明しているセカンドのリストだよ。その通り名と、使用する能力を記してある。へーじ君の家族を殺したのは、『虫食い』と呼ばれているセカンドだ」


虫食い


黒の言葉が脳内を駆け回り、徐々に染み渡るようにその意味を理解する。

心の中にざわざわとした感情が生まれ、微かに、しかし確実に広がっていくのがわかる。

「強い意志を内包する復讐。最早それは正義だ」

気がつくと、黒は目と鼻の先に立っていた。

「へーじ君、君は言ったよね。人を殺した人間は、例え何をされたって文句は言えない、と」

黒から発せられる言葉は、僕の四肢に纏わりつくようだった。

「殺人というのは、有無を言わさずその存在を否定する行為だ。それも最上級のね。目には目で、歯には歯で。同害報復を謳った某法典ではないけれど、私はあの時の君の答えを支持するよ」

僕の最も身近な人たちを奪った存在。その日以来、僕の中には憎しみが沼底の泥のように体積していた。僕が抱いている憎しみの濃度は、例えどれほど時がすぎても本質的に希釈されることはないのだろう。

「コロスモノを殺すんだ、へーじ君。君にはその力があり、資格がある」

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